「夏の夜空に咲く花の絵」 5 不穏な影
数分後、全てを並べ終えた私は、ちょっとした達成感を感じていた。
「まさか、こんなにあるとは……」
千慧の横で荷物を出し終わるのを見ていた水穂は、小声で呟いた。
その声には、若干呆れが混じっていたような気もするが、驚いていることにしておこうと思う。
「久しぶりになっちゃんと会うって思ったら、今私が食べたいって思っているものを、全て持っていきたくなっちゃって」
頬をかきながら言う千慧を横目で見た水穂は、並べられた荷物たちに視線を戻し、そのラインナップを確認していく。
「瓶のサイダーに、水羊羹に、最中に、葛切り、スナック菓子、クッキー、ゼリー、水饅頭……。甘いものだけじゃないのはありがたいけど、偏りがすごいわね。」
「あと、一応麦茶も持ってきたよ」
「そんなものまで……。重かったでしょう。少しは分量を考えなさいな」
「えへへ……。あ、でもなっちゃんも花火用意しすぎだったしおあいこじゃない?」
「それを言われると返す言葉がないわね。まあ、私のためでもあるんだし、感謝するわ。ありがとう、千慧。」
こちらを真っ直ぐ見つめて微笑む水穂は、やはり息を呑むほど美しく、動揺したのは私だけの秘密だ。
持ち物のお披露目が終わり、水穂は花火を、千慧はバケツを持ち、水をいれに井戸に向かおうとしたところで、千慧の鼻先に何かが触れた感覚がした。
ひんやりとしたこの感触は____
嫌な予感が頭をよぎる。
出来れば当たってほしくない予想は、残念ながら当たってしまった。
雨だ。
空から落ちてきた小粒の雫が、地面に小さな円形の染みを作り始めている。
幸いなことに、降り始めた雨は弱く、花火ができないほどではない。
このままやんでくれることを願おう。
そう思っていた矢先、一緒に地面を見つめていた水穂が、視線を空へと向けた。
「この様子だと、花火は無理そうね。」
彼女が空の一点を見つめながら呟くと、まだポツリポツリとほんの少し降っているだけだった雨は、ザーッという音を立てる激しいものへとみるみるうちに変化していった。
「と、とりあえず軒先に移動しよう!!びしょ濡れになっちゃう!!」
千慧はまだ空を見上げている水穂の腕を掴んで、建物の軒下へと移動した。
千慧に腕を引かれている間も、水穂は少し怒りを孕んだ表情で空を見つめていた。