レポート9:容疑者について
短い気がしたので今回の5月30日は二本更新でお届けしております。
水都王城の門まで行き受付に話をすると思ったよりかは何事もなく通して貰えた。どうやら本気で手合わせをしたかったようだが、
「まあ、案の定いないわな。」
「団長は、いまその...」
「姫様の誘拐の案件ですか?。」
「はい。やはり既に噂になっているのですね。」
騎士団長のウィーネさんは不在だったため副団長の女性が応対してくれた。名前はミルクさんと言うらしい。やさしそうな柔和な面立ちと体を丸ごと包むような大盾。まさに母なる何とやらといったところだろうか。
「知ってて来たのですか?」
「まあダメ元ですね。一応今日の約束でしたから勝手にすっぽかすのもという。」
「そういうことにしておきましょうか。折角来たのですお茶でも飲んでいってください。」
そう言いながら出されたお茶。そこからはふんわりとハーブのような香りが広がり少し肩の力が抜ける。
そういえば風呂に使っていたハーブも似た香りがしたなとお茶を手に取り、ほんの少し。ほんの無意識でお茶を解析する。
【解析結果:毒性あり】
即座にティーカップをミルクに投げつけると割れる音と共に大盾を濡らす。
「何のつもりだ。」
「あらあら。気づかれてしまいましたか。」
盾に着いたお茶を軽く振り払うと席につき新しいお茶を用意する。
「軽い試しです。誘拐事件が起きた直後に現れた来訪者。警戒するのも仕方がないでしょう?」
「...嘘がお上手ですね。ほんとは気が付いているのでしょう。」
一貫して浮かべられた柔和な笑みから、確かに感じるプレッシャー。しかし、それはこちらに向けられているものでは無いのは分かる。
「貴方から口にしてみては?」
改めて出された、今度は毒性のないハーブティーを軽くすする。
「質問です。誘拐事件の起きる前後、姿をくらませた...あるい不審な人物はいませんでしたか?」
「今朝、姫様が失踪するのと同時に昨夜から王城所属の魔術師との連絡が取れていません。」
「おやおや。まさかほんとにいるとは。...ん?今朝?」
「はい。今朝です。」
想定外の情報。てっきり数日、長ければ数週間前から誘拐されているものと思ったが。いや…その場合は騎士団長さんも手合わせを申し込む暇もないか。
「そりゃ怪しまれるわけだ。失踪した前日に予定なしの来訪者が。しかもそいつが当日にまた来たんだから。」
「犯人は現場に戻ると言いますしね。ですが…どうやら杞憂だったようです。」
「初手投獄じゃなくて安心しましたよ。…その魔術師の自宅は分かりますか?」
「いいえ…彼は実家もなく王城の研究室に住んでいましたから。」
「ふーむ…攫ったにしても早くても昨日の夜中…
だとすればまだ何か痕跡があるやも。」
「…貴方は、何故姫様を探しているのですか?」
「ふむ…約束が果たせないからですかね。」
「約束?」
「騎士団長とは、手合わせの約束をしていましたから。この事件が解決するまではきっと会えないでしょう?」
「…その通りですね。我々も調査を勧めます。何かあれば私にご連絡を。可能な範囲でお手伝い致します。」
「かしこまりました。…早速で悪いのですが魔術師の部屋を調べても?」
「はい。ご案内致します」
ミルクさんの後について行きついに何とか王城内部に入り込むことが出来た。王城の内部を調査の名目で調べるだけのつもりだったが…まあ結果オーライ。頑張って見つけて恩でも売るとしよう。