レポート33:火竜について
「…姫……?」
「驚いたかな?しかし、これでわかっただろう。私がついてきた理由も。」
「……答え合わせはお願いしようかな?」
「逃げたね。まあいい。私が同伴した理由は、革命を避けるためだ。」
「まあ…予想通りか。」
王の死亡。政治にいくらでも利用価値のあるワイルドカード。他国からの侵略。身内の反抗。内乱。
特に暗殺の犯人が大臣と、僕が知っている今。狙いが王だけとは、考えられない。現状の王族の傀儡あるいは抹殺。いくらでもパターンは考えられる。
「君は聡い子だね。」
「利用されない為には可能性やパターンを分析しなくちゃいけなかったからな。」
「…そっか。」
当たり前のように言うその言葉の裏には何があるのか。火に照らされ明るみを帯びた顔はどこか赤く見える。いやこれは、本当に赤くなっている。
「どうかしたのかい?」
「いや…その……お前は、姫ってことは女なんだよな。」
「?ああ。まあ…当然そうだが……あ」
思い出される2人の出会い。
最初の、混浴。
「…その…その説は本当に申し訳なかったというか。」
「いやいや…あれは私が人を確認しなかったのが悪いというか。」
どこかギクシャクしたふたりの空気を吹き飛ばしたのは、なにかの咆哮。
「っ…」
ウィーネは酒から生み出した槍を構え、過求はどこからともなく取りだした盾を構える。
「この声…まるで…ドラゴン?」
「…ウィーネはここに。見てくる。」
「君一人で行かせられるか!私も行く。」
「何があるかもわからん。被害を少なくするべきだ。」
「なら私がひとりで行こうか?」
「…わかった。二人で行こう。」
メンテナンス中だった義手を布に包み【倉庫】にしまい右手に亀の甲羅を加工した盾を構える。
「もしも火竜だったら、僕の後ろに。あの亀の甲羅がどのくらい効くかは分からないが…」
「…わかった。それ以外なら私の後ろに。」
「なんでさ。」
「その腕で戦う気かい?」
過求の左腕は依然として失われたまま。盾に直接つけでもしない限り防御と攻撃の両立は不可能だろう。
少し俯き歯ぎしりするとウィーネの右前に立ち、前を向く。
「任せたよ。」
「…ふふっ。任された。」
そのまま先に進むと段々と洞窟になっていき辺りも暗くなっていく。
「松明のひとつでも持ってくれば良かったね。」
「その点なら問題ない。」
【倉庫】から取りだしたランタンのようなもののツマミを回すと中の石が輝き、辺りを照らす。
「これは、魔道具か。用意がいいね。」
「旅に出るつもりだったんだ。このくらいはね。」
奥へ奥へと進んでいくと段々、荒々しい息遣いと吹き出す炎特有の揺れるような音が木霊する。
かなり先に進んだ先の少し広めの空間。その中心に倒れているのは、大型のサラマンダー。
「…あれは?」
「………サラマンディア…国王…?」
「は?」
仰向けに倒れるそこ肉体の胸部には、突き刺さるようにして回る。赤色のギア。
「火のギア…!!」
「あれが…なぜ国王が。」
「とりあえず救助から……」
物陰から飛び出そうとした時に、気がつく。
暗闇に紛れていて気が付かなかったが。
もう1人いる。黒い外套を被った男が。
「おお、トカゲの王よ。何と、力強いことか。
何と、猛々しいことか。何と…燃えていることか。」
推定国王のそばで、小声だがそこから響くような声で語り掛けている。
「貴方の犠牲は、我が、糧となろう。」
なにかが、いけない。倒さなくてはならない。
咄嗟に駆け出して、考えるべきだった可能性に遅まきに気がつく。
国王の不在。倒れる国王。回るギア。ドラゴンの胸部にも確認できたギア。つまるところの、イコール。
「ウィーネ‼後ろに!!」
「っ!」
突然に放たれた視界を埋め尽くすほどの火炎。亀の甲羅の下部にに取り付けた石突を地面に突き立て、固定。かがむことで身体を丸ごとカバーできる大きさがあってよかったと心底心の底から思う。
上から見れば、盾を頂点にして三角形に安置ができるが、炎の強みは火炎そのものではなく、それに付随する熱。しかし、さすがにそこは対策ができており、【倉庫】から出した水袋の水をウィーネが操作し、二人に水の保護膜を作る。直火なら駄目だが、その余熱程度ならば十分防げる。
炎が晴れたとき、正面にいたのは片目を欠損した、ドラゴンであった。




