縁結び女神のノルマで悪役令嬢に転生、婚約破棄されたけど幸せになります
日本で平凡な会社員として、お一人様ライフを満喫していた中。
突然の交通事故で命を落とした私は、面倒な女神様の都合により、異世界に転生した。
「今期のノルマ達成のため、あなたには誰かと恋に落ちてもらいます。私の神としての存続に関わるのよ。お願いだから協力して!」
目の前にいる、長い黒髪に天女のような羽衣を纏った女神様。
彼女曰く、日本のとある山村にて祀られていた、縁結びの神様らしい。
その縁結びの神様が、なぜか私に「自分がサポートするから、恋愛してください」と言ってきたのだ。
「いや、何で縁結びの神様が人間にお願いしてるの。立場逆じゃないですか?」
「営業よ! 仕方ないじゃない。日本は八百万の神々の国よ。どうしたって、知名度のある神に信仰や信者が集まっちゃうの。私たちみたいな山奥とかの小さい祠に祀られているマイナー神は、仕事を自ら取りに行かないと信仰が途絶えちゃうのよ」
いや、神の世界もそんな感じなの。
そんな現実、知りたくなかったわ。
「ちなみに信仰が途絶えたら、どうなるんです?」
「信仰を失った神は、祟り神とか怨霊の類になるわね。神と怨霊って紙一重なのよ」
サラッと笑えないことを笑顔で言われた。
言葉通りの『神としての存続に関わる』案件じゃん。
「でも、何で死んだ私のところに来たんですか。死んじゃってたら、信仰も何もないですよね」
「転生してからだと、他の神に顧客——じゃなくて信者を持っていかれるのよ。だから転生前の状態で確保するのが一番確実なの。てなわけで、あなた今から私の信者になって」
『あなたも信者になりましょう』という勧誘だった。
それも神様からの。
「あなたの恋が実れば私の神格が上がる。あなたは好きな相手とハッピーエンドを迎えられる。まさにWin-Winの関係よ♪」
どうしよう。だんだんこの女神様が胡散臭く見えてきた。
ていうか全然Win-Winの関係じゃないわ!
要はこの女神様の都合と利益のために、私に恋しろってことでしょーが。
「みんながみんな恋愛したがっていると思わないでください! リアルの恋愛とか面倒だし嫌ですよ!」
「そう言わずに。転生先は異世界だから。イケメンがよりどりみどり! (運が良ければ)美少女にだって転生できちゃうわよ」
「な、なんですって! いやいや、ちょっと待って。異世界って、あなた日本の神様ですよね?」
「日本だと仕事が少なくてね。私みたいなマイナー神は、国境や世界を越えて仕事をとりに行かないと生き残れないのよ」
「神の世界ってそんな過酷なの!?」
どうやらこの女神様、かなり切羽詰まった状況らしい。
そんな重たい事情を抱えた神様を連れて、転生したくないんだけど。
ああ、でも⋯⋯異世界にはちょっと心惹かれる。
生前は異世界転生もののアニメや漫画が好きだったから、憧れていたんだよなぁ。
「異世界でも、あなたの縁結びの神様としての力は発揮できるんですか」
「問題ないわ。神は信仰さえあれば、どんな世界でも力を振るえるから」
「恋が実らなかった場合のデメリットは」
「私の業績に響くだけで、あなたの人生に影響はないわよ」
ふむ。ならいいか。
まあ、ないよりマシな転生ボーナスくらいに思っておこう。
恋が成就しなければ、異世界生活を満喫すればいい。
こうして、女神様の提案を飲んだ私は、異世界へ転生したのだった。
そして——。
「オリヴィア・ビットナー、おまえとの婚約を破棄する!」
「⋯⋯え?」
「俺は真実の愛を見つけた。おまえとの関係は今日限りで終わりだ!」
私はとある異世界の悪役令嬢に転生し、夜会で王子から婚約破棄を言い渡された。
呆然としたまま、夜会の会場を後にした私は⋯⋯。
「話が違うでしょうがー!」
人気のない王宮の庭で、女神様に全力で不満をぶつけていた。
なお、女神様の姿は私にしか見えない。
はたから見たら、今の私は一人で叫んでいるヤバイ令嬢である。
「仕方ないでしょう! 縁結びって、あくまできっかけ作りに過ぎないのよ。結んだ後の関係維持までは管轄外なの。あとは当事者の努力次第」
「それは分かるけど! だからって、なんで転生先が乙女ゲームの悪役令嬢なのよ。スタートから婚約破棄っていう縁切り爆弾つきのハードモード人生じゃないの!」
「転生先はランダムなんだからしょうがないでしょ。ほら気持ち切り替えて、次に行きましょう!」
簡単に言うなー!
