「夏の夜空に咲く花の絵」 15 また夏に会う
それから数日後。
千慧は再び神社の社殿へと至る階段を登っていた。
相変わらず高さがバラバラなことに加え、凸凹しているため登りにくい。
少し息を切らしながら頂上までたどり着くと、街中より幾分か涼やかな風が千慧の髪を攫っていく。
石段に映る木陰が、ザワザワと音を立てながら揺らめいた。
後ろを振り返ってみると、透き通るような青空に、木々の健やかな緑、そして幾重にも軒を連ねた家々の屋根が光り輝いている光景が目に入った。
夏の日差しを反射して煌めいている世界を眺めていると、「千慧」と名前を呼ぶ声がした。
神社の境内の方を振り返ると、瑞々しい黒髪と赤い宝石のような瞳が印象的な水穂の姿があった。
「なっちゃん!」
慣れ親しんだ愛称で呼ぶと、彼女は僅かに口角をあげた。
気がつけばそのすぐ横でルリアゲハがふわふわと舞っている。
「さあ、今日は何をして遊びましょうか。」
いつもは千慧から話しかけることが多いが、今日は珍しく水穂の方から声をかけてくれた。
それがとても嬉しく、千慧は自分の頬が自然と緩んでいくのを感じた。
本当は境内に入ってから見せようと思っていたが、待ちきれなかったので、その場で鞄を開けて今日の持ち物を取り出した。
「今日は、これを持ってきたんだ……」
言葉を交わしながら、2人の少女の姿は境内の奥へと消えていく。
_________少女たちの夏は、まだ終わらない。
初めまして、夕月夜と申します。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
これにて、第一話「夏の夜空に咲く花の絵」は終幕です。
お気づきの方もいらっしゃると思いますが、このお話は社殿に飾られた「絵」を一つの鍵として展開しています。
また、千慧の意識の切り替わり、すなわち現実と非現実の世界の切り替わりの表現は、全て統一してあります。
もしどこからが現実で、どこからが幻想か分からなかったという方がいらっしゃいましたら、ぜひ読み返してみてください!
彼女たちの詳細については、次のお話し以降少しずつ明かしていく予定ですが、先に10万字以上の長編小説を掲載していく予定ですので、今暫くお待ちいただけますと幸いです。
それでは、今回はこの辺りで失礼いたします。
(2023.5.10 夕月夜)