「水面に浮かぶ大輪の花の絵」 5 安らぎの時間
それから一、二分も経たないうちに、水穂が小豆色の座布団を二つ抱えて戻ってきた。
「なっちゃんありがとう、大変じゃなかった?」
「たかが座布団二つよ。このくらいどうということはないわ。__それでも、気遣ってくれてありがとう、千慧」
水穂の綺麗な微笑みに、千慧の心臓がドクリと大きな音を立てて脈打つ。
『本当にお人形さんみたい……』
千慧は内心でそう思いながら、水穂に微笑み返した。
そのあと千慧は水穂から手渡された座布団を敷き、スイカのお皿が存在感を放っているローテーブルの前に着座した。
その前に千慧は密かに持ってきていたラムネを出すために、自分の荷物をがさごそと漁っていたのだが、いつの間にか取り皿やコップ、そしてお菓子が盛られたお皿が机の上に並んでいた。
ラムネの瓶を自分と水穂の前に一つずつ置きながら、千慧は口を開いた。
「これ、いつの間に用意してくれたの?」
千慧の問いに、水穂は少し考えるような素振りを見せてから、人差し指を赤い唇へと寄せた。
「内緒よ。でも、そうね__種も仕掛けもある、世間ではマジックと呼ばれている類のものと同じだと考えてもらえればいいわ。これも今日の遊びのお楽しみの一つなのだから、そういうものだと思って受け取ってちょうだいな」
「そっか、マジック……。すごく不思議で、本当に魔法みたい!素敵な体験をありがとう、なっちゃん!」
「喜んでもらえたようで何よりだわ。さあ、お話はここまでにして、スイカをいただきましょう」
「そうだね!それじゃあ、いただきます」
「いただきます」
二人で手を合わせてから、千慧と水穂はそれぞれ一切れのスイカを手にして、口元へと運んだ。
シャクッという独特な音が社務所にこだまする。
千慧は舌に広がる水分と甘みを噛み締めながら、その美味しさに頬が緩むのを感じた。
当然一口では収まらず、一口、また一口とかぶりつく。
もちろん、種はかぶりつく前に取りながら。
手に取った一切れは、あっという間に千慧の胃袋の中に吸い込まれていった。
スイカの美味しさに気持ちが満たされているのを感じながら千慧が手元から視線を上げると、水穂が千慧を見つめていた。
彼女の手元を見てみると、スイカの尖った先が少し齧られているだけだったので、まだ一口しか口をつけていないようだ。
『もしかして、スイカ苦手だったのかな……』
心配になった千慧は、水穂に声をかけた。
「なっちゃん大丈夫?スイカ、口に合わなかった?」
千慧の声にハッとした水穂は、大丈夫だというように笑みを浮かべた。
「いいえ、そういうわけではないわ。ただ、千慧が美味しそうに食べる様子を見ていたらなんだか満足してしまって、私が食べることを忘れてしまっていただけ」
「そ、そっか……?なんにせよ、なっちゃんが楽しんでくれているなら何よりだよ!ほら、まだまだたくさんあるから、どんどん食べちゃおう」
「ええ」
そう返した水穂は、手にしていたスイカを一口齧り、「美味しいわね」と言って微笑んだ。