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恋愛から始めませんか(3)

(はっ、これってもしかしてとんでもないチャンス到来なのでは?)


 素直な喜びの後に仄暗い欲望が目覚め、私は思わずゴクリと喉を鳴らした。


(これが人間のスタンダードだと吹き込んでしまえば、何も知らないこの人なら本当にやってくれるんじゃ……!?)


 期待に胸を膨らませながら、私が話し出すのを待つ彼を見る。

 そういえば彼の容姿は改めて見れば、少女漫画的に百点満点だ。妄想が捗る。前のめりにならないよう気を付けて、私。


「そ、そうね。じゃあまずは――」


 まずは……何だろう。あれ、いざ考えると一番最初って何やってたっけ。

 えーと、恋愛をする二人が出会うでしょう? そうしたら……あっ。


「お互い名前も知らなかったわね。私はアルテミシア。あなたの名前を教えてもらっても?」

「シナレフィーです」

「シナレフィーね」


 そうそう、まずは名前よ名前。で、次は……うーん、見事に今まで接点が無かったから、ここから話を発展させるとなると……あっ。


「うん、愛称を決めましょうか」

「愛称?」

「親しくなりたい者同士が、お互いを特別な呼び名で呼ぶのよ」

「ああ、なるほど。差別化を図ることで、競合相手より優位に立つわけですか」


 経営戦略の話なんてしてない。


「そうね、それじゃあ私は、あなたをこれから『レフィー』と呼ぶことにするわ」

「そうですか。では私は貴女を『ミア』と呼ぶことにしましょう」

「えっ!?」


 まったく身構えていなかったところに、ミア――前世の名前で呼ばれ、つい大袈裟に反応してしまった。

 そう、『()()』。私は前世で、地球という世界の日本という国に住んでいた。そこで平凡なOL――もとい、オタクなOLをやっていた。

 『美愛』……懐かしい、とても懐かしい名前だ。


「何ですか。不満でも?」

「う、ううん、そうじゃなくて。これまで愛称を付けられたときは『シア』だったから、驚いただけ」


 うん、驚いた。誰も知らないはずのその名前を、迷いなくこの人が呼んだことに。


「ああ、貴女も私の名の後ろを拾っていましたね」


 レフィーが、今気付いたというように言う。


「けれど私は貴女には、『ミア』の方が合うような気がしたんです。だから、そう呼びます」


 さらに彼はそう続けた。大した理由ではないといった口調で。そのことが、余計に私の心を震えさせた。


(美愛も一緒に、恋をしてもいいの?)


 瞬きも忘れて、レフィーを見る。


「ありがとう……レフィー。すごく、嬉しい……」


 声まで震えないよう、一言一言意識して言葉にした。そのせいで、泣き笑いになってしまった気がする。

 でもそれは、すぐに自然な笑みへと変えられた。不思議そうに私を見るレフィーが、何だか可愛くて。


「こんなことで、そこまで喜ぶんですか。貴女はよくわからない人ですね。また少し、興味が湧きました」


 彼の興味を引けたことが嬉しいと感じるのは、私も彼に興味を持ち始めたからなんだろう。案外、どこかの人間の男に嫁ぐより、レフィーに嫁いだ方が本当に幸せになれるかもしれない。


「私もレフィーが番で、とても運が良かったわ」


 私がそう言えば、これもレフィーの興味を引けたのか、彼の口がほんの少し開く。

 そしてその口の端が僅かに上がった変化に、私はまた嬉しくなったのだった。


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