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「夏の夜空に咲く花の絵」 6 水を避ける

それから数十分経っても、雨は止む気配を見せなかった。


「うーん、雨止まないね。」

「そうね……この感じだと、深更にならないと止まないでしょうね。」

「なっちゃんがそう言うなら止まないんだろうなあ……。それに、この雨の感じだと上がった後遊ぼうにも、ぬかるんでてそれどころじゃなさそう。」


チラリと水穂(みずほ)を見ると、空を見つめる表情が先ほどよりも少し険しくなったような気がする。


しばしの沈黙が流れたのち、水穂が口を開いた。


「もしよかったら、少し上がっていかない?」

「いいの?荷物も置かせてもらってるのに」

「ええ、許可はもう取ってあるの。」


彼女は左手で風に靡く髪を耳にかけながら、空いている右手を差し出した。


「そうだったんだ……。ありがとう、ではお言葉に甘えてお邪魔します!」


差し出された手をしっかりと握りしめ、千慧(ちひろ)と水穂は拝殿に向かって歩き出した。





「藺草のいい匂いがするね」


靴を脱いで拝殿に上がると、そこには二十畳ほどの広い空間が広がっていた。


出会って何度か遊んでから判明したことなのだが、水穂はどうやらこの神社の子、もしくは親戚らしく、許可を貰えば境内のどこでも自由に出入りすることができるらしい。


ただ、この境内で彼女以外の人を見かけたことがないので、本当に私の予想があってるかははっきりとはしていないけれど。


それに、なんとなくその話題を彼女が避けているような気がしているので、今日まで聞けていなかったりもする。

いつか彼女の口から聞ける日が来るまで、私からは何も聞くつもりはない。


「そう?広さとしては普通な気がするけれど。

畳はこの間張り替えをしたばかりなの。

私もこの香りは嫌いではないから、千慧が良い反応をしてくれて嬉しいわ。」


あまり表情が動かない彼女の口の端が少しだけ上がっているところを見ると、本当に喜んでいることがわかる。


表情の変化は乏しいが、その代わりにしっかりと言葉で感情を表現してくれるので特に問題はない。


ニコニコしながら彼女を見つめていると、クシュンッとくしゃみが一つ出た。

濡れた服で、体が冷えてしまったらしい。


「ああ。そういえば、服が濡れていたわね……」


所々湿っている私の服の端を触りながら、水穂がポツリとつぶやいた。


「そう言うなっちゃんの制服も____あれ、あんまり濡れてない」


雨に降られて濡れたのは彼女も同じなので、きっと纏っている服も濡れてしまっているだろう。


そう思って触って見たものの、特に湿り気のある部位は見つからない。


「__私のことは心配しなくても大丈夫。それよりも自分の身体を心配してちょうだい。

少し待っていて。今、何か拭くものを持ってくるから」


言うが早いか、彼女は早足で渡り廊下の方へ向かっていく。


一人取り残された私は、今もなお降り頻る雨の音を聞きながら、霧に覆われた木々を見つめていた。

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