レポート11:魔術師について
小船に揺られどのくらいが経ったであろうか。
水路に流されゆらゆらと揺れる小舟。その一定の振動が不意に止まった。
「ん…何事だ?」
見てみれば大きななにかの残骸のようなものが水路に落ちておりそれに舟が引っかかっている。
「不法投棄か。騎士団は何をしてるのか…いやこのような事態ならしかたがないか。」
何とかオールで迂回しようとしようとして気がつく。
水路は、この水都の流通の主な手段。故に、何かあればその日のうちにどころか通報があったらすぐに対応するレベルのこと。それが放置されているということは、少なくとも直近で発生した障害物。そしてここまで流されてきてたまたま停止したとは考えられない。
慎重に船を端によせ、壁面を触るとその障害物。否、ストッパーの横の壁のみやけに新しい。
「つまるところこれが…偽装ってことか!!」
久々の登場、シールドを変形させたドリルバンカーを壁に突きつけ起動すると勢いよく壁が崩れさり水路が現れる。
「予測通り…にしても魔術師ってのはすげえな。
こんな壁作れるなんていやはや…とても羨ましい。」
石壁を退けて舟で奥に進んでいく。
その先にあったのは石でできた船着き場のようなもの。そこには王家の紋様が刻まれたボートが1隻停泊している。
こちらもボートを停泊させ降りる。
辺りを見回すが基本的には地下水路を居住できるように改造されたような空間。
壁には魔道具と思われるカンデラがかけられ淡く室内を照らしており、船着き場の正面には黒樫製の両開きのドア。
近ずいて観察していた時、突然の異変が起きた。
水路の水が荒波立ちボートを流す。
そのままボートは遠く離れていき影も見えなくなってしまった。僕は泳げないわけで。つまるところ…
「閉じ込められた…というわけか…」
元より撤退する気も無いが気分はまるで背水の陣。
「まあ、魔術師も逃げられないってことは無いだろ。シバいて保護して吐かせて帰る。うん。完璧なプランだ」
モノリスにまた帰りが遅いことを怒られることを除けば。
「恨むぞ魔術師。」
扉を開き侵入すると奇妙な匂いがおくから漂う。甘ったるいのうな、鼻を突くような入り交じった香り。
思わず咳き込みそうになるのを耐え進む。
そのまま進み曲がり角に差し掛かった時奥から足音が響いてくる。かなり早い。侵入に気づいた魔術師の可能性を考えれば…答えは待ち伏せ。
だんだんとちかずいて来る想定よりも小さな足音。それが曲がり角に差し掛かった瞬間、壁に押さえつけ首にナイフを添える。
「っく」
取り押さえられた相手は上等そうな寝間着を着た女。
顔はやや中性的だが髪や肌の様子を見るに女性よりのように思える。
「てっきり男だと思ってたが魔術師は女だったのか。」
「答えはNO。魔術師は下種な男ですよ。」
「つまり君がお姫様かい?」
「その通り。君は...」
「通りすがりの考古学者。とでも言おうかな?訳あってあなたを助けに来た。」
発せられる声は魅惑の…というのが正しいだろうか。心地よい低音混じりの女性声。
騎士団長といいお姫様といい、この国の上の方は中性イケメンな女性になる傾向にあるのだろうか?
「それは...信頼していいのか判断に困りますね。」
「信頼できなければ後ろから刺してくれ。早いとこここを出たいんだが...あいにくボートが流されてしまってね。どこかに他の通路はないかな。」
「残念ながらそんなところはないさ。」
突如聞こえた男の声。咄嗟に姫様をつかんでしゃがませるとつい先ほどまで頭のあった位置を何かが通り抜ける。
「姫さん諸共狙うなんて危ないじゃないか。」
「気絶する程度に抑えいたさ。まあ君は気絶させたあとにとどめを刺すつもりだったが。」
いかにもといった大きなフード付きのローブから漂う先ほどの嫌な香り。
見た目を中止すればとても太り散らかしやけに口を尖らせたような顔。全体的に猫背で、ろくに外にも出ていないのだろう。不健康に白い肌はまるで小太りのピエロとでも形容しようか。
ニタニタと生理的に受け付けない笑いを受けべる顔にめがけてナイフを投擲。銀の線を描きながら飛んで行ったそれは突き刺さる直前で何かにぶつかりはじかれる。
「姫さん。後ろに。」
「いや私もたた」
「下がれ。変に怪我でもされたらこっちが困るんだよ。」
魔術師から目を離さずに言い放つと僅かに動揺した気配を感じる。温室のお姫様に使う言葉にしては強すぎただろうか。
しかしこちらも水都の禁忌に触れているようなものだ。怪我まで負わせたら死罪確定演出。それは避けたいものだ。
「魔術師。最後に聞いておいてやる。名を名乗れ」
「我はメイジ!!この水都で最も優れた大魔術師である!!」
「一々痛いやつだな。メイジなんて名付ける親も親だが。」
「うるさい!僕は生まれながらにして優秀な魔術師なんだ!貴様のような一般人とは違うのだ!!」
「そうやっていっちょ前に自尊心ばっかブクブクと膨れ上がってそのざまか。自分一人しか交友関係なけりゃナンバー1に決まってるだろ。井の中の蛙大海を知らずって知ってるか?」
