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buddy ~絆の物語~ スピンオフ 市木編  作者: AYANO


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逃げる市木と、追いつめる市木④

それから美乃梨は、佐伯とのことを話し始めた。

「あいつとは同期入社で、最初はお互い切磋琢磨して、仕事の成果を残していったのよ。それからなんとなく付き合い始めて、それが長くなるにつれ、少しずつ何かが歪み始めたんだと今ならわかるわ」

そこまで言って、美乃梨はグビッとビールを一口煽る。


「わたしは周りの人に助けられながらも、順調に出世するのに対して、あいつはそれが上手くいかなかった。それが面白くなかったんだと思うわ」

「でもそれは、美乃梨さんが頑張った証拠でしょ」

「そうね。だけどあいつは、女のわたしが自分より上にいるのが許せなかったんだと思う。あのクソ野郎はそういう男よ」

グシャッと、美乃梨は飲み終えたビールの缶を思いっきり握りつぶす。


「美乃梨さん、アルミは手を切りやすいから危ないよ」

そっと美乃梨の手から缶を受け取り、手のひらに傷がついていないかチェックする。

「市木くん、お医者さんみたいね」

「俺はれっきとした医者だよ?」

「ふふっ、そうね。それなのにチャラチャラしてるなんて言われちゃったわね」

「まあ、自慢じゃないけど、それは言われ慣れてるから何とも思わないよ」

「ほんと、自慢にもならないわね。ところで......」

「ん?」

美乃梨は怪訝な顔をして、市木の顔を見てる。


「いつまでわたしの手をチェックしてるの?」

市木は缶を取り上げてからずっと、美乃梨の手をにぎにぎして、その感触を楽しんでいた。

「いや、美乃梨さんの手、意外と小さくて可愛いなぁと思って」

「そう、ありがと。でも、このご時世にこんなことをして、訴えられでもしたらどうするの?」

「美乃梨さん俺を訴えるの?」

「わたしはしないわよ。他の人がそうするかもしれないじゃない」

「だったら大丈夫だよ。美乃梨さんにしかこんなことしないから」


「......................」

「......................」

お互い無言になるも、市木は美乃梨の顔を見てなぜかニコニコしている。

そんな市木を見て美乃梨はまた、ため息を吐く。

「あなたね......どういうつもり?」

「なにが?」

「なにがって......10年付き合った男にフラれて傷心中のアラフォー女の手をにぎにぎしてどういうつもりなのかって聞いてるの。わたしは、あなたと違って経験豊富でもなければ百戦錬磨でもないわ。こんなことされてわたしが勘違いしたらどうしてくれるの?」


美乃梨の顔はいつもと変わらないが、耳だけは赤くなっていた。

市木はそれを見逃さなかった。

「勘違い......じゃなくて本気にしてもいいよ」

「......は?何言って......」


「俺、美乃梨さんのこと好きなんだ。だから、本気にしてよ」

「..................えええええっ!!!」


市木から告白された瞬間、美乃梨は手を振りほどき、ソファから立ち上がって市木と距離をあける。


「な、な、なに言ってるの⁉冗談でもそんなこと......」

「俺、こんなことを冗談で言うほどガキじゃないよ。ちゃんと真面目に言ってるんだよ?」

「そそそ、それでも......こんな年上の行き遅れに言う事じゃないでしょう⁉」

「あっ、そっか。わかった」

わかったと言われ、それはそれでカチンとくる。やっぱりバカにしてんのかと。

すると市木もソファから立ち上がり、美乃梨の前に立つ。

そして今度は美乃梨の両手を取り、目を見つめながら優しく囁いた。


「美乃梨さん、俺と結婚して。一生大事にするから」

そう言うと、市木は美乃梨の手の甲にキスをする。


「今日は指輪も何も準備できなかったから、今度一緒に買いに行こ」

美乃梨の返事も待たずに話を進める市木に、美乃梨は軽くパニックになっていた。

「ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ!わたし結婚するなんて言ってないでしょ⁉それなのになんで指輪⁉第一仕事もあるし、親にも竣ちゃんにも言ってないし......」