王子に婚約破棄されたせいで、この先まともな縁談がくる可能性ゼロなんですけど!
おまけにうちの両親は野心家だから、婚約破棄が知れたら勘当確定よ。
私の人生詰んだんですけど!
「仕方ないわね。私もそろそろ、結果を出さなきゃクビになりそうだし。ここは本気を出してあげるわ」
「な、何か加護みたいなものが使えるの?」
「見くびらないで。神格が低い私でも、食パンくわえて走ってたら角で異性とぶつかり恋に落ちる(かは知らん)イベントくらい起こせるわ!」
いつの時代の少女漫画だあぁ! そんなんで恋に落ちたら苦労しないわ!
うわぁぁん、やっぱりこんな女神様の提案に乗るんじゃなかった。
泣きながらその場を走り去る。
その途中で角から現れた人影とぶつかってしまい——。
「危ない!」
倒れそうになった体をさっと支えられる。
「大丈夫ですか?」
「あ、ありがとうございま⋯⋯」
お礼を言いかけて固まる。
目の前にいたのは、銀髪に青い瞳の、とてつもないイケメンだった。
この人は——さっき私を振った第二王子の兄。
この国の王太子殿下だ。
「あなたはオリヴィア侯爵令嬢!先ほどは愚弟が失礼を致しました。その……あなたのことは以前から気になっていたのです。もしよろしければ、お茶でも」
「へ?」
頬を赤らめながら、こちらをじっと見つめる王太子殿下。
何この急展開!?
後ろで女神様が歓喜して飛び跳ねている。
「やったじゃない! どうよ、私の力もなかなかのものでしょう? さあ、サクッと次の恋に行っちゃいましょう!」
——数カ月後。
あれから平和な日々が続いている。
王子から婚約破棄された私は、両親から勘当されて家を追い出された。
今は町で平民として働いている。
宿屋の下働きをしながら、そこで知り合った男性と交際中である。
「なんでよぉぉぉ!」
背後でうるさい女神様を無視しつつ。
今日も恋人のためにせっせとお弁当を作っている。
「何をそんなに嘆いているのよ。恋はちゃんと成就したのだから、女神様にとっても問題ないでしょう」
「成就はしたけど! 難易度の高い相手との方が評価も上がるのよ!あなた、なんであのイケメン王太子との出会いを蹴って、村人Aにいくのよ」
「当たり前でしょうが! なんで王子で一度ひどい目に遭ったのに、次も王子に行こうと思うのよ。王族は婚約破棄された時のリスクがでかいのよ! もう王子は懲りた。私は穏やかで優しい村人Aさんと結婚して、身の丈にあった幸せを築くの」
「いや、まあ⋯⋯あなたが幸せなら縁結びの神として文句はないけどさ。王族との縁を結んだって実績は、ちょっと欲しかったなぁ」
祝福か愚痴かのどらかにしてほしい。
まあ、縁結びにはしっかり協力してくれたから、祝福はしてくれているのだろう。
なんだかんだ憎めない女神様だ。
「あなたには感謝しているのよ。一度目の婚約破棄で現実が見えたし、村人Aさんに『食パンくわえて異性とぶつかるイベント』を五回も起こしてくれたおかげで仲良くなれたから」
「⋯⋯あれは同じ相手に何度も起こすイベントじゃないんだけど。まあ、いっか。今度の縁は逃がしちゃだめよ」
女神様がふっと微笑んだ。
思っていたのとはだいぶ違ったけれど。
私は縁結びの女神様の助力によって、平穏な幸せを手に入れたのだった。




