レポート14:陰謀について
案内された部屋はとても上等なものであった。
装飾の激しすぎない、全体的に白やクリーム色などを基調とした落ち着いた色合いになっており布団も押せば押すだけ沈み込むような柔らかさ。
そんなベッドに荷物を放り投げ備え付けられた窓際のテーブルに腰を掛けるとモノリスに差し出されたコーヒーを受け取り対面にカフェラテを持ってモノリスも腰かける。
「さて、ひとまずは無事潜入できたことを喜ぼうか。」
「問題はここからの段取りです。内部構造も何も知らない状況ですが。」
「それについては問題ない。既に【解析】で調べてある。」
「抜け目がないですね。」
ウィーネさんと踊った以外の時間は壁にもたれて解析しつつ、警備のおよその人数予測をしていた。
「だが大きすぎて構造だけしかわかっていないというのも事実だ。」
「それ以外は全くのノーサーチと。」
「ああ。だから手分けをする。城内の構造が頭に入っている僕はギアの奪取を。」
「私はマスターがギアを確保後の逃走経路の確保ですね。」
「ああ。そのまま国外に出れるルートの確保を頼む。」
「かしこまりました。」
上等なスーツからいつものコートに着替えると思わずため息が出る。
緊張観を保つという点では優れているかもしれないが動きずらい、襟の詰まるスーツは今後は遠慮したいものだなどと考え部屋を出る。
現在いるのは宿泊区画の最奥。肝心のギアは中庭に安置されている。一番早いのは中庭に面した窓からロープなどで下ることだがそれは兵士などに見つかる恐れがあるために却下。
なので今回は内部を進行していくわけだがこれにも問題がある。とても移動距離が長いのだ。
外部の侵略者などの制圧を困難にするためか入り組んだ構造になっており、現在いる宿泊区画4階最奥からギアのある中庭までは廊下を二往復するに等しい移動が求められる。移動距離が増えればそれだけ発見される可能性が増える。何とも防犯意識の高い限りで嫌になる。
4階に関してはほぼ宿泊している部屋の前を素通りするのみなのでおおよそ問題はないとして、次に第3階層。
「ひーふーみーよー…7人くらいか」
遮蔽らしい遮蔽は両サイドの柱くらいしかなく、隠密は限りなく難しいと言っても過言では無いだろう。
本来ならば。
「さて、いっちょやりますか。」
柱は全部で等間隔に5本。
まずは全員の視線が外れた瞬間に1本進み身を隠す。
次のフロアに向かう階段に2人固定配置。残り5人が巡回していると言った形だ。
なればどうするか。
『モノリス。やっていいぞ』
『YESマスター。』
合図の直後。突如響く轟音。
作戦名:火事場泥棒
要は普通に隠れるのが大変なのなら、隠れやすいように混乱を起こせばいい。
モノリスが部屋に爆薬を仕掛けて爆破。その間に僕はギアを奪い取る。
物陰に身をひそめ慌てて向かっていく兵士をやり過ごす。
物陰から鏡で見てみれば残ったのは見張りの二人のみ。これならば簡単にやれる。
配置ゆえにその場から動けず、関われないとなった時、人はどうするか。
答えは言うまでもない。見ないようにするにするのである。どうせ関われないのだから。どうせ他の奴らが行ったからという慢心。それは致命的な隙になる。
ワイヤーを使い、見張り二人の首を同時に締め、気絶させる。
「流石に命まではね。」
とりあえずそこらへんに捨て置いて下の階へ。
2階はとても騒がしかった。
まあ当然も当然。来賓やらなんやらがいる城で、しかも姫様が1度攫われた直後の爆発事件。警戒や混乱をしてしかるべき。
「だから利用させて貰ったわけだが。」
あえて、こそこそと隠れはしない。普通にあるいていく。
「あなたは…!確か」
「えっと…なんか急に部屋爆発して…どうしたらいいですかね。」
「あ…っと…とりあえず1度ここで待機していただいても…」
「…わかりました。」
部屋の隅に移動してんやわんやと動く兵士達を眺める。
「君は…無事だったのか。」
「ウィーネさん。ええ、何とか。」
