レポート34:信頼について
洞窟内に響くはドラゴンの咆哮。音圧でパラパラと天井から石の欠片が溺れ落ちる。
「どうする。ウィーネ。」
「どうするもこうするも…戦うか逃げるかの2択だろう。」
「それもそうなんだが…」
どちらも、分が悪い賭け事。立ち向かってこれを今、倒せるのか。撤退するとして、無傷で下がれるのか。
黒いローブの男は視界の範囲内には居ない。
「逃げられたか…」
「来る!」
「カバー!」
一撃目は右前脚の振り下ろし。巨躯に押されて感じる空気の圧。当たれば一溜りもないのは、想像に固くない。が、それ故の弱点。
「大振りな上に隙間はたっぷりある。」
軌道を読み爪と爪の間を上手くすり抜けると、その先にあった地面が打ち砕かれひび割れたようなクレーターを作り出す。
「【水辺の女王】!!」
作り出したのは水のレール。その上に足を乗せて滑るように移動しおそらくドラゴンも予想外の挙動だったのか、攻撃の狙いが定まらず初めて見る火炎弾もすべて空を焼く。
「こっちの目も貰ってやるよ…」
片方のみのドラゴンの視界に飛び込んできたのは、小さきものと、構えられた異様な紅の機械。過求の、弱者の強者に抗う牙。【未完成対竜兵装】その先端に空いた穴の奥に見える眩い光。
ドラゴンは、咄嗟に目をつむった。
放たれた光はドラゴンの瞼にあたり、その鱗を地面の意趣返しの様に粉々に打ち砕いた。
その後自由落下する過求を水のレールが運びウィーネの傍に運ぶ。
「効いている…!」
「1発じゃ足りねえ!鱗を割っただけだ!」
「ならもう一撃を…」
突如、過求がウィーネに体当たり。一緒になって尻もちをつき、ほんの一息前にいたところには巨大な岩が突き刺さっている。
「…まずい。崩落するぞ。」
ドラゴンが苦痛に悶え縦横無尽に暴れ回り、辺りに火炎を撒き散らす。落ちてくる岩はドラゴン本体やその火炎に当たり溶解して溶岩となって当たりを埋めつくさんとしている。
「撤退…かな?」
「不本意だが…それしか。」
「でもどうやって?」
現在の地点は山の谷底。戻るためには、道を見つけるor崖のぼり。
「考えるのは後だ。とりあえず、洞窟から出るぞ。いつ崩落するかもわからん。」
その場で反転。即ダッシュ。もと来た道を引き返す。
勿論、それを怒り狂ったドラゴンが見逃すはずもなく。背後からの火炎を亀の甲羅で防ぐと、その巨躯が通るはずもない通路を無理矢理破壊しながら追ってくる。
「ウィーネ!先行して!」
「...わかった!」
人一人なら余裕を持って走れる通路をウィーネが前を走り、甲羅の盾を背負った過求が後ろについて走る。
落石を圧力を高めた水で貫いて破壊。ドラゴンのブレス音と後ろを走る過求の僅かに息を飲む声を何とか意識の外に追い出し、ルートを走り続ける。
「あそこの突き当たりを右で洞窟は抜ける!」
「了解…!」
背後から何度も放たれる火炎弾やブレスを甲羅の盾で防ぐ。予想していた通り完璧な耐熱を示してくれている亀の甲羅には賞賛を送りたいところだが、回り込む熱や火の粉まではどうしようもない。あと、とても重い。途中から盾を背負って後ろからの防御だけに専念していたが、それを加味しても重く、明らかに最初より失速しているのを感じる。
だからなどと言い訳はしたくないが、ドラゴンのイレギュラーを、見逃す。
ウィーネが曲がり角を曲がり、その5歩程度後ろを走る僕。そのタイミングでドラゴンが、僕の頭上をすり抜けるように突き当たりの壁にブレスを放った。
ブレスは容易く壁の岩を溶かし、溶けて地面に広がる。
「っ…」
そうなれば足踏みをふむのは人間として仕方の無いこと。迷っている暇は無い。
「ウィーネ!退路は任せた!」
「は…?なにをい」
ウィーネの背を蹴り、開いた【倉庫】から寝袋の塊を射出してそのまま曲がり角の無効へと弾き飛ばす。跳ね返った寝袋は溶岩に飲まれ無惨にも燃え上がる。これから野宿の時の寝床はどうしようか。
「いや…その前にここで永眠するかもか。」
ゆっくりと振り返るとそこにいるのは四肢を踏ん張り、こちらを唸り声を上げながら見据えるドラゴン。
「…随分と…お怒りなんだな…!目ん玉取られて気に触ったか?だが手前も僕の左腕持ってったんだ。
手打ちにしてやくれないかねぇ?」
開いた口の奥、焔の揺らめきが見える。
ドラゴンが息を吸うのがわかる。
もはやこの状況でできることなんてあまりない。
【倉庫】から溶岩を防げる物を出すか?
却下、素材を選んでる余裕もない。布とかでてきても燃えるだけだ。そもそも出すまでにラグもある。
なら、甲羅の盾を足場にして溶岩の上を通る。
しかし、その間、ドラゴンの火力を防ぐ手段が無くなる。
一か八か…ブレスの瞬間に口の中に攻撃をするしかないか。
様々な案が浮かんでは消える。どうする。どうする。
火のゆらめきが大きくなり、吐く息の予兆を感じるなか、それは聞こえる。
【水辺の女王】
凛と響くその一言に従うように溶岩が自ら道をあけ、そこに飛び込こみ、何とか洞窟の外に飛び出すのと
ついにドラゴンの暴走に耐えられなくなった洞窟が崩落するのは同時だった。
砂煙が晴れ、地響きが納まって少しした時。
ウィーネがその場にへたり混み、過求は大の字に寝転がり完全に手足を投げ出す。
「っ…はは…生きてるぅ…!」
「良かった…溶岩が液体の判定でよかったよ。
…だが……二度と。自分を犠牲にするんじゃない。
次はないよ。」
「陽動と探索の役割分担のつもりだったが…まあ、結果五体満足で合流できたんだ。今のうちに何とか戻れる道がないか探そうか。」
よいこらと起き上がり軽く土を払うとウィーネに手を差し出し起き上がらせる。
「早くしないとモノリスちゃんに泥棒猫と言われてしまいそうだ。」
「あいつとはそんなんじゃねえよ。利害の一致だ。」
「案外あっちはそう思ってないかもしれないよ?」
「そんなわけないだろ。」
時折肩が触れ合いながらも、そういった雑談ができるくらいには、過求君との関係は深まったのではないかと。そう、思いたい。たとえ彼自身のことを何も知らずとも。




