レポート7:騎士団について
水都:ヒューマリンは円形状に区画分けがされている。その中心部。そこは王城の区画。
見かけは平凡な純白の石材でできた城。
敷地を囲むように高い城壁がそびえ、そのまわりには堀が掘られており一切の侵入を許さぬ圧がある。
とはいうものの王城の中に入れないだけで城壁まわりの散歩は結構できたりするので僕は今王城の外周をのんびりと歩いている。
「いい天気だなぁ。」
モノリスに買い物任せて自分は散歩かと怒られてしまいそうだが、ちゃんとこれでも仕事をしているのだ。
モノリス・ギアを奪取するためには王城への侵入が必要不可欠。
しかし入口は一か所しかない。流石に正面突破はとても厳しいので、その他の部分から侵入できるところを捜しているわけである。
「...しっかしツタの一つもないな。細かく点検でもしてるんかね。」
水路を挟んだ向こう側の城壁をいくら見てもヒビの一つも見つかりやしない。
脱出に関しては城壁上の見張り台に見張り台が見えるため、そこに続く連絡通路のようなものの一つや二つあるであろう。そのあとは水路に飛び込むなり何なりすればいい。
しかし外から入るとなれば話は別。上ったところで見つかるのは目に見えている。そもそもよじ登るとしてもそのとっかかりになりそうな凹凸も見当たらない。
「うーむ。正面切って入る方が結構まともだったり...?いやしかし...」
そんな風に考えながら歩いていたのがよくなかったのだろう。
普通に考えればわかることだったのだ。王城まわりの水路沿いに残された馬の蹄鉄の跡や、軽く揺れる地面の振動の意味が。
「危ない!」
そう聞こえた時には僕は馬に跳ね飛ばされ、水路に身を投げ出していた。
見ればどうやら乗馬の訓練中にウマがあらぶったのだろうか。今なおこちらを見て荒ぶる馬と、それを追いかける騎士。そして落ちていく僕。
背中への強い衝撃とバシャンという水に物が落ちる音。だんだんと沈んだ行く体。
何とか泳ごうとするが服がまとわりつく上にそもそも泳ぎが得意でない僕がもがいてもまさしく無駄なあがき。だんだんと息も持たなくなり意識が薄れていく。
走馬灯が見えてきた。こんなところで終わるなんて笑い話にもならないな。
目を覚ませば動いている景色。
「..へくちっ。」
思わず寒さにくしゃみが出る。
「!目を覚ましましたか!!」
どうやら今まさに運んでいたところなのか担架が下ろされ2人の騎士が覗き込む。
全身を覆う鎧の胸には水都の刻印。騎士団所属の物であろう。何とか起き上がると慌ててこちらを支える。
「ええ…誰です。」
「水都騎士団のものです。貴方は…訓練中のこちらの不手際により水路に落ちて気を失っていまして…」
言われて思い出す気絶する前の様子。
なるほど、暴れ馬に蹴り飛ばされて水路に落ちたのか。通りで全身が痛むわけだ。
「なるほど…ここは?」
「水都王城に備えつえられた騎士団の本部です。」
「…なるほど。まあ多分大丈夫…へくちっ」
濡れた服が体温を奪ってい気思わずくしゃみが出る。
「大変です…!お召し物乾かしている間騎士団の浴場をお使いください。」
「風邪ひくよりかはマシか…」
そうして騎士団の浴場に行き、絶句した。
あまりにも、広い。そりゃ騎士団全員分考えればそのくらいの広さがあるのは仕方がないとも言えるだろうが、正直広すぎる。軽い貴族気分だ。
恐らく30m四方位の大きさのある大浴場。
とりあえず体を洗い、浴槽に浸かるとなにか効能のあるものを入れてるのかふんわりとハーブのような匂いがする。
「…騎士団の人に何使ってるか聞いてみるか」
「そんなに変わったものは入れていない」
突如響いた声。左手に桶を掴み咄嗟に距離を取ろうとしてお湯に足を取られ転ぶ。
沈む。沈む。もがくがダメ。
