レポート19:ドラゴンとは
夜が明け荷物を片付ける。
安全地帯から一歩そとに出た瞬間のむせ返るような湿度と熱気に思わず顔を顰める。
「後火都まではどのくらいだい?」
「今のペースならば2、3日…と言ったところか。」
「マスター。焚き火が3日の場合焚き火が足りません」
「……そうか」
「その場合焼くことや茹でることを前提とした食糧が利用できなくなります。」
「焚き火を集めなくてはな。」
「この肉塊の大地に使えるような木材があるといいが…」
「家などを解体すれば。あるいはかつて森だった地域などを見つけられればでしょうか。」
「…どうするんだい?芋を爆裂させたカキュウくん?」
「…まあ。2日あれば見つかるだろう。きにせずいこう。」
「マスター、」
「まず言うことは?」
「本当にすまないと思っている。」
男女比が傾くとこうなる。これ以上、同伴者が増えるのならば男女比は一対一で…頼みたいものだ。
「さてそろそろサラマンディアに到着するはずなんだが...」
目標地点まで残り500mを切ったころ。山を乗り換えたときに、それは見えた。
山に囲まれた岩と火の都市。サラマンディア、そしてその上空を飛行している。
そう、あれは...
「ドラゴン...」
伝承の記載のみの存在。現代には存在しない。否、してはいけない。暴の化身。
外の世界に溶け込む赤い体。全身にくまなく生えた鱗。鋭くとがった牙。
羽ばたきで嵐を起こせるほどの強大な翼。
それがまさに今、サラマンディアを襲おうとしている。
「マスター。あれは」
「神話の時代の準最強生物だ。当てる見込みはほとんどない。」
「どうするんだ。あんなのが街を襲えばひとたまりも...」
「...僕は正義のヒーローではない。」
【展開:倉庫】
「だがねえ。目的の邪魔になるのならば話は別なわけで。」
取りだしたのは銃身のいように長い、旧時代ではスナイパーライフルとも呼ばれたらしい代物。...のレプリカ。情報のみの憶測と見よう見まねの産物。推進力は火薬ではなく魔力だし、ライフリンクなる溝も、連続で弾を込める弾倉もない。言うところの、単発式。
「モノリス。距離計算。」
「私はどうしたらいい。」
「ウィーネは、次に備えて。おそらくこれ一つではやり切れない。」
銃身の下の木製の杭を地面に突き刺すと、幸いにも浸食が始まり地面と同化。しっかり固定されたのを確認してから狙いを定める。
「マスター。もう少し上の方がいいです。」
「了解。」
僅かに上に修正。気が付いたのか、それとも偶然か。ドラゴンと目が合う。
「二人とも、離ろ。カウント。3、2、1。」
引き金を引く。
僕の中の魔力を5割以上消費し、圧縮、解放。その指向性を持った爆発により金属の円錐を射出。
反動により、同化していた地面、銃そのものを破壊し、支え切れなかった体も吹き飛ぶ。
その惨状とは裏腹に計算通りの軌道をなぞった弾丸は、ドラゴンの左目をぶち抜いた。
「カキュウ君!」
「構うな!ドラゴン来るぞ!」
左目をぶち抜かれた怒りか。こちらに方向を変え、ぐんぐんと飛来する。
女性陣二人は無傷、僕に関しては...反動の余波で左腕に肉塊が付着。浸食が始まっている。
おそらくドラゴン全長は200mほどあろうか。怒りに満ちた右目は守るように前衛を張る二人を無視し、こちらを見据える。その凶悪な口からは火炎の欠片がこぼれだしている。そこまで認識してからは、咄嗟のことだった。
「【展開:倉庫】!」
倉庫を展開し、縦横3mの盾、というよりは壁に近しいものをモノリス達の前に展開。コンマ数秒の後、視界を埋め尽くすほどの火炎が放たれる。
推進力故か。それとも鼻からそのつもりか。幸い盾のすぐ裏には炎は回り込まず、少し離れたところにいた僕の身を焦がす。
「マスター!」
「モノリス。盾に水を。ウィーネ!突撃警戒、カウンター!」
言い終わるが早いか、赤熱した盾を水で保護されいら立ったドラゴンは、体躯を活かした突撃を慣行。
盾に接触する瞬間。纏っていた水を全て利用した一本やりが打ち抜かれた左目に突き刺さり、ドラゴンものけぞる。
「駄目だ!骨格が硬くて内部に刺さりきっていない!」
「マスター!浸食は。」
「最悪なことに。焼かれて止まったよ。」
咄嗟に盾にしたそこにあったはずの左腕と盾。今ある炭化し、溶解した金属が纏わりつき、否応なく気絶を妨げる。
「マスター...」
「まだいける。奴さんもまだあきらめてはいないみたいだぞ?」
大きくのけぞったドラゴン。ついには地面に足を付きこちらをにらみつける。
その四肢はいったいどれほどの火のエネルギーを秘めているのだろうか。踏みしめる地面は炭化、赤熱し、肉塊の大地が焦土へと変わっていく。ドラゴンの胸が大きく膨らむ。先ほども見た予備動作。しかし放たれた火力は先ほどとは段違い。それはそうだ。
大地を踏み締めて腹から力入れて火を履いた方が強いに決まっているという、こちらとしては不都合の極みな常識。先程のように盾を出してはみるが…
「やはり…だめか……」
先程よりも盾が赤熱するのが早い。モノリスが水を盾に貼るがそれも蒸発し盾が段々と赤くなっていく。
横に避けようにも盾に当たり、流れた火炎。
後ろに下がろうと意味が無い。
「【展開】」
盾に加工すらしていないただの鉄板を出し補強する。時間稼ぎでしかないが幾ばくかの時間は稼げる。
大盾、融解。鉄板に炎が当たり頭上を熱波が駆け抜けていく。追加で岩などを出してみるが出した瞬間粉砕され役にも立たず、むしろ熱で熔けた岩がこちらに飛んでくる始末。1枚目の鉄板が溶解。2枚目展開、二枚目溶解。3枚目展開…としたところで気がつく。
もう壁になるようなものがない。
「まだ…なのかよ…!」
苦し紛れに岩などを出し耐え続けるも、ついに3枚目が溶解し始めた。




