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「水面に浮かぶ大輪の花の絵」 2 スイカ割り


境内では、既に諸々の準備が整えられていた。

広げられたブルーシートに大きな棒、目隠し用の白い布、そして水が張ったタライに漬けられている緑と黒が象徴的な、夏を象徴する果物。


さらには庇の下に切り分ける用の包丁とまな板、お皿まで用意されている。



「もうこんなに準備してくれてたんだね……!ありがとう!!」


「良いのよ。今回はこちらの都合で誘ったようなものだから」



水穂が広角を上げたのを見て、千慧も微笑み返した。

ことは数日前に遡る。


境内で数分ほど立ち話をした際に、ふとした拍子に振った話題で、あることが判明したのだ。



『えっ、なっちゃんスイカ割り知らないの!?』



蝉の大合唱に負けないくらいの大声が、千慧の口をついて出る。

千慧の反応に少しだけびくりと肩を揺らした水穂は、千慧に頷いて見せた。



『ええ』


『ほら、海とかで砂浜に丸々としたスイカを置いて、目隠しをした人が手にしている棒でスイカを叩き割るやつ。見たこともない?』


『残念ながら、見たこともないわ。海、ね……。そこは私の領域ではないから、あまり足を踏み入れないようにしているの』



海のある方角、すなわち、この神社の反対の方角へと視線を向けながら、水穂は答えた。


千慧には最後の方の言葉の意味はわからなかったが、とりあえず、水穂がスイカ割りを見たことも聞いたことも、そしてやったこともないこという事実だけは分かる。



『そっかあ……。じゃあさ、今度ここでやってみない?』


『それは、スイカ割りをこの神社で行うっていう意味であっているかしら』


『そう!!』


『先ほど千慧はスイカ割りは海で行うと言っていたけれど、海辺でなくても大丈夫なものなの?』


『うん、どこでやっても大丈夫だよ。決まりはない!あっ、でも境内だと流石にまずいかな。ブルーシートとかを敷いてやるとはいえ、汁とか飛び散っちゃうかもしれないし……』



千慧の声が段々窄まっていく。


水穂はというと、顎に手を当てて何かしらを考え込んでいるようだった。


暫くの間、二人の少女の間に沈黙が横たわる。

千慧は、目の前の少女が口を開くのを待った。

夏本番の蝉の大合唱の中で、汗が顔から滴り落ちるのを感じた。

と同時に、一陣の風が吹き抜けた。それは熱気を孕んでいたが、汗が伝った後の肌の上をそよいでいったので、千慧は冷を感じることができた。


風がさらった水穂の艶やかな黒髪が落ち着きを取り戻した時、彼女は顔を上げて綺麗に微笑んだ。



『やってみましょう。折角遊びを思いついたのだもの、やらなくては損だわ』


『えっ、いいの?大丈夫?』


『ええ。許可は確実に取れるから、千慧が心配する必要は全くないわ。あと話を聞く限り、大きく重たいものが多そうだから、スイカも含めて良さそうなものを見繕っておくわね』


『ありがとう!!』





こうして、今回のスイカ割り大会は開催される運びとなった。

千慧としては、途中で参拝客が訪れるかもしれない____といっても、千慧と水穂が遊ぶときは必ずと言っていいほど人が来なくなるのだが____境内でスイカ割りをする許可を水穂がどのようにして取ったのかは甚だ疑問だったが、普段の言動から彼女が賢く聡明であることは明らかなので、その疑問を口にすることはなかった。


下駄の音を響かせながら境内の左手に進む。

拝殿の左手にブルーシートを広げてある箇所があったので、一目でそこに準備してくれたことがわかった。

木々に覆われ、翠と土が目立つ境内の一角を占めるブルーが、何となく不思議な、そして不釣り合いな感があった。


やはり、よく許可を出してもらえたものだと感心しながら、千慧は水穂にお礼をすべく口を開く。



「全部準備してくれてありがとう、なっちゃん。大変じゃなかった?」


「気にしないで。以前千慧も一人で色々と用意してくれたことあったでしょう?おあいこよ。……ここで立ち話も何だし、早速始めてしまいましょう。千慧、準備はいいかしら」


「うん!」



千慧の元気な返事を合図に、スイカ割り大会の幕が開けた。



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