密殺ゲーム
この世の中は変だ。だが、誰も変なことを気にしない。
ハルは、電車に揺られながら単語帳を眺めていた。特に優等生ではないため、ただ眺めているだけだが。ふと上を見上げると広告が吊り下げられている。70代のみなさま薄毛が気になりませんか?我が社では、このクリームを販売しており—こんな広告だった。その隣には老人ホームの広告が飾られている。その隣にも。ずっと。
広告の多さからもわかる通り、この国には老人が増えすぎた。今や、日本国民の40%は老人だ。そのため、自分たちのような高校生はかなり希少となっている。
電車から降りると、親友であるタツに会った。
「おはよ。」
「おはよ。」
「なぁ、昨日のニュース見た?」
「見た。やばかったよな。ついにって感じ。」
そう言って、タツはスマートフォンをハルに見せた。それはニュースの記事で、見出しには、「速報、政府が高齢者削減のために安楽死制度を導入しました。」と書かれていた。
そういえばさ_____
特に気にも留めず、二人の話は違う話題に逸れていった。
二人はその頃、まだ何も分かっていなかった。知ろうともしなかった。地獄が始まることを。
「おはよー。」
ハルは学校に着き、教室に入るとナギサに話しかけに行った。
「うん。」
いつもより声のトーンが低く、顔色が悪い様子に、
「どうした、なんか具合でも悪いのか。」
「いや、大丈夫。ただの寝不足。」
「おう。そうか。」
心配をしたが、これ以上何か言っても何も教えてくれなさそう、と思い自分の席に着いた。
「よーし、ホームルーム始めるぞ。みんな席に着けー。」
いつものように気だるそうにしている先生がみんなに注意を促す。みんなが席に着くと、
「お前ら、昨日のニュース見たか。」
先生が説明を続けようとした瞬間、クルミとリョウが呑気な声で話を遮った。
「ニュースってなんのですかー?」
「あ、マツコとタカシの不倫のやつ?」
プライベートなことを先生がこんなところで話すわけがないだろ、と思っていると、先生はその言葉を無視し、説明を続けた。
「安楽死制度導入の件だが、俺の祖母がその制度を利用する一人目として選ばれた。政府から通知がきたのだが、これはランダムで、選ばれた人は強制的に利用しなければならないらしい。すまない。このような場を借りてプライベートなことを喋ってしまって。だが、お前らにも家族がいるだろ。もしかしたら、ご家族が選ばれるかもしれないという覚悟を持っておいてほしい。」
すべて言い終わった後、先生は嗚咽しながら泣き出した。クラスの空気は一瞬で凍り付き、誰一人言葉を発しなかった。いや、発せなかった。
その日は一日中空気が濁っていた。早退する人もいた。
放課後になり、帰路につくとタツが、
「なんか、これ思ったよりやばいかもな。」
と怪訝そうな顔でハルに言った。
「あぁ。」
「全く、政府は何してんだよ。こんなん人権侵害だろ。」
そういうタツの言葉には怒りが込められていた。
「案外、いいと思うけどね。」
後ろから声が聞こえて振り返ると、ナギサが興奮したように頬を赤らめて話しかけてきた。
「良いって、そんなわけないだろ。」
またもや、タツが反発して言う。
「だってさ、よく考えてみてよ。老人増えすぎじゃない?電車にも、バスにも、駅にも、公園にも。とろくさいし邪魔じゃん、普通に考えて。」
ナギサの意見に、確かに、と思うところはあった。だが、老人の悪口は言いたくない。
「まぁ、それに、これから俺たちが老人たちの年金を払わなきゃいけないから、邪魔ではないとは言い切れないけど、安楽死制度を強要して老人に使わせることは少し違うかもね。」
ハルがナギサに少し同意した意見を言うと、タツは
「は?何言ってんの。邪魔じゃないし。安楽死制度、おかしすぎだろ。お前らこんな薄情な奴らだとは思わなかったよ。」
そういって、タツは走って先に帰ってしまった。ナギサもバスに遅れる、と言って先に帰ってしまった。
ハルは一人になり、帰りにコンビニに寄った。そこで、幼馴染であるカズハに出会った。カズハは中学卒業後、高校に行っていない。親の経済力がなく、今は老人ホームでバイトをしている。
「よっ。元気だった?」
「うん。なんとか。」
「どうしたの?なんかあった?」
「昨日のさ、安楽死制度のことなんだけど、昨日オーナーさんが政府関係者みたいな人と話してたの聞こえちゃって。」
「え、どんな話?」
気になって、身を乗り出してしまう。
「次、あんたの学校の清宮さんの家族、安楽死させるらしいよ。じいちゃんかばあちゃんなのかはわからなかったけど。」
清宮。清宮という苗字は一人しかいない。タツだ。あいつの家族は明日いなくなる。しばらく声が出なかった。
「あいつの家族が、明日。」
思ったのか口に出したのかわからないが、ハルはコンビニを出て走っていた。
「待って、ハル。だめ。行かないで。」
カズハの声が後ろから聞こえていたが、無視して走った。タツの家へと。




