「水面に浮かぶ大輪の花の絵」 7 お裾分けの行方
水穂が手早くお皿とコップをお盆に載せるのを少し手伝った千慧は、水穂の黒い浴衣の裾が部屋から消えるのを見届け、自分の作業に移った。
「えーっと、とりあえずスイカを食べ始める前の状態に近づければ良いんだよね」
独りごちながら、千慧は手を動かす。
先ほどまで座っていた座布団をまとめ、まだビー玉が入ったままのラムネ瓶を回収して、お皿がなくなった机の上を布巾で満遍なく拭いた。
勝手に襖を開けさせてもらうと、そこには室内用と思しき箒等の掃除道具が見受けられたので、軽く掃き掃除も行なった。
ゴミを塵取りでまとめ、ゴミ箱に捨てたところで、ちょうど水穂が部屋に帰ってきた。
「あら、そこまでしてもらわなくてもよかったのに。ありがとう、千慧」
水穂の言葉に、千慧は笑みを返す。
「崩れやすいお菓子とかもあったから。なっちゃんも、スイカ渡してきてくれてありがとう。ちなみに、誰に渡すことにしたの?」
千慧の問いに、水穂は妖艶な笑みを浮かべる。
「そうね____すでに神様の方にはお供えされていたから、その眷属に備えてきたわ。彼らもこの領域を守護する存在だから、問題はないでしょう?」
「そっか、眷属……。前になっちゃんに教えてもらったことあったよね、この神社に祀られた神様には御付きの神様?がいるって」
「そんなこともあったわね。覚えていてくれて嬉しいわ」
「もちろん!大好きななっちゃんが教えてくれたことを忘れるわけないよ。改めてありがとうね、なっちゃん」
「ええ」
二人で笑い合ってから、水穂が徐に口を開いた。
「ねえ、千慧。貴方に見せたいものがあるの。少し私に付き合ってくれないかしら」
彼女の赤い瞳が、千慧の瞳をまっすぐ見つめる。
その美しさに見惚れながら、千慧は頭を縦に動かした。
「もちろん」
千慧の言葉に水穂が目を弓形に細めながら、白く美しい手を差し出した。
瑞々しくも、どこか作り物のような印象を受けるその手を取り、二人の少女は社務所を後にした。