「水面に浮かぶ大輪の花の絵」 10 ざわめきの中へ
「うっわあ……!凄い!こんなに賑わっている境内、初めて見た!!」
左右に首を振りながら、千慧が感嘆の声を上げた。
普段は閑散としている緑いっぱいの境内に、屋台の柔らかな黄色のライトが煌々と輝き、その光の下には大勢の人の姿が見える。
不思議なことに、大人も子どももお面を被っている人が多かったが、今の千慧にはそんなことは気にならなかった。
背後にいた水穂が、下駄の音を響かせながら千慧の横に並び立った。
「なんとも賑やかで、素敵な光景ね。私も、ここまで賑わいを見せる姿は初めて見たわ」
屋台を見つめながらそう言った水穂の横顔は、少しだけ寂しさを孕んでいるような気がした。
「暗さ的に後もう少しで花火始まっちゃうかもしれないけど、せっかくだから花火を見る前に屋台を見て回らない?こんなにあるからテンション上がっちゃって」
千慧は、友人が持つ寂しさの正体を知る由もなかったが、少しでも楽しい時間を送ることができたらと思い、提案をしてみた。
「いいわよ。行きましょう」
「ありがとう!」
色良い返事が得られたところで、二人の少女は歩き始めた。
あまり広くはない境内に、所狭しと屋台が軒を連ねている。
千慧は水穂と逸れないように気をつけながらも、屋台に視線を向けた。
「わたあめにヨーヨー釣り、金魚掬いにチョコバナナ、そしてかき氷……。本当に選り取り見取りだねえ」
「そうね。少し、多過ぎたかしら」
「なっちゃん、出店の承認とかしたの?」
「ええ。活気がある方がいいと思って、各方面にお願いをしてみたのだけれど、ちょっと集まり過ぎたかもしれないと今更ながら思っているところよ」
「そっか、主催する側には色々と苦労があるよね」
言いながら、千慧は素直に感心していた。
彼女から直接聞いたことはないが、毎年この神社の境内で会うことから、彼女がこの神社の神主の親戚であろうと思っている。
千慧の予想としては、水穂は親戚だからてっきりこの神社の運営等には携わっていないと思っていたのだが、今の本人の話によれば、その認識が間違っていたことは一目瞭然。
『なっちゃんの大人っぽさって、そう言うところから来てるのかも……』
人知れず心のうちで呟いてから、再び意識を屋台へと向けた。
「あ、あっちに射的もある!なっちゃんは、何か気になるものあった?」
千慧が振り向きながら聞くと、水穂が視線を周囲に彷徨わせながら唸った。
「んー、そうね……。____金魚掬いは、少しやってみたいと思ったわ」
「それじゃあ、やりに行こう!」
「無理に付き合わなくてもいいのよ?」
「いや無理にじゃないよ。むしろやりたいと思ってたから」
「そう?では、挑みに行きましょうか」
「うん!確か、金魚掬いの屋台は……」
元来た道にあったのは覚えていた千慧だったが、正確な場所までは覚えていなかった。
キョロキョロと周囲を見回していると、水穂が袖を引いた。