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「夏の夜空に咲く花の絵」 7 先の見えない夕方

「お待たせ。これ、使って」


しばらくして戻ってきた水穂(みずほ)が差し出したのは、まっさらなタオルだった。


もしかしたら、新品なのではないか。

そうであれば申し訳ないが、遠慮しても彼女の手を煩わせるだけなので、口には出さなかった。


「ありがとう!!」


お礼を言ってありがたくタオルを受け取った千慧(ちひろ)は、まだ濡れている髪や肌、そして服を拭っていく。


チラリと見た水穂の長くて綺麗な黒髪は、すでに乾いて艶やかさを取り戻している。


もしかして、母家で髪を乾かしてきたのだろうか。

でも、水穂がこの場を離れていたのは長くても五分程度で、そんな時間があったようには思えない。


心の中で首を傾げたが、いくら考えてもその答えは出てこない。



「どうしたの?何か気になることでもあった?」


水穂が少しだけ覗き込むような形で千慧に問いかけた。


「えっ、大丈夫だよ!ごめん、なんか変な顔してた?」

「まあ、そうね。眉間に深い皺が寄っていたから、考え事をしていることはすぐに分かったのだけれど。もし、私が不快にさせていたのなら謝ろうと思って。」

「不快だなんて思うわけないよ!ちょっと気になることがあったから考え込んじゃっただけ!!

ごめんね、タオルを持ってきてくれて本当に助かった。ありがとう」


濡れた箇所をタオルで拭き終わった私は、きちんと畳んでからタオルを差し出した。


二人で一息ついてから、水穂が口を開く。


「さて、本来であれば境内で花火をする予定だったわけだけど……どうする?」


水穂の問いに、千慧は「うーん」と唸ることしかできなかった。


「突然降り始めたものね。千慧が何も思いつかないのも無理ないわ」

「なっちゃん……。ごめんね、さっきまであんなに晴れていたし、今日は天気予報でも一日晴れだって言ってたから、油断しちゃって」


千慧の言葉に、水穂は静かに首を振った。


「いいえ、千慧が気にする必要はないわ。私も油断していたもの。

……ああ、忌々しい。後で文句を言いにいこうかしら」


千慧は内心『どこに?』と思ったが、相当お冠らしい彼女の様子に気圧され、結局聞くことはなかった。


「そ、それで、これからどうするかについてだけど」


気をそらせようと水穂に話しかけると、彼女は普段の落ち着きを取り戻し、こちらに向き直った。

千慧は内心ほっとしながら話を続ける。


「もう少しで十八時で、二、三時間後って考えると二十時か二十一時でしょ?

私は家が近いから大丈夫だけど、なっちゃんは帰るの遅くなっちゃう」


「私は今日ここに泊まらせてもらうから大丈夫よ。

ただ、あまり遅くなるのはいただけないわ。

神社の境内は神の領域だから護られているけど、一歩外に出たらあなたは直接神様が護る領域から外れてしまう。

今日はまだ雨が洗い流してくれるとはいえ、夜は彼岸との境界が曖昧になっているから。」



その言葉に、千慧は「ああ、そういえばそうだった』、と心の中で呟いた。



水穂は神社関係の家柄(?)なだけあって、こういったことに詳しい。



まだ彼女と出会って間もない頃、一度だけ神社の境内で私以外の何者かと話をしているところを目撃した。


どんなものを見たかはそこだけ靄がかかったようにはっきりと思い出すことはできないが、少なくとも水穂が言葉を交わしていたことは確かだ。



そして、その時彼女は不思議なことを________



当時のことを詳細に思い出すために、千慧は意識を思考の海へと沈めていった。

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