「なんだそんなこと?別に仕事は、美乃梨さんが続けたければ、続けていいよ。あと、親御さんへの挨拶は明日行けばいいし、竣くんはいまから来てもらったらいいよ。ほら解決。それとも美乃梨さんは俺のこと嫌い?」

「ぐっ...........」


美乃梨は重度のブラコンのため、年下の男にはめっぽう弱い。

だからこれまで恋愛対象として避けてきたのに、どうしてこうなったのかと頭の中でぐるぐる考えていた。


美乃梨が悩んでいる最中に、市木は竣亮に電話を掛けた。

『はーい、もしもし?』

「あっ、竣くんお疲れ~。いま大丈夫?」

『うん、大丈夫だよ。どうしたの?』

「今日仕事ってどれくらいかかる?」

『ああ、もう終わって、いま車の中。もうすぐ家に着くよ』

「そうなんだ。そしたらさ、ちょっと話があるから俺の家に来てくれないかな?そんなに時間は取らせないからさ」

『うん、わかったー。ちょうど市木くんのマンションの近くだから、すぐ行くねー』

「じゃ、またあとで」

そうして電話を切っても、美乃梨はまだ考え事をしていた。


「それで美乃梨さん。答えは出ましたか?」

「答えって......」

「美乃梨さんは俺が嫌いなの?って聞いたこと」

「......................嫌いじゃない」

美乃梨は悔しそうにそう答える。

「俺と一緒にご飯食べに行って、楽しくなかった?」

「......................楽しかった」


「なんだ、相性ばっちりじゃん。あとは何が不満?こう見えてそこそこ収入あるし、貯金もしっかりある。家を建てようと思えばすぐ建てられるよ。あと、美乃梨さんが言ってくれたように、イケメンだしね」

「......................本当に本気で言ってるの?わたしを揶揄っているんじゃないでしょうね?」

「さっきも言ったけど、こんなこと冗談でも言わないよ」

「.............それに、なんでわざわざ、こんなに年の離れたわたしなの?あなたなら、もっと若くて可愛い子がいるんじゃないの?」

「まあ、それは否定しないよ。でも、俺がこの先一緒に生きていきたいと思ったのは美乃梨さんなんだ。だから結婚しようって.......」

「それに!お付き合いをすっ飛ばして結婚なんて、どうしてそうなるの⁉」

「別に、お付き合いからでもいいけど、どうせ俺は美乃梨さんと結婚するつもりだから、そこからでもいいかなって。あと、子供も欲しいし......」

「こここここっ.......子供⁉」

「うん。子供が出来たら入籍するんだし、お付き合い期間がもったいないなって」


美乃梨は頭がクラクラしてきた。

自分の考えがおかしいのかと思ってしまうほど、市木がさも当たり前のように言ってくるからだ。

そしてここで、インターフォンが鳴った。


「あっ、美乃梨さん待っててね」

市木はそう言うと、玄関へ向かう。しばらくすると、なにやらガヤガヤと大人数の声が聞こえてきた。


「美乃梨さん、竣くんたちが来たよ」

「ほんとにお姉ちゃんがいる.........」

「竣ちゃんっ..........!」

美乃梨は、自分の味方になる人間が来てくれたことに安堵する。

竣亮以外にも、buddyが全員で市木の家に押しかけてきた。


「おいっ!市木、お前ホントに美乃梨さんと2人で飲んでたのか?」

「市木くん度胸あるねー」

「俺はお前のことを初めて尊敬するよ」

市木の美乃梨への気持ちがわからない隼斗、深尋、誠はいつも通りのことを言う。対して僚と明日香は、市木の気持ちを知っているので、複雑な気持ちで見守っていた。


「竣ちゃん助けてっ!市木くんがおかしなことを言うのよ!」

「おかしなこと?」

いつも強気で自信に満ち溢れている姉が取り乱しているのを見て、竣亮は市木の方をチラッと見る。

「市木くん、お姉ちゃんに何を言ったの?」

「ん?何をって.......結婚してほしいって言ったんだよ」


「「「「結婚⁉⁉⁉」」」」


これにはbuddyの6人全員驚いた。それも全員プロの歌手だ。しかもこの日はレコーディング終わりで喉の調子も絶好調。マンション中に響いたのではないかというくらいの大声だった。


