悔い
その火は更に激しく燃え盛り、その子の体を芯から燃やした。
風も吹かず音もない一面の黄土色の大地に二人は燃えたその子を埋めた。霞みも雲もない青い空に二羽の白い鳥が飛んでいた。
二人の場所から大地と空の境に一つ三人の暮らしていた家のある集落が見える。
「あの家にはもう帰りたくない・・・・・・」
うな垂れた父親は言った。
「帰りましょう。わたしたちの家に。あの子のいた家に」
父親は母親に促されるように、重い体を引きずるようにして歩きだした。
我が子を燃やした翌日も、父親と母親は畑を耕していた。日照り続きで川も乾き、溜め池もとっくに干上がっていた。
二人を困らせるはずの雑草すら生えない。もうこの地に作物が育つはずもない。
ならばどうして畑に鍬を立てるのか、二人にも分からなくなっていた。
今まで二人の生きる意味を支えていたあの子はもう灰になったのに。
しかし、二人はただ畑を耕した。
二人が土を踏む音。
鍬が乾いた土に刺さり、細かく砕かれる音。
二人の息遣い。
それ以外に音は何もない。
その乾いた世界を大きな太陽が照らしている。
ずっと聞こえていたわが子の苦しむ声が二人の耳に染み付いて離れなかった。
鍬を振り下ろすことをやめると、きっとその声が自分達の体を突きぬけ、引き裂いてしまう。
二人はただ、鍬を天高く引き上げ、そして物言わぬ土に下ろした。
二人の授かった唯一つの命だった。
最後には蓄えた米を全て薬に代えた。
焼けた石に垂らした水滴のように、その子の病にその安い薬は無力だった。
よく効く薬を買ってやりたかった、たとえ我が子が不治の病に苛まれていようとも。
思い返せば一体いくつの望みを叶えてやれただろうか。あの子が生まれてからはずっと不作続きだった。
そしてついに豊作というものを知らずにあの子はこの世からいなくなった。腹を膨らまして眠る幸せをあの子は知らない。
産後直後から母の乳の出は悪く、腹を空かせたまま、泣き疲れて果てるように眠った。笑うより泣いていることの方が多かった。そしていつも腹を空かせていた。
「ごめんよ・・・」
二人の声が重なった。
手を止め、互いを黙って見つめる。憔悴しきった顔だった。
決して泣くまい―
自分たちの苦しみはあの子のそれには一生敵わないのだから―
二人はまた何も言わない土に鍬を入れた。
その時、母親の胸に温もりが宿ったことにふと気づいた。
つづく