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「水面に浮かぶ大輪の花の絵」 14 打ち上げ花火

千慧は水穂に宣言した通り、場所取りをすべく水穂が向かった境内とは反対方向へと足を向けた。

一番見やすいのは階段からなのだが、思ったよりも__というか、ほとんど人の影はなかった。


『なんだ、これなら特に場所取りをする必要はなさそう』


千慧は安心したような、拍子抜けしたような複雑な気持ちになりながら、水穂が戻って来るのを待った。



ヒュウウウウウウウウ

最上段に腰掛けながらぼーっと夜闇を見つめていると、軽快な音とともに、一筋の細い線が宙に向かって伸びていくのが見えた。

一瞬消えたかと思うと、一気に弾けて夜空に大輪の花が咲く。


『あ、花火始まっちゃった』


ドオンッ

そう思うと同時に、花火が爆ぜる大きな音が轟き、そして私の視界には艶やかなものが映る。


「なっちゃん?」


視界に映るものの元を辿って斜め上に視線を上げながら振り向くと、そこにはリンゴ飴を差し出した水穂の姿があった。


「お待たせ、千慧」

「ううん、大丈夫だよ。__ところで、そのリンゴ飴どうしたの?」


水穂が差し出したリンゴ飴の光沢を見つめながら、千慧が尋ねた。


「屋台を出店している知り合いと少しだけ立ち話をしていたら、その知り合いが持って行けと言うから、もらったの。お祭りの定番なんでしょう?

千慧も喜ぶかと思って、二つ頂戴したわ」

「そっか、ありがとう!それじゃあ、遠慮なくいただきます」

「ええ、どうぞ」


千慧が差し出されたリンゴ飴を受け取った瞬間、リンゴのずっしりとした重みを感じた。


「なんか、今日は果物に縁がある日だね」


千慧の言葉に、水穂がクスクスと笑う。


「確かに、今日の遊びはスイカ割りだったものね」


二人で階段の段差に腰掛けながら笑っていると、また花火が上がった。

まばゆい閃光が弾けた後、少し遅れてドオンと鈍い音が轟く。

今度は立て続けに、幾つかの花火が上がった。


「うわあ!綺麗!!」


周囲も歓声を上げる中、千慧も思わず歓声を上げた。

夜空を見上げていた千慧がふと横に座る水穂の表情を見ると、彼女も一心に空の花火を見守っていた。

赤い瞳に花火の色が灯って、普段よりもさらに美しく見えるような気がした。


一際大きな閃光が空を支配したあと、花火の音が止んだ。

千慧は内心『もう終わりの時間だっけ?』と思いながら、手元の巾着を漁る。


持ってきていた電子端末で時刻を確認すると、まだ花火が終わる時間までは間がある。

そんな千慧の様子を見ていた水穂が、口を開いた。


「この花火大会は小さく四部構成に分かれているようだから、今は次の部に移るための小休憩時間かもしれないわね」

「そうなんだ。教えてくれてありがとう、なっちゃん」


千慧がお礼を口にした時、涼やかな風が頬を撫でた。


『気持ちいい……』


心地の良い風に目を閉じると、瞼の裏で花火が弾けた。

千慧は不思議に思い、何度か瞬きを繰り返した。

その度に、千慧の瞼の裏に花火が映った。


『そっか、これは花火の残像だ』


幾度と瞬きを繰り返す中で、ようやくその正体を掴むことができた。

これまでに花火を見たことは何度もあったが、花火の残像を見るのは初めてだった千慧は、この発見が嬉しくて、先ほどまでと同様に瞬きをし続けた。


「……千慧?如何したの?目が痛むの?」


頻りに瞬きを繰り返す千慧を見た水穂が、心配そうに顔を寄せる。


「ううん、大丈夫だよ。心配してくれてありがとう!花火の残像が瞼の裏に残っているのを見つけて、それを何度も見ていたんだ。なっちゃんもやってみてよ!」


千慧が水穂に促すと、遠慮がちにだが、彼女は綺麗な赤い瞳を閉じ、そしてまた開いてみせた。


「……どうだった?」


千慧の問いに、水穂はゆったりと頷いた。


「本当ね。貴方の言うとおり、私にも花火が見えたわ」



二人して笑ったと同時に、再び花火が上がり始めた。


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