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「水面に浮かぶ大輪の花の絵」 3 少女の戯れ


「それで確認なのだけれど、スイカ割りは簡単に言えば目隠しをしながら手にした棒でスイカを割る、という趣旨の遊びなのよね?」


「うん、あってるよ。目隠しをしている人は当たり前だけどどこにスイカがあるかわからないから、周囲の人が声をかけて教えてあげるんだ。周囲の人が全然別の方向に誘導するのもありで、それが醍醐味だったりもするよ」


「そういうこともありなのね。__千慧、まずは私にお手本を見せてくれないかしら」



顎に手を当てながら、水穂はにこりと笑った。

何か企んでいそうなのは明白だったが、千慧は「いいよ!」と返事をした。



「それじゃあ、目隠しをするね。私が目隠しをしたら、スイカを割るための棒を手渡してもらってもいい?」


「ええ、もちろんよ」


「ありがとう!」



水穂にお礼を言いながら、千慧は白い布を目元に巻いた。


途端に、視界が黒くなる。

目を開けてみても、視界には布があるだけで、外の世界を見ることはできない。


視力を奪われたことで、空間把握が難しくなった代わりに、蝉の音や肌を擦れる浴衣の普段とは異なる感覚が鋭敏に感じ取れるようになった。

平生とは異なる感覚に新鮮な驚きを味わっていると、水穂の声が耳に入った。



「もう、手渡しても大丈夫かしら」


「うん!大丈夫だよ。お待たせしました」


「じゃあ渡すわね」


「お願いします」



返事するや否や、千慧の片手に冷たい何かが触れた。

冷たくも柔らかなそれは、きっと水穂の手だろう。

水穂は千慧の手に確実に棒が渡るように、まず千慧の手を取り、次いでその手に棒を乗せた後、自身の手で包み込むようにして握らせた。


予想外の丁寧さに千慧は何だかドギマギしながら、水穂の手が離れていく離れていくのを待った。

その後すぐに水穂の手が離れていったと思うと同時に、彼女が言葉を紡いだ。



「ああ、伝えるのを忘れていたわ。今日は浴衣で来るようにお願いしたから、襷も用意していたの。目隠しをする前に話すべきだったわね。私がかけてあげるから、千慧は少しの間じっとしていて」


「わかった!よろしくお願いします」



千慧が言うと、水穂がふっと微笑む気配がした。

蝉の声がこだまする中で、千慧の耳にはシュルシュルと襷をかける衣擦れの音が大きく聞こえるような気がした。

また見えていなくても分かる手際の良さに、千慧は『なっちゃんは、着物に慣れ親しんでいるのかな』などと思ったりした。


程なくして、「もう大丈夫よ」という言葉と共に、ぽんっと背中を軽く叩かれた感触が伝わってきた。

その軽い衝撃に不思議と力をもらったような気がして、千慧は笑みを浮かべた。



「ありがとう!それじゃあ、始めたいと思います!!」



高らかに宣言をした千慧は棒を握る手に力を入れ、準備万端であることを態度でも伝えた。



「了解よ。それでは始めましょう。……まずはもう少し左へ。」



水穂の言葉に従い、半歩左へとずれる。



「もう少し左。そう、そのくらいね。そのまま少し下がって」



水穂の指示に従い、千慧はステップを踏んでいく。



「やっぱり、もう半歩右へ、そう、次は二歩前に出て。そのあとは一歩後ろへ。さらに左へ」


「ね、ねえ、なっちゃん絶対遊んでるよね」


「もちろん。それが醍醐味なんでしょう?次は斜め左へ」


「はい……」



千慧は諦めて、大人しく水穂の指示に従うことにした。

必要な道具を揃えて場所まで確保してくれたお礼と、思いっきり楽しんで欲しいという思いを込めて。



「そして後ろへ、右、後ろ、左、前」



水穂の言う通りに動いていると、なんとなく感覚が研ぎ澄まされて、足取りが軽くなっているように千慧には感じられた。そして少し腕力も上がったような気がしていた。


『ちょっと重いって思ってたのに、棒が全く重くなくなった』


そう思いながら、千慧は水穂の声に合わせて動いた。

そして____


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