突如抱き上げられ水から浮上する。
「済まない、驚かせるつもりはなかったんだ。
大丈夫かい?水を飲み込んでたりは?」
「けほっ…大丈夫です。」
抱き上げている人を見る。整った顔立ち。
綺麗…というかかっこいい。中性的な顔立ちだが確かな芯を感じさせる。少し高めのハスキーボイスも心地よく耳に入ってくる。恐らく女性に一目惚れされることの多いタイプなのだろうと間近で見てぼんやり思う。
抱き寄せている体はよく鍛えられており筋肉質であり正直抱き寄せられていて、みじんも身動きが取れない。
「良かった。君…泳ぐのは苦手なのかい?」
「お恥ずかしながら。水に沈むとパニックになってしまって……」
「恥ずかしがることはない。そういう人もいるさ。」
「その…下ろしてもらえると嬉しいんですが」
「ああ!すまない!」
ようやく下ろして湯船に浸かり直すとその男性は横に浸かる。
「君は…見ない顔だね。」
「僕は少し巻き込まれて浴場を借りただけですから」
「…ああ。先程報告にあった…うちの団員が迷惑をかけたね。」
「言い草的に団長とかですか?」
「ああ。水都騎士団長。ウィーネだ」
「通りで…」
明らかな強者の気配。とてつもなく洗練された筋肉。僕には筋肉好きの気概はないがそれでも見惚れてしまうほどだ。
「…流石にそこまでまじまじと見られると恥ずかしいな。」
「あ、ごめんなさい…とても、仕上がった筋肉だったので」
「まあ、鍛えているからね。」
「羨ましいなあ」
「君は…どちらかと言えばしなやか、というのが正しいかな?先の身のこなしも水に足を取られさえし中れば見事なものだった。」
「外での活動を生業としてるので…」
「危なくないのかい?」
「危ないですがリターンも大きいですから。」
「でもご両親とかは心配するんじゃ」
「生まれながらの孤独ですから。」
「…すまないことを聞いたね。」
「良いですよ。気にしてないので。」
しばしの沈黙。きっと今彼の頭の中ではどのような話題なら問題ないか必死に考えを巡らせているのだろう。両親のいない子供を腫れもののように扱うのは世の常だ。
「…君、名前は?」
「ああ、そういえば名乗ってなかったですね。
過去を求めると書いて過求と言います。」
「この国では中々…珍しい名前だね。」
「そうですね。漢字を使うのはもう廃れた文化ですから。」
「それもそうか。サラマンダー族もカタカナばかりだし...ノームもカタカナが基本か。」
「他の種族にあったことがあるんですか?」
「ああ。公務で何度か。」
「騎士団長ともなるとしんなこともあるんですね。なんだかうらやましいかも。」
「変わった子だね。基本的には他の種族と関わりたくないというのが主流な意見だと思っていたが。」
「その認識で間違いないと思いますよ。」
「なるほど。その理由は君の名前に関係あるのかい?つけてもらったのが外の人とか。」
「いえ…不思議な話なんですが物心着いた時からなんでかそういう名前だと自認してまして…」
「…もしかしたら母親か父親の名付けた時の記憶が無意識にあったのかもしれないね。」
「かもしれませんね。」
もしそうだとして両親は何を思ってこのような名前を付けたのだろうか。ぜひいつか聞いてみたいが...
おそらくこの世界で生存している可能性は低いのだろう。
「そろそろ僕は失礼しますね。」
「君。明日は空いているかい?」
「出会って当日にナンパですか?ふしだらですよ。」
「そう取られても仕方のない発言だったね。君のあの身のこなしを見て一度手合わせがしてみたくなった。予定が空いていればぜひ来てくれ。」
「行けたら行きます。」
「それ来ないやつ」
立ち上がり出ようとするとのぼせたのか眩暈がし、ふらつき、前のめりに倒れていく。
モノリスへ。帰りは遅くなりそうです。