レポート4:利害の一致について
「馬小屋ですか?」
「いきなり失礼な奴だな。」
家に連れ帰って開口一番に放たれた言葉に思わず突っ込みが出る。
「あまりにも人が住む環境ではありません。」
「ふつう思ってもそこまで言う?」
確かに部屋はリビングとキッチン以外に物置が2つしかないがトイレもお風呂もある。(まあお風呂はいまだに五右衛門風呂式なのだが)人が住めないという程でもなかろうに。
「神代の方がまだハイテクですよ。」
「お前らの時代がおかしいんだわ。」
「現代は異なるのですか?」
「まあこの家の設備は結構年期は言ってるが、神代ほど技術が優れているわけではないぞ。」
「人類の発展は遅れていますね。」
どこの魔王かと言いたくなるセリフを吐くモノリスだが苦笑しか出てこない。事実として恐らく発展は遅れている。神代の技術を解析し応用出来ればきっと今頃かなりのハイテクノロジー…それこそSFのような世界になってただろう。しかしそうは行かなかった。
なぜなら「肉災があったからな。」
「何度か出てきて気になっていましたが…その肉災とは何ですか?」
「知らないのか?いや、当たり前なのか。その間も封印されてたんだもんな。」
唯一の物置を改造した書斎からいくつかの資料をもってきてモノリスに見せる。
「突如湧き出した肉塊の災害。今の世界の惨状の原因。人はそれを肉災と呼んで恐れているのさ。」
「…やはり不明物質ですね。こんなもの見たことも聞いたこともありません。」
「神代のハイテクマシンでも分からないか。本当にあれは何が原因なのか。」
「マスターはその原因を捜しているのですか?」
「ああ。」
「何故?」
「表向きにはまた同一の災害が起きた場合の対策を講じるための原因の究明。」
「裏向きには?」
「……ただ、理由を知りたい。」
「理由?」
「ああ。理由だ。納得のいく理由。僕が…人が。
全てを奪われなくてはならなかった理由が欲しい。
理由もなく、只今を生きるなんてことは…僕はしたくない。」
窓の外に目をやれば真っ赤な空が広がっている。
「…信じられないだろうが。昔は空が青かったらしい。今のような赤い空は、昼と夜の境…夕方にしかならなかったそうだ。そんな当たり前すら、奪われてしまった。その理由を、ぼくは…知りたい。」
「そう…ですか。」
何か。言いたかった。しかしモノリスにはそれに足る言葉は思いつかなかった。それだけで無いのは揺れ瞳や何処か、悲しみのようなものを含んだ声色からよく分かる。しかし、モノリスにはあまりにもそれに応えうるだけの知識がなかった。
「なあモノリス。」
「なんでしょうマスター。」
「過去を知る手段には何がある?」
唐突な問い。
「…そうですね。伝承を探す、当時の記録を見る。
当時の事を知る人物を探す。あるいは…時を超え直接その目で確かめる。」
「その通り。まあ最後のは限りなく不可能に近いからその当時の記録や生き証人に会わなくては分からない。まあ化石みたいな死に証人でも構わないが。」
「それが、どうかしましたか?」
満足げか顔を浮かべる過求。その意図は読めない。
「人は、弱い生き物だ。長く生きて精々80程度。
それも…何事もなく最後まで寿命を迎えた場合に限る。他の種族のような驚異的な身体能力や天変地異すら起こし得るほどの奇跡の適性があるわけでもない。
肉災により伝承や記録も潰えて久しい。何より100年と少したってしまっている。既に生き証人はおらず死に証人も肉災後、居住区が変化したことを考えればないと思っていいだろう。」
「その通りですね…」
「ならば、どうする?」
「人の力では諦める他ない…ですね。」
「その通り。人では叶わない夢。ならば…長命種やそれに準ずる者。あるいは居住区が変わっていない種族を尋ねればいい」
「それは、つまり」
「世界を旅する目的は僕にもあるという事だ。」
「…つまり?」
全く分からない。マスターが世界を旅する目的や理由が一体なんだと言うのだろう。
「察しの悪いやつだな。
…新世界の為のギア探し。手伝ってやる。」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしているモノリスを小突くとようやく反応が帰ってくる。
「え…え!?いいの…ですか?」
「利害の一致だ。過去を求めるために必要な手段だからな」
「その…末永くよろしくお願いします……」
こうして僕こと過求とモノリスの新世界を求める冒険は幕を開けたのである……と、締めくくりたいが。
三指着いて礼をするモノリスに顔を上げさせる。
「確かに僕はマスターなんだろうが…人を従えるような趣味はない。」
「ではなんと…」
「人がいる前ではもう少し考えろってだけだ。」
「…かしこまりました。つまり人前でなければマスターとお呼びしていいのですね。」
「…まあ、好きにすれば?」
「マスターマスターマスマスター。」
「呼ぶ毎に1回だけな。」
「分かりましたマスター。」
「はぁ…でっかい子供が出来た気分だよ。」
「パパー」
「やめろ。まだそんな歳じゃない。」
グダグダな感じだが、まあこういうのも悪くない。




