「水面に浮かぶ大輪の花の絵」 15 思い出の時間
円形に開く花火は赤、緑、オレンジ、紫と色とりどり。時折芒の穂のような開き方をする花火もあって退屈しない。
連続して上がったと思えば、少し間が空き、また連続して上がる。
そんなリズムを繰り返しながら、夏の夜空を彩った。着実に、終わりへと向かって。
千慧は手にしたりんご飴のことはすっかり忘れて、夢中で空を見上げていた。
横に座る水穂の瞳も、千慧と同じく空を映している。
ドオンッパンッパラパラパラ
高いところから低いところまで、空の一角を埋め尽くすようにして百花繚乱、光の花が咲き誇る。その勢いは、次第に強くなっていく。
間髪入れずに次から次へと打ち上がる火花は、尾を引くような散り際も美しいと千慧は思った。
『なっちゃんと花火を見ることができてよかった』
光の雨を見つめながら、千慧はそうも思った。
フィナーレの幕開けを告げる大きな花火の音が、周囲の山々にこだまする。
一際大きな花火を皮切りに、次々と花火が打ち上がった。
上から下までを埋め尽くす花火の中に、朝顔が咲いたり、開いた後に千々に乱れるものがあったりと、十人十色の様相で一時も同じ瞬間がない。
千慧は瞬きも忘れて、その美しく幻想的な光景に見入っていた。
赤、緑、オレンジ、白、紫、ピンク、青、そして肌色。
光ったと思えば、左から右に消えていくものや、途中から色を変化させるもの、柳のように地面へと向かって腕を伸ばすものなど、自由に夜空を彩っていく。
そして最後には、大輪の花火たちが互いにその姿を重ね、煙と共に消えていった。
「綺麗だったねー!」
「ええ、とても素敵な光景を見ることができたわ」
フィナーレの輝きと轟音と煙が夜空から消え去った後、千慧と水穂は感想を言いながら微笑みあった。
歓声はありつつも、どこか静かだった境内に喧騒が戻る。
少女たちの周囲からは、花火への絶賛とその終わりを惜しむ声が聞こえた。
千慧の耳も当然その声を拾った。
「確かに、もう少し見ていたかったなあ」
「貴方にそう思えてもらえたなら、大成功ね」
「え?」
水穂が何か呟いたが、小さすぎるその声は雑音にかき消されて千慧に届くことはなかった。
「なんでもないわ。さあ、私たちも移動を始めましょうか」
長く垂れた艶のある横髪を耳にかけながら水穂が腰を上げる。
それに倣って千慧も立ちあがろうとした時、水穂の動きが止まった。
「なっちゃん?どうかしたの?大丈夫?」
千慧は急に勢いよく顔を上げた水穂に声をかける。普段の冷静な彼女とは打って変わって、今は動揺しているのがありありとわかる表情をしていた。
「え、ええ。大丈夫……」
水穂が言葉を言い終えるか否かのタイミングで、彼女は背後を振り返った。