怪奇!左肩にある「右肩の紋章」! ~なろう系漫画が際限なく作られる理由~
誤字報告いただいたので、お礼と説明。
「何言ってだ?コイツ?」はネットスラングのようなもので、仕様です。すんません、すんません。
左肩にある右肩の紋章。
この情報だけをいきなり目にすると「何言ってだ?コイツ?」状態になることでしょう。
これは、とあるなろう系漫画で実際にあった話です。
この話の主人公は肩に紋章が刻まれているという設定だったんですが、この設定について語られてる場面では「その右肩の紋章~」という台詞もあるのに、紋章が描かれていたのはなんと主人公の左肩だったのです。
これはWeb版の方ではどちらの肩とは言及しておらず、その時点ではおかしくなかったのですが、何故か単行本の方では「その右肩の紋章~」という台詞の修正が入っておかしなことになった、というものでした。
恐らくですが、これは原作の方で「右肩の紋章」との言及があり、単行本化に際してその部分の文言を加筆しながら元絵は修正しなかった、という異常な工程によって生まれたものなんじゃないかと。
ここから分かるのは二つ。
一つは、作画を担当する漫画家がろくに原作をチェックせずに書いている。
もう一つは、編集者もまともに原作をチェックせず、あまつさえ余計な一言を付け加えたせいで絵的に異常な状態になっていることにさえ気づけていない、もしくは気づいたけど面倒だからスルーした。
ということですね。
なろう系漫画ではこういった、「誰か一人くらい気づかんかったんかい」という酷いミスが異常に多いように思えます。
俺自身も、主人公と対峙する相手キャラの武器が一コマの間で刀から両刃の剣に変わる、というのを見つけたことがあります。
日本語がおかしいものも結構ありますね。
これも原作由来ではなく、漫画家と編集の日本語能力に問題があった例ですが、こんなものがありました。
「(主人公の死因を説明して)ええ、本当に痛み入ります」
(転生モノで、死んだ主人公に対して神様のような存在が言う台詞)
小説を読める程度に日本語を知っていれば分かると思いますが、この場面で「痛み入る」は明らかにおかしい言葉ですよね。
「痛み入る」という言葉は「お気遣い痛み入ります」といったように、「相手の配慮に恐縮しつつも感謝する」というような意味で使う言葉です。
恐らくですが、この漫画家は「お気の毒です」とか「心中お察しします」といったような感覚で「痛み入る」という言葉を使っているわけですね。
まぁ百歩譲って漫画家は仕方ないとしても、これを見逃した編集は出版系の仕事をするレベルじゃないですわ。
他にも、ミスではないけど画力がヤバいレベルで酷ぇ、というものも大量にありますね。
「コイツ骨格どないなっとんねん?」というくらい作画が狂ってるものとか、緊迫した場面なのにモンスターのデザインがアスキーアートみたいになってるものとか。
……モ〇スターコミックスとか特に……(小声)
ただ、これに関しては漫画家の責任ではあるものの、漫画家ばかりを責めるのは気の毒かとも思っています。
弱小レーベルを中心に、なろう系漫画は商業レベルに達していない漫画家志望の人達を引っ張ってきている節がありますからね。
漫画家の経歴を調べると、その漫画が初作品って人も多いですし。
エロ漫画業界の縮小で仕事にあぶれたエロ漫画家の起用も多いですけどー。
そして何より、作画がいい加減になる最大の原因は原稿料の安さだと思います。
一般的に、プロ漫画家の原稿料は1ページ当たり10000~15000円くらいで、人気漫画家になると20000~35000円くらいなんだとか。
しかし、マイナーレーベルのマイナー漫画家だと、原稿料は4000~7000円くらいだそうです。
(本当に酷いところは1ページ2000円とかも存在するらしいですが)
なろう系漫画は大半がこのレベルでしょうね。
実際SNSなどでは、なろう系漫画を書いた漫画家の泣き言が散見されたりしています。
友人がなろう系漫画家をやっていて、アシスタントを雇えない一人作業で追い詰められてたところを手伝ったことがある、という人の投稿も見たことがありますね。
先述した「アスキーアートのようなモンスター」も多分これで、アシスタントも雇えない一人作業の結果なんでしょう。
そして、「こんなもん商業出版すんなや」レベルの作画を出版社がスルーするのも、もしかすると原稿料の安さから来てる問題なのかもしれません。
この安さでリテイクとか、「人の心とかないんか?」って話ですから。
こういった話を纏めると、意図せずにしろ意図的にしろ、なろう系漫画に関わる編集者ってするべき仕事をしてないことが多いんですよね。
日本語の間違いなんかが多いところを見ると、校正などにかかる費用もケチってるんじゃないでしょうか。
もしかしたら単純に編集者の能力不足という可能性もありますが、どちらにせよ結果的にミスまみれになってるなら、それはプロとして仕事してないのと同じですよね。
車屋に修理を依頼したのに帰ってきた車は故障したまま、ってなったら普通は「プロの仕事じゃねぇ」と判断するでしょうし。
これで「一生懸命修理した!金は貰う!」とか言われたら手ぇ出るわw
また、「仕事してない」を別の形に言い換えると、コストカットとも言えます。
ビッ〇モーターがこの「仕事しました詐欺」で作業コストをカットして金稼いでましたねー。
そして、なろう作品は印税率が低いことでも有名ですね。
作家側の印税率が低いってことは、出版社側の儲けが多いってことですよ。
「金!金!金!」で考えると、なろう原作を使うメリットが色々見えますよね。
作家にしろ漫画家にしろ、まともなプロを育てるには育成コストが掛かります。
なろう原作を使うとそういったコストすら省けるわけですね。
詰まるところ、出版社からするとなろう系漫画ってスゲーコスパがいいんですよ。
新卒レベルの新人編集に大きな責任負わすことなく経験値を積ませられる、なんて利点もありそうですし。
〇
漫画・小説とジャンルを問わず、本なんて特定の相手には一定数売れます。
結婚関連の情報誌とか既婚者にはまったく需要がないし、結婚出来ない人にも需要がないでしょ?
