レポート5:常識について
モノリスとしばらく暮らして分かったことがある。
モノリスは馬鹿だ。いや、バカと呼ぶのも間違いかあ。
常識がない。原因は単純明快。長い長い恒久の時間の間の社会の常識の変化である。
なので今日はモノリスに常識を教えようと画策したわけだ。
「マスター話とは何ですか?」
「モノリス・ギアのありかについて。心当たりがある。」
「本当ですか!?いったいどこに。」
「まあまあ落ち着け。そのためにまずは世界について詳しく教えようと思ってな。」
「世界について?」
「ああ。モノはこの世界について何も知らないだろう?そのありかについて話すうえでその基礎知識は必須なんだ。」
「…かしこまりました。よろしくお願いいたします。」
渡された資料を受け取り席に着くモノリス。何故かとても嫌な顔をしているのは気のせいだろうか。
「さてまずは身の回りのこと。僕らの住まう国。水都ヒューマリンについてだ。」
国内の地図を広げる。王城を中心にしていくつも円が重なるように区画わけがなされ、中心からは枝が伸びるように水路が伸びてている構造。
「なんだか奇妙な構造ですね。」
「ああ。こうして国中に水路が張り巡らされてるゆえに基本的には水路での運搬とかが主になっている。何なら泳ぐ場合もあるくらいだ。」
「それは...さすがに。」
「走るよりも泳ぐ方が早いんだ。まあ個人差はあるがね。」
「マスターの場合は。」
「僕は泳ぐのが死ぬほど下手だから走るかボートだな。」
「雑魚」
「やるかおおん!?」
思わず立ち上がるが悪気はないと心落ち着け座り直す。
「仕切り直して...モノリスや。この水路の水、どこからきていると思う。」
「常識的に考えれば海や湖などの巨大な水源でしょうか。」
「それが普通だな。だがこの世界はもっと奇妙だ。」
取りだしたるは一枚の写真。その写真には一本の半透明の六角推が移っておりその中では様々な歯車が見うけられる。
「マスター、これは」
「この国では水神の水晶と呼ばれている。この水都の水すべてこの器用な物体から成り立っている。
おそらくこれが、モノリス・ギアの入れ物だ。」
「そう考える根拠は。」
「この国では成人の日に一度だけ、これに触れる機会がある。
これに触れながら水神に宣誓を行うって名目でな。僕がこれに触れたときに『』分析』してみたが解析不能だった。モノリス、お前と同じだ。」
「...なるほど。今まで解析不能だったものは私とそれだけなのですね。」
「ああ。だからほぼ確定とみてもいいだろうな。無限に水の湧き出す歯車...を内包する物体。モノリス・ギアの内容とも一致する。」
「...それはどこに?」
「水都の中心。王城のど真ん中だ。」
「…奪還、無理では」
「まあ正面から行ったら間違いなく豚箱エンドだわな。」
「何か策は」
「現状どうしようもない。だからしばらくは情報を集めることに成る。」
「…それで今回常識を叩きこむというお話に?」
「まあそういうことだな。」
「ならばもっと学びましょう。この国ならず世界までも」
「いい心がけだが残念なことに現実はそうはいかないんだ。」
「と言いますと」
「肉災以降、既存の世界の情報はまともに役に立たに上にほぼほぼ国交は成り立っていない。」
地図を改めて見直すが確かに他の国が書かれていない。
「長距離移動のリスクが高すぎるからですか。」
「ああ。単純に肉塊も危険だか、それ以上にそこから湧き出る妙な生き物、便宜上、異形と呼ばれてるが、まあの方が危険でな。肉塊に関しては最悪全身布で包めば何とかなるんだが異形はそうもいかない。」
「襲われて肉体が露出したら危険度爆増と。」
「そういうこと。ほかにもエルフが姿を消したりノームが地下に国を構えたりでなかなか、一筋縄じゃ行かない。」
「何処ならいけるのですか。」
「恐らく、水都からかつての地図だと比較的ちかくて今でもそこそこ見かけるサラマンダー族の国。火都サラマンディアが一番可能性があるだろう。」
「そうですか...それにも確証はないんですよね。」
「だからこの国で十分な装備を整えてから、水のギアを確保。おそらくそれで水問題も解決できるだろうからそのままサラマンディアに向かう計画だ。」
なるほど。非の打ち所がない...とは言い切れないが情報のたりない今ではおそらく最善の選択肢だろう。
そう認めざるを得ないと共に過求に畏怖、あるいは不信感のようなものを覚える。
契約してまだ1か月もたっていないが、謎の計画力の高さや読み切れない人間性。
しかしそれがとても頼りになりますね。」
「途中から声に出てたぞ。」
「そうですか。なら...その方向で動きましょうか。マスター」
「モノリスも何か提案があったら遠慮なくいってくれよ。」
「分かりました。」
常識のお勉強のつもりが作戦会議になってしまったが、まあそれらを学ぶ理由を知れば意欲もわくというもの。結果オーライとして受け取るものとする。