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アルテミシア(5)

「……」


 何も言えないまま、私は自分の左手を見下ろした。

 幾ら見つめても消えずそこに存在するそれに、どこか他人事のように思っていたのが、じわじわと実感が湧いてくる。

 顔を上げ、自分がいる場所を確かめるように周囲を見る。

 純白の壁に、金細工が施された壁掛けランプ。絨毯は明るいグレーで、少し毛が長いタイプ。白いソファには金の刺繍がしてあるクッションが載っており、その脇には観葉植物が置かれている……。

 眺めていたはずのその舞台に立っていたのは、紛れもなく自分だった。


「『アルテミシア』は百年に一度、地表に現れる幻の宝石と言われています」

「そ、そうなの。その年に当たるなんて、すごい偶然ね!」


 意識した途端ドギマギしてしまい、裏返った声が出た。

 レフィーの方を見られなくて、何とはなしにまた指輪に目を戻してしまう。


「いえ、次の出現は二十年後でしたので、掘ってきました」

「掘っ……て?」

「出現する場所はわかっていますので、真下に掘れば見つかります。二十年後なら大体、十六メートル掘ればよかったので」

「十六メートル掘って……来たんだ」


 それは人型で? それとも羽の生えたアルマジロトカゲが? 前者はシュールだし、後者は可愛い。


「掘るよりも、元通り埋める方が大変でしたね。地層ごとに土質が異なるので、土ごとに置き場を分けて、正しい順序で戻さないといけなかったので」


 環境への配慮も忘れない。ただし、二十年後に宝石を探しに来るだろう人間への配慮は無い。


「正解の言葉がわからないので、素直な望みを言います」

「レフィー?」


 レフィーが私の前に(ひざまず)く。

 彼がそうしたことで、指輪を見下ろしていた私の目は、彼のそれとかち合った。

 私たちの視線の一直線上に、彼が掲げた私の左手があった。


「愛しています、アルテミシア。どうか私に、愛する貴女を可能な限り生き永らえさせる許可を下さい」

「!?」


 再び舞台の幕が上がる。しかも、いきなり見せ場から。

 大根役者な私は気の利いた台詞を返すどころか、口を半開きのまま動かすこともできない。

 かろうじて、

 かろうじて、人形のようにぎこちない動きで、私は首をコクンと縦に振った。


「――頷きましたね」

「えっ?」


 瞬間、にこっとではなく、にやっとレフィーが笑った気がした。


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