俺も後者の理由で不必要な部類の人間ですがw
でも、今の日本の経済状況でも一定の需要は必ずありますし、実際売れるんですよね。
影書房という名前からしてヤバめな出版社があるんですが、ここは左寄りの人達やフェミニスト(ツイフェミ)をターゲットにした出版物をメインにして出版しています。
ぶっちゃけここの出版物って、大抵のなろう系漫画や書籍より発行部数多いものが結構ありますからね。
そもそも出版社は個々の書店と直接取り引きしてるわけではなく、仲卸業者のようなところにまとめて本を卸すんで、ちゃんと計画的にやってれば出版した時点で利益確保出来てるんですね。
ほとんどのなろう系漫画は一巻当たりの発行部数が良くて三万部程度で、全国には約一万店くらい書店があるため、一店当たり三~四冊程度引き受けてもらえばいいわけです。
それくらいなら何とか売れるでしょうし、「無駄なもんはいらん」とか言ってると冷遇されて本当に欲しい本が多く入らなくなりますから、ほとんどの書店が付き合いの内で引き取るというカラクリですね。
もし思ったより売れれば重版すればいいだけですし(重版すれば「重版出来!」の宣伝文句を使えるのもメリット)、出版社が損するパターンなんて「見込みだけで初版から大量に刷って大量に返本食らった」なんて場合くらいのもんですから、今の時代そんなアホな失敗する出版社はないでしょう。
そういう裏事情なども踏まえて考えると、なろう系漫画がバンバン出版されるのも納得出来るんじゃないですかね。
製作段階から掛かる諸々のコストとかまで含めると、一冊当たりの儲けはメジャーな漫画より絶対多いはずですよ。
〇
結局のところ、今の出版社は読者をバカにしてるんですよね。
よくあるなろう設定で漫画を描いて出版社に持ち込みしても、ほとんどのものはボツを食らうでしょう。
というか、ボツにしなきゃ編集能力死んでますわ。小学生が考えたレベルの「俺、サイキョー!」みたいな話とか特に。
でも、一定の支持があるのが分かってるからマーケティングしなくていいし、ほとんどがWeb掲載だから誌面のリソースを無駄遣いしなくていいしで、商材としてはかなり使い勝手がいいんですよね。
また、なろう原作なんて途中で放り出されて完結しないものがほとんどで、そんなことはなろうを知っている人なら大抵の人が知ってますよね。出版関係の人間が知らないなんて、まずあり得ないでしょう。
ということは、なろう系漫画も途中で放り出すか途中で打ち切ることを前提に商品化している、というわけです。
頑張ったけど人気が出ずに打ち切り、というのは仕方ないと思います。
でも、ちゃんと漫画家と編集が努力して作り上げた漫画は、理想のエンディングを目指して描いてるはずですよ。
結果が同じでも、作品作り商品作りに対する意識は雲泥の差でしょうね。
これで金稼ぎになるんだから、出版業界のなろう関連部署なんて楽なもんですよ。
恐らくですが、当たり前の感想で叩いてくる層がいることも宣伝効果の内と考えてると思います。
いわゆる炎上系のような手法ですね。
ただ、こんなやり方は出版元の信用を切り売りするようなやり方なんですよ。
もしかすると「どうせ読者はどんどんバカになっていくだろう」、「一定数のバカがいる限り安泰だろう」という見込みでやっているのかもしれませんが。
こういう見方をすると、「何故なろう系アニメがバンバン作られるのか」というのも裏が見えてくるんですが、それはまた今度にしましょう。
いくら手を抜こうと、いくら質を落とそうと、その品質で満足する客が一定数いるなら商売は成り立つ。
そんなお話でした。
おわりー。