周りの騎士に指示を出していたウィーネさんがこちらにやってくる。だいぶ汗ばんでおり緊迫しているようだ。なんだか、申し訳ない。
「妹さんは?」
「それがはぐれてしまって…おそらく無事だとは思いますが。」
「そうか……ホントなら私も一緒に探しに行きたいところだがこの状況ではな。」
「ええ…ちなみにこの後はどのようにすれば」
「そうだな…この場合は」
そろそろ予想が正しければ…
2度目の爆発音。
遅れて爆発するように仕掛けておいたものに引火したのだろう。
1度ならば、犯人を逃がさないため待機となるが二度ともなれば…
「2回目…!?…仕方ない。君は外に避難してくれ。」
「ウィーネさんは?」
「私はまだ残っている来賓たちの避難をさせる。
本来なら君にも護衛をつけるべきなんだけれど…」
「お気になさらずとも大丈夫です。」
「十分気をつけるんだよ。」
「そちらも、お気をつけて。」
予想通り。万が一つの崩落の可能性を考えれば、来賓達を非難させない訳にはいかない。もちろん、ギアのある1階に人が集中する恐れがあるが、中庭に避難させるとは考えずらい。それ以上のメリットと、何食わぬ顔で脱出できる可能性。恐らくの最善策はこれだろう。大手を振り1階に降りれば、まだ誰も避難していないのかやけに静まり返っていた。それこそ、不気味な程に人がいない。まさか全員救助に駆り出しているのだろうか?まあ都合のいいことこの上ないのだが…
事前に頭に入れておいた地図に従い、中庭の中心。よくお高いやらなんやらやる白いドームのある小さいスペース。確かガゼボとか言ったか。そこに安置された全長1メートルほどの水晶柱。
この水都の水路の中心点。神々の作りし新世界の素材。俗称、水神の水晶。
これを開き中のギアを奪取すれば任務は完了。と近づこうとした矢先、二人の男性がやってきた。
咄嗟に柱の陰に隠れて気をうかがいながら耳を立てる。
「こんな緊急事態にどうしたのだ。大臣よ。」
「王よ。これは他国からの侵略です。今こそ、我らも打って出るべきでは。」
「またその話か。肉災以降それぞれの種族は自らの国を建て、互いに不可侵としている。まだ犯人もはっきりしないうちから結論を急ぐな。」
片方は、以前見た男性。確か水都国王であったか。もう片方は話から察するに何かしらの大臣なのだろう。
「王は..この国を発展させるつもりがあるのですか。」
「私が作りたいのは、平和な国だ。強い国ではない。」
「...そうですか。残念です。」
「なに?」
大臣が取りだしたのは、赤い物の入った。小瓶。
ぼくがよく知っている。肉塊。
投げつけられた瓶は小さく透き通った音と共にその役目を終え、内容物が国王の肌に触れる。
変化は一瞬だった。
まず、触れたところから赤が広がった。そして肉体が崩れた。
大臣がいなくなり、その場には王の服と肉塊のみが残った。
「...」
肉塊を一瞥し、水神の水晶の方へと歩みを進める。
以前、成人の儀式をした際には解析も敵わず、何も分からなかった物体。
今ならばわかる。水晶に触れるとすんなりと手が入り込み、その中央でひときわ強く輝くギアを引き抜いた。
「これが...モノリスギア。」
カバンにギアをしまうと、かつて王だった肉塊のそばに歩み寄る。
正直言って余分な行動だ。肉塊となれば人格も何もない。だが、あまりにも不憫で成らなかった。
しゃがみ込み、手を合わせた。
目的の為ならば人情を捨てなくては行けないなどと言うことはよく言われている。なのに手を合わせた報いだろうか。
「過求くん……それは、なんだい?」
後ろから聞こえる声、直近の数日で幾度となく聞いた声。
「その服は、国王の物だ。…その肉塊は……まるで。」
言葉に詰るその人の方を向く。
「君が、やったのか?」
動揺、怒り。揺れる言葉に答えるまもなく振り下ろされた剣が咄嗟に避けた僕のカバンを切りさき、ギアが溢れ落ちる。
「…なるほど。そういう事か。」
「待った。勘違いしている。」
「問答無用。我は水都騎士団団長。ウィーネ!
国王暗殺及び国宝窃盗の容疑で…この場で、裁く!!」