「うるさあい!!」
何かが動く気配を察知し飛びのくと1寸先を石の塊が通り抜けている。それは、通路の壁。
「さっきのが風で…今度は土かよ。」
「それだけでは無いぞ!」
横にあったランタンの炎が揺らめき突如明確にこちらに向けて吹き上がる。
「っ…あっつ……!!」
慌てて盾で防ぐが回り込んだ炎や単純な熱気までは抑えきれない。
「次は火かよ…残りはなんだったかね。
風、土、火と……あとは水、木だったか?」
「ふん。ある程度の学はあるようだな。」
「使えないのがほんとに…悔やまれる!!」
人間の使う魔術はその適正と触媒が必要になる。
土なら石や土、鉱石。
火なら文字通り火種。
水も水。木は植物全般。
その中でも1番優秀とされるのは風。
「ほらほら!!いつまで避けられるかなぁ!!」
見えない何かを目線から狙いを読んで弾き続けるがそれも辛い。そう、風は水中でもなければどこにでも触媒がある上、見えずらいのである。
視覚化するならば煙幕などを炊くのが好ましい。しかしそうすれば自身の視界も潰れる。
「ましてや…姫さんまで守る必要があると……ね!」
壁や地面を変形させての石柱。目に見えない空気の弾や刃。壁のランタンからの火炎放射。
攻撃パターンは読めてきたがそれだけ。
見えない攻撃に対処しながら距離を詰めるのは難しい。そもそも詰める間も等間隔に配置されたランタンから火が放たれるし石柱が変形して上手く接近も出来ない。
「デブのくせに強え…!」
「ふふふふ…!苦戦しているねぇ!!
僕は全ての属性に適正のあるエリートだ!!君のような一般人とは格が違うんだよ!!」
再び大量に放たれた空気の弾。それを盾で弾き返し弾同士をぶつけ合い相殺する。
「は?」
「解析…完了。」
苦し紛れに放たれた刃を盾で逸らし壁にぶつける。
横からの振動。足から滑り込むようにして伸びてきた石柱を避けて前に進む。
炎の揺らめき。完全に避けるのは不可能の為盾で受けて致命傷は避ける。
「なんで…当たらない!!」
前の地面。天井が少しズレる。
前に飛び込むようにして串刺しにしようと伸びて来る石柱を避ける。
「盾越しだし一瞬しか当たらないしで解析が1%ずつしか進まなかったが、それも何百回と繰り返せばいずれ完了する。」
魔術師まで残り、10m。
「知ってるか?こういうのを昔の言葉で、塵も積もれば山となるって言うらしいぞ。」
攻撃の予兆を察知。攻撃の種類は、全て。
「だが…ここまで来ればこちらの方が速い!!」
地面を強く踏み締め、半ば飛び込む様に肉薄。顎にパイルバンカー(対人調整)を叩き込むと背後に感じていた熱や風の動き、石柱の気配が消え去るのを感じ、気がつけば壁にもたれて座り込んでいた。戦闘のハイが無くなったからだろうか。足の筋肉が鼓動に合わせて熱を発する。盾を持っていた方の手が痺れている。火傷の痛みが今になってやってきた。
立ち上がる気力も起きない。
「死んだのかい…?」
歩いて近づいてくるお姫様。倒れた魔術師をツンツンとつつく。
「気絶してるだけです。まあ暫くは起きないでしょうけど。」
モノリスに買ってやってから渡すのを忘れていた収納の魔道具に魔術師を収納し、姫様に渡す。
「あとはそちらで頼みます。…できれば僕が死なないように口添え頼みますよ。」
「犯人が生きているならば全責任はそちらに負わされる事になるだろう。それに、感謝こそすれ陥れることなどしないさ。」
「ならいいのですが……」
緊張が切れかけた自分に喝を入れ、立ち上がる。まだ油断しては行けない。帰るまでがなんとやらとよく言うわけで…帰るまでが……
「…あ、」
「どうかしたのかい?」
「いえ…魔術師のせいでボートが流されてしまって。
本来なら倒してから別の脱出口を聞き出すつもりが…」
「それなら心配いらないよ。」
やけに自信満々のお姫様。ならばお願いしてみようとやってきたらば船着場。
「さて、どうします?私は泳げませんが。」
「泳げないのならば歩けばいい」
「…はい??」
姫様が水路に降りると水が自ら避けていく様な錯覚に陥るほど、高度な水の操作魔術。
魔術師が全属性使えると言った割に水を使わなかったのはこれが理由かと納得していると姫様に突如おんぶされる。
「ちょ!?」
「済まない。今の私では1人分の空間を作るので精一杯でね。とはいえ満身創痍な君に私をおんぶさせる訳にも行かない。しばしの我慢だ。耐えてくれ。」
「…そういうことなら……」
お姫様におんぶされるとは、普通は逆なのではないだろうか…しかし疲れているのも事実。
周りの水が発する程よい冷気や、ゆっくりとした振動。身を任せたが最後、ストンと眠りに落ちていくのがよく分かった。
固有能力:解析について
結構本人の意識して集める情報によっては応用が効くため今回の様な予備動作を中心に集めたりすることも可能。ただし、情報を集められるのは触れている間のみ。




