レポート8:朝帰りの代償について
「私に買い物に行かせて自分は朝帰りですか。」
「いやそれは気絶してて...」
「理解しています。マスターのいうことですから。川につき落されて大きなお風呂を堪能した挙句、一泊してその間私に何の連絡もなあったことも理解していますとも。」
大浴場で転び、目が覚めた頃にはすっかりお日様こんにちは。なんやかんやあり帰ってきた時扉を開けた瞬間腕組みして待っていたモノリスに捕まり今に至る。
「...なにか、ほしいものはないか?何でも買ってやる。」
「この前面白いものを見つけまして」
と誘われやってきたのは魔道具屋。そこにあったショーケースにしまわれた小さな箱のようなもの。
「...何これ。」
「マスターの固有能力のストレージと似た効果をもつ魔道具です。持ち物をマスターに全部任せるのはいないときに問題があると今回のことで学びましたので。」
何となしに値札を見れば0が1,2,3,4,5
「10万...!?」
「妥当な値段だと思います。日常においても旅においても積載量に対してスペースを取らないのは大きいので。」
「それはそうだが...」
「マスター?」
「...わかった。なんでもといったからには約束は守らなくてはな。」
それにモノリスの言うことも一理ある。カウンターに声をかけショーケースから魔道具を出してもらう。
見かけは5cm四方程度の装飾の施された大理石の箱。最大容量は120kg程度。まあそこそこだが
「これ、生き物も入るのか」
どうやって圧縮してるのか。生体に影響はないのかなどなど聞きたいことはあるがまあ一旦おいておいて会計を済ませる
「持ち主の登録はなさいますか?」
「するとどうなる?」
「権利のあるもの以外がその魔道具を使用できなくなります。」
「権利者は後から増やせるのか?」
「ええ。」
「なら頼む」
追加で一万を払い登録している間。店内を興味深そうに眺めるモノリスを逆に眺めつつ腰かける。
深淵がのぞくときなんたらかんたらというやつだ。
「彼女さんですか?」
店主をしている気の良さそうな老人が話しかけて来る。恐らくあちらも手持ち無沙汰なのだろう。
「妹だよ。血のつながりはないがね。」
「いやはやそうでしたか。これは失礼しました。」
「気にしなくていい。実際似てないしな。」
「気を付けてくださいね。近頃物騒ですから、あのように見目麗しいお嬢さんでは誘拐されてしまうかも。」
「そこまで物騒なのか。」
「ここだけの話なのですが...」
店主が耳打ちするようにして伝えてきた事実。それはとても驚愕するに値するものであった。
「何でも、姫様が誘拐されたとか。」
水都は王政であることはいまさら言うまでもないが、一つだけ変わっていることがある。
現在その跡取りが一人しかいないのである。そのためか姫に関する情報は厳重に秘匿されており、分かっているのは女性であるということのみ。そんな要人が誘拐されたとあれば、相当な一大事である。
「もし見つけられたら相当な報酬があるでしょうな。」
「そうだな。ただそれと同時に姫の正体を知るものとして消されそうだがね。」
「違いない。」
完成した製品を受け取り自宅に帰り席に着くと即座に互いに向かい合って座る。
「モノリス。話は聞いていたな?どう思う?」
「恐らく内部班の犯行かと。」
「その根拠は。」
「誘拐されたとして、一国の姫が、しかも情報を秘匿されているゆえに誰かも分からない存在をピンポイントで誘拐したとは考えにくいです。」
「同意見だな。超低確率の偶然の可能性も考えられるが...まあほぼ無いと思ってもいい。」
「次いで気になることは失踪ではない事ですね。」
「...言われて見ればそうか。ただいなくなったなら失踪といううわさが立つはず。
誰か同時期に行方をくらませたか、目の前で攫われるへまをしたやつがいたか。」
下したばかりのカバンをひっつかみ、外套を一度脱いではたくとまた立ち上がる。
「どこに行かれるのですか?」
「王城へ。丁度ツテがあるから少し調べて来る。」
「今日は朝日より早く部屋にいてくださいね。」
「善処する。」