「夏の夜空に咲く花の絵」 2 幼き日に
私たちが出会ったのは、私がまだ5歳の頃だった。
夏のある暑い日のこと。
長い長い階段がそびえる神社の前で、千慧は立ち止まった。
普段は母親と一緒に通り過ぎるだけだったが、今日は一人でその鳥居の前に佇んでいる。
その理由は、友達の家に一人で遊びに行き、そこから家に帰る最中だからだ。
友達の家から千慧の家はとても近く、お互いに行き来しあっている。
道を渡ったりもせず、直線であるため迷う心配もないということで、双方の親共に一人で出歩くことを許しているのだ。
周囲の木々からは忙しなく蝉の声が聞こえて来る。透き通るような青い空に、山の緑が輝いて見えて、千慧は吸い寄せられるようにして二ノ鳥居をくぐった。
最初の方は二、三段の小さな階段が数回出てくるだけだが、本殿にたどり着くまでには長くて高さがバラバラな階段を上り切らなければならない。
小さな体にはとてもキツく感じたが、それでも本殿に行きたくて、千慧は息を切らしながら一歩、また一歩と足を進めた。
階段を上り切った途端に、背後から心地よい風が吹いてきた。その風に驚いて振り返ると、今まで登ってきた階段と、その下に広がる自分の住む街が目に映る。
「わあ、きれい!!!」
千慧は額を流れる汗を拭いながら、感嘆の声を上げた。
吹き抜ける風が火照った体には気持ちよく、しばらくその場で涼んでいると、ひらひらと黒いものが千慧の前を横切った。
『なんだろう?』
手を伸ばして掴もうと試みたが、千慧の小さな手は空を切るばかりで全く届きそうもない。
それでも諦めずに手を伸ばしてぴょんぴょん飛び跳ねていると、それまでは千慧の頭上付近を漂っていたもの____追いかけているうちに蝶と気づいた____は、神社の奥へと進んでいった。
「あ、まって!!!」
千慧の声は周囲に反響するほど大きかったが、蝶は気に留める様子もなくふわふわとあたりを漂いながら奥へ奥へと進んでいく。
途中で少しの時間その場に留まったりしている様子は、木々の根が浮き出て足場が悪く、足元がおぼつかない千慧を待っているように感じられて、千慧はひたすら蝶の後を追った。