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家族(1)

 見つめ合いときめく如何にもなシーンの次には、私はまた放置されていた。


(まあ今回は一言断りがあったけれども)


 『バスケットの中の本を全部読ませてもらっても?』

 見るからにそわそわしている様子でそう聞かれたなら、駄目とは言えないでしょう。

 とはいえ、ずっとレフィーを観察しているのも、自分が逆の立場だとちょっとされたくない。

 部屋を埋め尽くさんばかりの本棚の本を借りる? うーん、でもチラッと見た感じ、叔父さんの蔵書以上に小難しいタイトルばかり並んでいる。娯楽目的の読書には向かなさそう。


(軽く家の中を見て回ったら駄目かな?)


 そういえばこの家の間取りがさっぱりわからないなと、ふと思い出す。何せ帰宅したレフィーは、案内の「あ」の字もなく、この部屋へ直行してしまった。

 そしてここは、おそらく彼が普段長く過ごしている部屋で……つまり完全に日常モード。これは最初から私に家の案内をすることなど、頭になかったと見ていいだろう。


「レフィー。家の中は勝手に見て回ってもいいの?」


 確認したいのは、主に水回り設備。扉を開けて違っていたら立ち入らないでおくから、それなら平気だろうか。

 そう思いながら私はレフィーに尋ねて、


「勝手にも何も貴女の家です。好きにしたらいいのでは」

「え」


 だから返ってきた彼の答に、私は完全に虚を衝かれた。

 その間、レフィーがこちらを見ることは一切なくて。

 一見突き放したような彼の言葉と態度に、私はしばし固まった。


(あ)


 けれど、次に意味が胸にストンと落ちる。


(そうか。私……家族、なんだ)


 客人ではなく、家族。だからレフィーは『家の案内』が頭になかった。

 そうだ。家族が新しい家に引っ越したとして、子供は家の中を見て回るのに親に断りなんて入れない。親も子供に家の中の案内なんてしない。

 レフィーが言ったように、皆それぞれ好きに見て回る。

 私が呆然と見ている中、レフィーは今読んでいた漫画を読み終えたのか、本を交換していた。右手で横に除けつつ左手で新しい本を手に取っている器用さに、ついくすっと笑みが漏れる。


(今日会ったばかりのレフィーの方が、十年以上一緒に暮らした叔父たちよりも、本当に家族みたいね)


 よく考えたらシクル村の邸は、十年以上いたのに半分以上の部屋に立ち入ったことがなかった。


「ついでです。貴女の荷物を置くのに、適当な空き室を選んで下さい。どこでもいいです。決まり次第、家具類も買い揃えてそちらに設置しましょう」


 やはりこちらを見ないで話しているレフィーに、「わかったわ」と返しながら部屋を出る。

 「どこでもいい」というのは、「どこの部屋に立ち入ってもいい」に等しい。レフィーはまた、意図しないで私の心の隙間を埋めてくれる。

 シクル村での部屋は、ずっと使い勝手に不満を持ちながら使っていた。レフィーはもしかして、私にも選ばせてくれるのだろうか。私用に買い揃えるというのだから、その可能性は高い。


(うわわ。突然の……新婚感!!)


 あれがいいとか、これもいいとか。言ったり言われたり……あ、レフィーは特に言わなさそうか。でも尋ねれば何かしらの感想はくれそうな気がする。

 ああ、何だか両親と初めて街へ行った日のことを思い出す。あのときは本当に楽しみで、眠れなくて。


「ふふっ」


 私は無邪気な子供時代に戻った気分で、『自宅』の探索を開始した。


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