第一話 「蒸し暑い」
釜から上がる湯気は狭い狭い家に閉じこもって、息を苦しくさせる。木の椀に入っているのはポーションの材料。
手は2本しか持っていないのに、2人分の仕事をやらされている。
「責任をもちなさい。ポーションのお陰で食べれるのよ」
昔からいつもそう言われる。言い繰り返すほどでもないことなのに。責任という言葉は毎日、聞かされてばっかりなんだ。
右手は震え始めて、椀が滑って釜の中に落ちてしまった。
「……もう入れたから、家を出る。先生が待ってるから急がないといけないんだよ」
「そういうところが、父さんそっくりよ!」
耳に聞こえたのはガラスの欠片、血が出るほど鋭く刺す熱。
後ろから監視しなくてもいいのに、どうしてそんなに意地悪く僕を無理やりしたいんだ?父さんすらいれば、こんなに辛いはずがないんだ。
「ちゃんと仕事をやりなさい!」
「もういやだ!金持ってるんだろう?いっそのこと、奴隷でも買ったらいいじゃない?!」
バチン!
と突然鳴った音は、引っ叩いた母さんの右手。左側のこめかみから、唇まで掻き毟りたくなるほどの熱だった。
これ以上舐められるのは僕は愈々ウンザリなんだ。もう十分わかったんだ。
「……母さんなんて必要ない!一人でも生きていける!」
言った途端に僕は家の扉を強く押し、一生懸命走った。
心臓の鼓動が騒がしくなって、でも僕は聞きたくないんだ。母さんが今、何言おうとしているかを絶対に知りたくない。