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敬老の日がなくなるまで ―――あるいは明日の話

1話に至るまで

「敬老の日」という祝日の呼び名が変わってから、十数年が経った。



今からほんの少し昔、2030年代の中頃まで、日本には「敬老の日」という名の祝日があった。

これは、「多年にわたり社会につくしてきた老人を敬愛し、長寿を祝う」という目的で定められた祝日だ。

この日になると、「いつまでも元気でいてね」という言葉が日本中にあふれていた。

誰もが「長生きは素晴らしいことだ」と、当たり前のように信じていた。


しかし、日本社会は大きな問題を抱えていた。生まれてくる子どもの数がどんどん減っていく「少子化」と、老人の割合が増え続ける「高齢化」。

この二つの大きな変化に、日本は対応することを放棄した。

その結果、社会を支えるヒトやモノが足りなくなり、社会はゆっくりと、しかし確実に崩壊への道をたどっていった。


まず、食べ物を手に入れられなくなった。

お米や野菜を作る人が少なくなり、家畜を育てる人が少なくなり、魚を取る人が少なくなり、それらを店まで運ぶ人も少なくなり。

お店を建てる人も、そこで商品を売る人も少なくなったのだ。


はじめのうちは、外国人労働者に頼ろうとした。

しかし、その頃にはひどいインフレが起こり、日本円の価値は紙くず同然になっていた。

かつて日本が支援していた国々は、日本が凋落したことで相対的に日本を上回る経済大国になっていた。

さらに、日本人の中に外国人を良く思わない考えが広まったことで、日本のイメージは最悪に。

外国人にとって、日本で働くメリットは何もなくなってしまった。


外国から食料を輸入しようとしても、海運会社は日本に寄り付かなくなった。

日本から外国へ運ぶ荷物がないため、日本に来る船は片道分の運賃しか稼げず、大きな損をしてしまうからだ。


こうして、食べ物を作る仕組みも、運ぶ仕組みも壊れてしまい、日本人はお金を持っていても食べ物を手に入れられなくなってしまった。


食べ物以外でも、人や物が足りない影響はあらゆる場所に及んだ。

日本の社会は、あっという間に崩れ落ちていった。

1億を超える巨大な人口を支える仕組みが崩れてしまった。

多くの人々にとって、毎日は地獄そのものだった。


こんな状況になっても、最初のうちは、日本人の心から「老人を大切にする気持ち」が消えることはなかった。

人々は、わずかに残った食べ物を老人に譲り、数少ない薬や医者も、老人のために優先的に使った。


その結果、どうなったか。

老人以外の人たちは、お腹をすかせ、病気やケガをしても後回しにされた。老人の治療が終わるのを待っている間に、多くの人が命を落としていった。



「日本を立て直すためには、老人を優先する社会を変えなければならない!」



そう叫ぶ若者たちもいた。

しかし、その声が届くことはなかった。

選挙で投票する人のほとんどが老人だったので、選挙の力で世の中を変えることは不可能だったのだ。


この頃、若者たちは給料の7割もの大金を「社会保険料」として納めていた。それは、老人の年金や医療費・介護費のために使われるお金だった。


「老人を助ける福祉は、善いことである」


このままでは国がダメになる。誰もがそう気付きながらも、「福祉の仕組みを見直そう」とは、誰も言い出せなかった。「善いこと」を止めると言い出したら、悪者になってしまう。自分は悪者になりたくない。

きっと誰かが何とかしてくれるだろう。誰もがそう思って、見て見ぬふりをした。



しかし状況は改善せず、「もう、この国は終わりだ。」

そのような空気が国中を覆った時、社会に新しい、そして恐ろしい変化が生まれた。


老人が命を狙われる事件が、少しずつ増え始めたのだ。

そして、その犯人に対し「よくやった」と褒めたたえる人まで現れた。


警察もひどい人手不足で、まともに機能していなかった。

ほとんどの事件で犯人は捕まらず、インターネットには、犯人を英雄扱いするようなコメントがあふれかえった。


こうなると、老人たちも、自分たちの身が危ないと感じ始める。

「命には代えられない」

そう考え、少しずつ考えを改めるようになった。

もともと、国の支援がなくても自分の貯えだけで十分に暮らしていける老人が多かったこともあり、選挙の結果は大きく変わっていった。


かつては誰にも相手にされなかった、若者向けの政策を訴える政党が、あっという間に人々の支持を集め、国のトップに立ったのだ。


新しい政権は、その高い支持率を追い風に、次々と古い仕組みを廃止していった。それらはみな、日本が子どもを多く産み、日本に人があふれていた時代に作られた、手厚すぎる社会福祉の仕組みだった。


その改革の一つとして、「敬老の日」も廃止されることになった。

「敬老」という言葉が、「老人だけを特別扱いしなければならない」というプレッシャーを国民に与え、社会のゆがみを生んだ、というのがその理由だった。


そして、月日は流れ――。

今年も、かつて「敬老の日」と呼ばれていた日がやってきた。





ここから1話に続く

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