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buddy ~絆の物語~ スピンオフ 市木編  作者: AYANO


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1/5

逃げる市木と、追いつめる市木①

このお話は、buddy ~絆の物語~ 本編完結後のお話です。

ネタバレがたくさん含まれておりますので、本編読了後に読むことを強くお薦めします。

ドンドンドンドンッ!

土曜日の昼下がり。明日香は(ケイ)を寝かしつけ、リビングのソファで一息ついていた。隣では僚がコーヒーを飲みながら、お気に入りの本を読んでいる。

なのに、それを打ち破るかのような音が、葉山家に響き渡る。


「なっ!なに⁉」

「明日香っ、俺が行くから!」

インターフォンがあるにも関わらず、それを押さずに玄関の扉を叩くなんて、一体どういうことだと警戒しながら僚が玄関へ近づく。

するとまた、ドンドンドンドンッと叩かれ、そのあとによく聞いたことのある声が聞こえてきた。


「葉山っ!頼む!助けてくれっ!」

「市木.......?」


僚は相手が市木と分かり、すぐにドアを開ける。

「おいっ、静かにしろ.......」

「すまんっ葉山!お願い匿って!」

慌てて玄関に入ってきた市木は、はぁ、はぁと息も絶え絶えで、その顔は明らかに焦っていた。

僚は怒るのはとりあえず置いといて、市木を家の中にあげた。


市木の住むマンションは同じ新興住宅地内にあり、徒歩で7~8分、走れば3分ほどの場所にある。

どうやら市木は、そこから全速力で走ってきたらしい。


「どうしたんだよ、市木」

「何があったの.....?」

ソファーに倒れ込むように座る市木に、僚と明日香が声を掛ける。

市木はやっと呼吸を整えると、ソファに座りなおし、2人に事情を説明する。


「実は、俺の母親が勝手に見合いを進めてて、俺はそれをずっと拒否していたんだ。そしたらついさっき、その見合い相手が俺のマンションに来てて、それをたまたまコンビニ帰りに見かけて、それでここに......」

