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家族(3)

「あれは……私はレフィーの家族なんだと思って、驚いたのよ」

「? 貴女は私の番なのだから、家族でしょう」

「うん、そうなのだけど。それをいうなら、私を養女にしたゲイル叔父さんも家族だったはずなのに、私がそう感じたのはレフィーだけだったものだから」


 叔父さんは十年以上も家族だったのに、半日しか一緒にいないレフィーにだけ私は『家族』を感じてしまった。


「ああ、そっか……叔父さんは家族じゃなくて、まだ「家族と思いたい人」止まりだったのかも」


 言い表すのにピッタリの表現が見つかったかと思えば、何とも自分勝手な言い様で、思わず苦笑する。


「私は彼を、彼らを、愛していなかった。今日までずっと……愛せなかった」


 だから敢えて、私は直接的な言葉で言い直した。

 ずっと気付かないふりをしてきただけで、これが私の本心だ。だからこそ、ピッタリだと感じた。

 きっと叔父さんが私を引き取ったのは、最初から生け贄を想定してだった。叔父さんだけでなく、村中から感じてきた疎外感。その理由が哀しいかな、今日の生け贄の儀式で判明してしまった。私はずっと彼らにとって、「いつか生け贄に出される娘」だったのだと。


(でも私は知らなかった)


 私は知らなかった。それは言い換えれば、私だけは「普通の家庭」で育っていたはずだった。

 普通に、家族に愛を向けられる環境にいた。叔父さんから見返りがこなくとも、愛情を向ける自由は私にはあった。


(それでいて、私はそうしなかった)


 私が心を開いていたら、また違う人生を歩んでいたのだろうか。今となっては、もう確かめようもない。

 そしてもう、変えようがない。物理的にも精神的にも、彼らとは離れてしまった。

 この先ずっと、身近な人を愛せなかった私の過去は変わらない。

 ああ、なんだ。そういうことか。

 誰かを愛せない私が、愛されるわけがない。そりゃあ恋愛結婚なんて、夢のまた夢だ。

 ひょんなところから、前世の因縁にまで繋がってしまった。そのことに、私はまた苦笑して――


「人間は、自分を愛することですら努力が必要な生き物です。自分以外を愛せなくて、何が不思議ですか?」


 だから、思いがけなくきたレフィーの問いに一瞬呼吸が止まった。

 次いで、頭の中が真っ白になる。

 『自分以外を愛せなくて、何が不思議ですか?』

 素朴な疑問を抱いたから聞いてみた、ただそれだけの意図しか感じられない彼の問い。それが、深く胸に刺さった。

 どうしてそうなったかなんて明確だ。それが、私がずっと欲しかった言葉だったから。慰めではなく、ただの事実として述べられたことも含めて、そうだったから。

 『自分以外を愛せなくて、何が不思議ですか?』

 (まばた)きも忘れて、もう一度彼の言葉を繰り返す。

 愛する努力が報われない方が自然だなんて、聞く人が聞けば自分のしてきたことを否定されたように感じただろう。でも、私にはその真逆に聞こえた。

 その努力は、してもいいししなくてもいい。あくまで、その程度のもの。「すべき」重要なことではない。

 報われなかったのは、私のせいじゃない。心の奥底にあったそんな幼稚な言い訳を、私は本当は誰かに「そうだね」と言って欲しかった。


(何だか……胸がスッと軽くなったみたい)


 見ないふりをすることで精一杯だった、叔父さんへの恨み。それが綺麗に溶けて消えた……そんな感覚がした。


(私、この人なら愛せる予感がする)


 だって、してもいいししなくてもいい努力を、もうしたい。

 たった数時間。出会って、たった数時間しか経っていない。それなのに、この人となら「本当に幸せになれるかもしれない」と思って、今はもう「愛せるかもしれない」と思っている。

 私の十数年という年月をたった一言で救ってくれたのが、自分に求婚しにきた相手だなんて、まるでお(とぎ)(はなし)のプロローグのようだ。


「ミアは妙なことで悩むのですね」


 私に衝撃的な言葉をくれたくせに、涼しい顔のレフィー。既に見えるのが横顔な時点で、彼にとって何でもない答だったことが窺い知れるというもの。


「わからないことに興味があるレフィーに、丁度良い相手でしょう?」


 だったらいいのに。軽口の裏にそんな思いを込めながら、私はレフィーの隣に腰掛けた。


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