「夏の夜空に咲く花の絵」 9 荷物移動
その日以来、私の首元にはいつも紺青色の石が輝いている。
基本的に学校はアクセサリー類を身につけることを禁止していたが、ネックレスはワイシャツの襟で隠れてしまうため、付けたまま学校に行った。
特に服装検査等も無かったので、最後までバレる事はなかった。
ちなみに効果は的面で、以前は頻繁に目にしていた黒い影も、ネックレスをつけてからはほとんど目にしなくなった。
さらに彼女は毎年夏に会うたび、ネックレスを浄化してくれているらしく、効果が切れてしまったと感じたことは一度もない。
ネックレスのことを考えていたからか、気がつけば千慧は首から下げた紺青のお守りを手で触っていた。
そんな千慧の様子を見た水穂は、少し微笑んでから手を打ち鳴らした。
「とりあえず、荷物を社務所から移動させましょうか。
社務所は拝殿とひと続きになっているから、指導する最中に雨に濡れる心配もないでしょうし」
水穂の一言に頷いた千慧は立ち上がり、水穂と連れ立って社務所へと向かった。
*
辿り着いた社務所では、青白い電気が煌々と光っている。
そこに人の気配はなく、どこか冷たい印象を受けた。
『早く社殿に戻りたいかも』
漠然とそう感じた千慧は、部屋の片隅にまとめて置かれていた荷物を手に取った。
「ごめんなっちゃん、花火に使う道具持ってもらってもいい?ちょっと荷物が多すぎて……」
花火用品は二人で使用するものなので、本来であれば千慧も持つべきだ。
しかしどう持っても自身の荷物で両手が塞がってしまうので、お願いしてみることにした。
「良いわよ。千慧の荷物の量と中身を見て、最初からそのつもりだったから。
そのために、私は手ぶらで来たの」
「本当にありがとう!!助かります……」
何度も頭を下げる千慧に、水穂はふわりと微笑んでから言った。
「助け合うのは当然のことよ。さあ、戻りましょう。あなたはここに長居したくないみたいだし」
水穂の言葉に、心臓が跳ね上がる。
どうやら、顔に出ていたらしい。
「さすがなっちゃん……何でもお見通しなようで……」
水穂は艶やかな黒髪を耳にかけながら、「私を誰だと思っているの」と冗談めかして言った後、さらに言葉を重ねる。
「早く行きましょう。この後どうするか、まだ決めていないんだから」
「そうだった!早く戻って決めなきゃ」
忘れ物がないか確認した後、二人は社務所を後にした。