「水面に浮かぶ大輪の花の絵」 17 ひと夏の終わり
千慧はゆったりと上体を起こした。
「千慧、目覚めたのね。気分はどうかしら」
「なっちゃん……?ここは……?」
「拝殿よ。スイカを食べた後、拝殿へと移動したでしょう?その後で貴方がうとうとし始めたから、私が少し睡眠をとることを勧めたの。よく眠っていたようだけど、少しは回復きたかしら?」
水穂の言葉に耳を傾けながら、千慧は自分が眠る前のことを思い出していた。
『確かにスイカを食べて拝殿に移動した後、すごく眠くなった気がする……』
なんとなく経緯を思い出した千慧は水穂に笑顔を向けた。
「ありがとう、なっちゃん。もう大丈夫だよ!心配してくれてありがとう」
「そう。それならよかったわ」
水穂の心遣いに感謝しながら、千慧はふと拝殿の外を見た。
すっかり日は暮れ、辺りは夜闇に染まっている。
その暗闇を目にした瞬間、先ほどまで見ていた光景が頭をよぎった。
「なんか、夢を見た気がする……」
「夢?」
「色とりどりの花火が綺麗だった……。なんか、思い出すとじんわりと幸せな気分になれるような、そんな夢だった気がする」
千慧の言葉を耳にした水穂が、ふっと微笑んだ。
「素敵な休息の時間を取れたようで何よりだわ。____今日はもう暗くなってしまったし、お家に帰りなさいな。また、遊びましょう」
まだ夢から覚めたばかりの、ふわふわとした心地の中で、水穂の涼やかな声音を聞く。
身体に染み込んでいくような彼女の声に、千慧は自身の心に安心感が芽生えるのを感じながら、頷いて見せた。
「そうだね。今日は本当にありがとう!スイカ割り楽しかったよ!途中から寝ちゃったみたいで一部記憶がないのは申し訳ないんだけど……」
「いいえ、気にしないで。私も楽しかったから。ありがとう、千慧」
水穂が微笑むのを見て、千慧もつられて微笑んだ。
「さあ、立ち上がって。階段の下まで送り届けるわ」
水穂が千慧に向かって手を差し伸べた。その手をしっかりと握り、千慧は立ち上がった。
「ありがとう!」
その後、いつの間にか隅に置いてあった荷物を手に取り、少女たちは拝殿を後にした。
*
境内の出入り口までの長い階段を降りながら、千慧は口を開いた。
「次は何して遊びたい?」
千慧の問いかけに、水穂は口元に指を当てて悩む仕草を見せてから答える。
「そうね……。きっと今度会うのは来年になるだろうから、来年までの宿題にするのはどうかしら。今までの慣例に倣って」
「そっか、確かにもう夏も終わりに近づいてきたもんね。また来年、この神社で会う時にお互い案を持ち寄って決めよう!」
そんな会話をしているうちに、気がつけば出口の目の前まで来ていた。
二人で足を止め、お互いの顔を見つめた。
「それじゃあ、また来年ね!絶対遊ぼうね!!」
「ええ。もう何年も続けているのだから、来年も絶対会えるわ」
水穂の言葉に頷いて、千慧は最後の階段を降りた。車道に面した道に降り立った千慧が振り返ると、水穂は先ほどから一歩も動かず、その場に止まってこちらに視線を送っている。そのまま家に向かって歩みを進め、家にたどり着くための曲がり角まできた。
そこを曲がると神社への入り口は見えなくなってしまうので、そのタイミングで再度振り返ってみると、暗闇の中にはまだ少女の姿があった。
その影に大きく手を振ってから、千慧は角を曲がった。
来年また水穂と会う日を、心待ちにしながら。
第二話、完結です!
ここまでお読みくださった皆様、ありがとうございました。
この物語はまだまだ続く予定ですので、また更新が始まる日をお待ちいただけますと幸いです。
それでは、またどこかでお会いしましょう!