僚と明日香は、市木の突然の見合い話に驚いた。


「逃げてきたってことは、お前は相手の方を知っているっていう事だよな?」

「うん.....。父親の病院と取引のある、医療機器メーカーの社長令嬢だ。中学生の時に何度か会ったことがあるくらいで、それ以降は会っていない」

僚は、市木の家の事情を知っていたので、それを聞いてなるほどなと思った。しかし明日香は、市木家の事情を知らない。


「そこの社長の奥さんと、俺の母親が古い友人で、それで勝手に進められて.....もう、最悪だよ.....」

いつも明るい市木が、頭を抱えて項垂れてしまった。

すると明日香が突然、

「蛍が起きちゃった!」

と言って、2階の子供部屋へ走って行ってしまった。

僚と市木が、テーブルの上に置いてあるベビーモニターを見ると、ベビーベッドの柵につかまって立ち上がっている蛍が見えた。


明日香が蛍を抱っこしてリビングに戻ってくると、なぜか市木が喜んで両手を広げて待っていた。


「蛍く~ん、パパだよ~」

「お前、追い出されたいのか?」

「ごめんなさい」


いま市木は完全な弱者だ。葉山家の主の機嫌を損ねたら、とっとと追い出されるのは目に見えている。


「蛍、よかったな。今日は市木のおじさんが、遊び相手になってくれるらしいぞ」

「うーーーーーまっ!」

「そうか、そうか、うれしいなー?」

「しぃーーー!」

「よかったな市木。蛍が遊ぼうってさ」

僚は、今日ぐらい市木に蛍の相手をさせてやろうと考えた。


「葉山......俺に子守を押し付けたな」

「匿ってやるんだから、安いもんだろ。見ろよ、こんなに可愛い天使の相手をするんだぞ」

僚は市木に見せつけるように、蛍のやわらかいほっぺたをふにふにする。

「俺が知らないとでも思っているのか?蛍くんが、とんでもない体力お化けだということを.....」

僚と市木がなにやら子守で揉めていると、明日香が市木に聞いてきた。


「市木くん、もしよかったら夕飯食べていく?」

「えっ?いいの?」

「いいよ。いつも通り、普通のご飯だけど」

「やったぁ!明日香ちゃんはやっぱり優しいな~」

「それじゃあ悪いんだけど、夕飯の準備をしている間、蛍の相手してくれないかな?僚はいまからジョギングに出ると思うから.....」

「あっ......う、うん......」

結局、明日香に言いくるめられている市木を見て、僚は内心ほくそ笑んでいた。


そのあと、僚は本当にジョギングに出ていってしまった。

体力づくりと体力維持のため、10㎞走るのを日課にしているようで、1時間は帰ってこない。

それから市木は、お昼寝をして元気いっぱいの蛍の下僕となっていた。


「きゃははははっ!だっこ!」

「えぇ~~~.......もう一回.....?」

「ん!ん!」

蛍は市木に抱っこをせがんで、短い両手を一生懸命伸ばしている。

市木はかれこれ30分近く、蛍を抱っこしては高い高いしたり、飛行機と言って走り回ったりと、軽いウェイトトレーニングをしている状態だった。


「ただいまー」

玄関から僚の声が聞こえてくると、蛍はぴくっとなって、それまではしゃいでいたのに、今度は市木に下ろせと暴れ出す。

「うわぁっ、蛍くん落ちるっ」

なんとか支えて蛍を下ろすと、蛍は玄関へダダダッと走って行く。


「ぱぱ!ぱぱ!」

「おぉ、蛍。ただいま」

汗だくの僚の足元に、蛍が飛び込んでくる。するとすかさず蛍は、

「だっこ!」

と、僚に甘えてくる。

「蛍、パパはいま汗びっしょりだから、一緒にじゃぶじゃぶする?」

「ん!じゃぶじゃぶ!」


その様子を見て市木は、心底羨ましいと思ってしまった。

明日香と結婚して、かわいい子供にも恵まれて、仕事も順調で。

ここ数年、僚に対しての嫉妬心など感じることはなかったが、今日この光景を目の当たりにすると、再燃してしまいそうになる。


「市木くん、蛍の相手疲れたでしょ?お茶どうぞ。それとも、ビールがいい?」

市木の心に嫉妬心が湧き出ようとしていると、そばから明日香が声を掛けてきた。その声を聞いて、市木も少し冷静になってきた。

「ありがと。ビールは、あとで葉山と一緒に飲むよ」

「うん、わかった。いまから僚は蛍と一緒にお風呂に入るはずだから、夕ご飯までゆっくりしてて」

明日香は市木にそう言うと、僚と蛍の着替えを準備しに出ていってしまった。


明日香にゆっくりしててと言われたので、市木はソファーに座り遠慮なく一息つく。

僚と明日香の子供の蛍は、市木にとっても可愛い存在だ。まさか自分がこんなに子供好きだったなんて知らなかった。それを自覚させてくれた、大切な親友の大切な宝物。それと同時に、やっぱり自分も欲しくなる。

それは誰とでもいいわけではなく、自分が本当に好きになった人との証として守りたい。

市木は最近ずっと、そんなことばかり考えていた。


しばらくすると、玄関のインターフォンが鳴った。

キッチンに戻っていた明日香は、誰だろう?と言いながらモニターを見る。

そこには、白のワンピースに白の日傘を差した、若い女性が1人立っていた。

モニターを見ながら明日香が訝しんでいると、市木がそばに寄っていく。

「明日香ちゃん、どうしたの?」

「この女性、誰だろうと思って.....もしファンとかだったら、出ない方がいいかなぁ?」

そう言って明日香が見ていたモニターを覗いて、市木は腰を抜かす。


「ダ、ダ、ダ.....ダメッ!絶対開けたらダメだっ!」

「どうしたの?市木くん。知ってる人?」

市木の驚きようを見て、明日香は何事かと聞く。


「.......この子だよ。俺のお見合い相手」

「...............えぇ⁉」

今度は明日香が驚きの声を上げる。

「なんで、ここにいるのがバレたんだ⁉」

「それより市木くん、どうするの⁉」

「どうするも、こうするも.......」

2人がオロオロしているうちに、再度インターフォンが鳴る。


「市木くんっ、とにかくインターフォン越しに話すから、静かにしてて」

明日香にそう言われた市木は、自分の両手で自分の口を押え、コクッコクッと頷く。


「.......どちらさまですか」

「あの....突然、このような形で大変申し訳ございません。わたくし、白井鈴乃(シライスズノ)と申します。葉山僚さんのお宅で間違いございませんか」

「.......そうですが.......」

「わたくし、葉山僚さんのご友人である、市木颯太さんの()()でして、そちらに颯太さんがお邪魔していないかと思い、お伺いした次第でございます」

「.......市木くんはこちらに来ていませんが」

「左様でございましたか。では、もし颯太さんがおみえになりましたら、伝言をお願いいたします。鈴乃はずっと待っております、と。それでは失礼いたします」

言うだけ言って、鈴乃は葉山家の前からいなくなった。


「市木くん......許嫁って言ってたよ?」

「違う違う違う!絶対に違うっ!」

明日香もなんだかんだ言って、市木との付き合いが長い。市木の様子を見ても、嘘をついているようには見えなかった。


「明日香ーっ、蛍がでるぞー」

風呂場から僚の声が聞こえてきて、明日香は「はーい!」と返事をする。

「市木くん、話はまたあとでね」

明日香にそう言われて、市木も素直に頷いた。


それから夕飯を食べ、僚が蛍を寝かしつけた後、市木が2人に白井鈴乃について話し始めた。

「彼女に初めて会ったのは、俺が中学1年の時だよ。葉山は知ってると思うけど、あの頃から俺、なんというか......親への当てつけでひねくれててさ。そんな時に、あの子の親があの子を連れてうちに来たんだ」