「しぃーーーーーっ!きみたち、今日すんごい声出るね」

「ご、ごめんっ.......だけど結婚って、お姉ちゃんと市木くんって、いつから付き合ってたの?」

「付き合ってないよ。ご飯とか飲みにはちょこちょこ行ってたけど」

「え.......?付き合って.......ないの?」

竣亮がポカンとしている横で、美乃梨がコクコクコクコクと首を縦に振っている。

そうコイツがおかしいんだ。竣ちゃん何か言ってやれ!と。


ここで市木は、美乃梨とついでに竣亮に対し、さらなる追い込みをかける。

「だってさ竣くん。考えても見てよ。俺たちもう30の大人だよ?ちゃんと仕事もして、稼いで、自立している大の大人。それなのに、お付き合いしましょうなんて悠長なこと言ってたら、あっという間に40になって50になっちゃうよ。それにさ、美乃梨さんにも言ったけど、俺も早く子供が欲しいんだ。もちろん、美乃梨さんとの子供。だから、交際期間がもったいないから結婚してってお願いしているんだ」


この市木の話を聞いて、6人は思い出した。最近はめっきりおとなしくなっていたので、全員すっかり忘れていた。

市木は、ものすっごぉーーーーーく諦めの悪い男だということを。

明日香に対する執着は、7年近くにも及んだ。

間違いなく市木は、自分から好きになって告白した美乃梨を簡単には諦めないだろう。

それを踏まえたうえで、竣亮は市木にひとつだけ確認することにした。


「市木くん。ひとつだけ聞いてもいいかな?」

「うん、いいよ」

「お姉ちゃんのことは、本気で好きなんだよね?」

竣亮にじっと見られて聞かれた市木は、同じように竣亮に真剣な目で答える。

「本気だよ。俺は美乃梨さんが愛しくて、大切で、一生大事にしたいと思ったんだ。この気持ちに嘘はないよ」


市木のその言葉を聞いて、竣亮はその本気度を感じた。

「わかった。市木くん、僕の大切なお姉ちゃんをよろしくね」

「ありがとう竣くん」

「ちょっと、ちょっと!わたしは⁉わたしの気持ちは⁉」

竣亮と市木が同意しても、肝心の美乃梨が置いてけぼりだ。でも、市木にそんなのは関係ない。


「美乃梨さん、さっき俺のこと嫌いじゃない(すきだ)し、楽しかった(一緒にいたい)って言ってたよね?あれは嘘だったの?」

「......嘘では....ないけど.....」

「じゃあ、もう答えは決まってるね。はい!」

「..............はい?」


美乃梨は思わず答えてしまった。それを聞いた市木は、両手を万歳して大喜びする。

「やっっったぁぁぁ!!みんな!はいって返事もらえたよ~!」

1人はしゃぐ市木を、竣亮以外の全員が(違う!)と言う目で見る。

竣亮だけが、(そのプロポーズ、僕が葉月さんにしたのとおんなじやつ)などと、思い出に耽っていた。


美乃梨は、この数時間の間に起こったことが理解できずに、再び頭の中でぐるぐると考え中だ。


「まあ、市木と美乃梨さんってお似合いかもな」

「そうだね。あの美乃梨さんが、すっかりペースを崩されているし」

「市木の諦めの悪さは折り紙付きだからな」

「そうだな。あいつの得意技だしな」

「美乃梨さん、ウンウン言ってるよー?」

「みんな、お姉ちゃんのこと見守ってね」

6人は市木が大量に買い込んだお酒を勝手に飲み始め、竣亮の言う通り、市木と美乃梨の様子を見守っていた。


市木は放心状態の美乃梨に、明日、美乃梨の実家へ挨拶に行くことや、そのあと指輪を買いに行こうなどと、次々と段取りを組んでいた。


その翌日。市木と美乃梨は、本当に国分家に挨拶に行った。

両親は突然の話で驚いたが、市木が外科医であることや、実家が大きな総合病院であることですっかり信用してしまい、陥落するのにそう時間はかからなかった。

それどころか、仕事ばかりで浮いた話が全くなかった娘を、どうぞよろしくと託された。


そのあとは、指輪を買いに出かけた。

市木は婚約指輪もセットで買おうと言ったが、そもそも婚約期間がないのに必要ないと美乃梨が断固拒否したため、結婚指輪のみを買うことにした。


そこで美乃梨は気づく。

(なんか、いつの間にか絆されてる⁉)

