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「水面に浮かぶ大輪の花の絵」 9 呼び声


「______て、__」


誰かが呼ぶような声がする。


「____きて、ち__」



それと同時に、身体を揺さぶられるような感じを覚えた。


『誰……』


夢と現実の狭間にいる千慧の意識が、声の主を知覚しようと試みている。



「千慧、起きなさい」



声の主の言葉をはっきりと知覚できた瞬間、千慧の意識は夢の狭間から引き戻された。



「あ……、なっちゃんだ……。ごめん、私寝てた?」


いつの間にか拝殿の床の上で横になっていた千慧が、上半身を起こしながら水穂に問う。

いつにも増して赤く感じる瞳が、千慧を見下ろす。


「スイカをたくさん食べたでしょう?その後、眠くなったから少し仮眠を取るって言ってたじゃない。覚えていないの?」


水穂に言われ、千慧はスイカを食べた前後の状況を思い出そうとしたが、モヤがかかったように不鮮明で、はっきりと思い出すことはできなかった。


「うん、ごめん……。そんなこともあったかも、くらいしか思い出せない」


千慧が視線を彷徨わせながら謝る様子を見て、水穂が口を開いた。


「大丈夫よ。貴方のせいではないから。____さあ、少し浴衣と髪を整えてから、境内へと降りましょう。すでに賑わっているわよ」

「賑わう?」


水穂の言葉の意図が分からず、千慧が首を傾げる。


「あら、そこも忘れてしまったの?今日はスイカ割りの後、この神社で開催されるお祭りに参加しようって言う話をしていたじゃない。ちょうど、海の方で花火大会も開催されるからって教えてくれたのは千慧でしょう」


千慧は自分がそんな提案を彼女にした記憶はなかったが、頭の中で反芻するうちに何となくそんなような気もしてきた。


それに彼女の言う通り、閉ざされた拝殿の扉の向こうからは、境内に大勢の人がいるかの様なざわめきが伝わってくる。

千慧は少し混乱する思考を振り払うかのように、笑みを作った。


「そうだったよね、ごめん!早く支度して楽しもう!」

「__そうね。早く直してしまいましょう。千慧、あなた自分で直せる?」


水穂の言葉に、千慧は「うっ」と唸った。


「そうだった、私今浴衣なんだ……」


千慧は自分の胸元に視線を落とした。

浴衣は家で母に着付けてもらったもので、千慧は着方を知らなかった。

その様子を見た水穂が、ふっとため息を吐く。


「私が直してあげるから、こっちにいらっしゃいな」

「なっちゃん……!」


水穂の提案に縋るように、彼女の元へ身を寄せる。


「後を向いて」

「はい」


千慧は言われるがままに行動する。


「襟元は乱れていないから、帯だけ少しいじるわね」


そう言っている間にも、水穂は帯をいじっているらしく、ごそごそ、シュルシュルという音が千慧の耳に届く。

身体を揺さぶられるような感覚を覚えつつ、水穂の手から紡がれる音を聞いていると、ぽんっと軽く背中を叩かれた。


「はい、もう動いていいわよ」

「ありがとう!」


千慧には帯がどうなっているのかを直接目で確認することができないが、先ほどよりも帯が程よく身体を締め付けている感じがする。

千慧が帯に視線を落としたり、手で触っているのを見た水穂が、子犬の戯れを見るかのように、微笑ましげな視線を千慧に送った。


「さあ、行きましょう」

「うん!」


差し出された手を取り、千慧と水穂は拝殿を後にした。


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