「あの女性、インターフォン越しにしか見えなかったけど、結構若かったね」

明日香にそう言われて、市木はフッと鼻で笑う。


「そりゃそうだよ。だってあの子まだ19歳だもん」

「ええ⁉」

「マジか市木!」


自分たちがいま30歳なので、一回り近く年下の女の子になる。

お見合いというから、てっきり自分たちの年齢と近い女性だと思っていたのに、予想外の若さだった。


「え......てことは、中学1年の初対面の時、彼女は......」

「まぁ、普通に考えて2歳くらいだな」

「そんな年で許嫁だったの?」

明日香はどうしても、「許嫁」という言葉が忘れられなかった。


「それは断じて違うよ。あっちが勝手に言ってるだけ。それに俺は彼女と結婚する気なんてないんだ。だって.......」

「だって?」

市木は2人に意を決して打ち明ける。


「.......いま、その......気になる人がいて......だから.......あの子とは結婚できないんだよ......」

僚と明日香は、恥ずかしそうに言う市木を見て、何とかしてやりたいと思った。そんな人がいるのに、好きでもない相手と結婚するなんて、あまりにも可哀想だと思ったからだ。


「だったら尚のこと、逃げ回ってないで、きちんと話して断るべきなんじゃないか。彼女のためにも」

「わかってる。だから最初の時点ですぐに断ったんだ。俺には大切な人がいるから結婚できないって。でも、いままだ相手と付き合ってないなら、自分にもその権利があるとかなんとか言いだして、終いには、子供の頃から俺と結婚するって聞かされてきたのにって言われて......」

そこまで言うと、市木は昼間と同様に再び項垂れてしまった。

市木の話を聞いて、彼女が許嫁だと主張したことも、なんとなく理解した。


「それにしても、なんでウチが分かったんだろ?」

「それは......たぶん、俺の親から聞いたんだろう......」

「市木くんのご両親?」

明日香は、市木との付き合いは長いものの、家族の話はほとんど聞いたことがない。大きな総合病院を経営している医者一家で、相当なお金持ち。これくらいの情報しかなかった。


「まあ、お前の親父さんなら簡単に調べるだろうな」

僚は市木の家族のことも知っているので、ここが市木の親友の葉山僚の家であることを知っていても、なんら不思議ではないと考えた。

それはたぶん僚の家だけでなく、木南や隼斗、誠、竣亮も調査済みであることは十分に考えられた。


「市木くん、その......気になっている人に、告白とかって....しないの?」

明日香に聞かれて、市木は困ったような顔をした。

「うーーーん.......あんまり明日香ちゃんの前で言いたくなかったけどさ、俺、自分から告白したのって、今のところ明日香ちゃんだけなんだよね。だから、なんというか......ちょっとトラウマというか......」

「う.......ごめんなさい.......」


あの夏祭りから10年以上経つというのに、市木は明日香への想いとは別にトラウマを抱えていたようだ。

そんな2人を見て、僚は面白くないという顔をする。

「一体どんな人なんだよ?お前が気になるなんて、これまでそんな風に言う人なんて(明日香以外に)いなかっただろ?」

僚に聞かれた市木は、今度は顔を赤くして俯いた。


「..............絶対に、引かない?」

市木は打ち明ける前に確認を取りたかった。特に、この2人には。

「なんだよ引くって......まさか、未成年とか......」

「違うっ!その逆!年上なんだよっ」

年上にしても、その反応は何なのか.......余計に疑問に思ってしまう。

「もったいぶらずに言えよ。どんな人なんだ?」


「...................美乃梨さんだよ」

市木が小さな声でぼそっと言う。

「「...............え?」」

僚と明日香は、一瞬誰のことかわからなかったが、その名前で思い当たるのはどこを探しても1人しかいない。

「美乃梨さんなんだ。俺がいま気になっている人。というか、もう好き.....になってるかも......」


「「ええええええ⁉」」

結婚して以来2人は、夫婦で初めて大声で叫んだ。

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