知らぬ間に両親への挨拶を済ませ、気づいたら結婚指輪を買っていた。


「美乃梨さん、明日はイヤかもしれないけど、俺の実家に行くね。5分で済ませるから心配しないで大丈夫だよ」

そう言うと、市木は本当にそれを有言実行した。


翌日。立派な塀に囲まれた、これまた立派な日本家屋の家の応接室に、市木の両親と兄、兄嫁、姉、姉婿、甥っ子3人、姪っ子1人が勢揃いする中、市木は美乃梨を紹介した。


「こちら、国分美乃梨さん。俺たち、すぐ結婚するのでよろしく。じゃあ、美乃梨さん行こうか」

「えっ......?市木くん?」

5分どころか、10秒で終わらせようとする市木に、美乃梨は戸惑ってしまう。


「颯太、お前、白井社長のご令嬢はどうした」

市木家当主の父が、帰ろうとする市木に声を掛ける。

その声はとても低く、冷たいものだった。

「白井さんへは、最初からお嬢さんと結婚する気はないとお伝えしていました」

「お前は、それが許されるとでも思っているのか」

「........別に、あなたの許しを貰うつもりはありません。俺の人生は俺のものです。好きでもない人と結婚するつもりはありませんし、家の道具になるつもりもありません。それでは失礼します」

「待てっ!颯太っ!」

市木は父の呼びかけも無視して、そのまま実家を後にした。


「はぁ~~~っ、すっきりした!」

「あなた......あれでよかったの?」

美乃梨は逃げるように出てきたことに困惑している。

「いいの、いいの。俺は次男だし、病院は兄貴が継ぐんだから、俺は俺でやりたいことをやらせてもらうよ。それに、兄貴も姉ちゃんも、実は俺の味方なんだ。だから大丈夫」

市木はそう言うと、美乃梨の手をぎゅっと握り、そのままタクシーで自分のマンションへと向かった。


その夜。

「じゃあ、市木くん。そろそろ帰るわね」

明日も通常通り仕事なので、美乃梨が帰り支度をしていると、市木が後ろから美乃梨を抱きしめる。

「え......ちょっと.......!」

「........帰したくない。美乃梨さん、帰らないで」


はっきりいって美乃梨は、10年付き合っていたとはいえ、最後の3年はほぼマンネリで身体を重ねることもなかった。

クソ野郎こと佐伯は浮気をしていたわけだし、それはある意味必然だった。


なので、久しぶりに人肌を感じて、思わず頷きそうになる。

(ダメダメ!しっかりしなさい!流されたらダメよ!)

自分で自分に喝を入れ、美乃梨は市木の腕を振り解こうとする。


がしかし、その反動で市木に正面を向かされると、そのまま自分の唇に市木の唇が重ねられた。

最初は触れるだけのキスから、気が付くと市木の舌が美乃梨の口内をかき混ぜる。市木の舌が歯の裏を撫でると、それだけでゾクゾクしてしまう。

美乃梨は市木のキスで腰に力が入らなくなり、膝から落ちそうになると、市木はそれをすぐに支えた。

「美乃梨さん、キスだけで腰砕けになっちゃったね。このまま帰れるの?」

耳元で意地悪な囁き声が聞こえ、美乃梨はもう逆らうことをやめた。

「.......お泊りするわ」

「ふふっ、最初から帰すつもりはなかったよ」


それから2人は、この日初めて一夜を共にした。

しかも市木の希望通り「子作り目的」で。

新しい家族が増えるのは、そう遠くない未来かもしれない。


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