表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/69

思い出を消さないで(5)

「叔父さんは、生きている……のよね?」


 恐る恐る、レフィーに尋ねる。

 先程の「そうするべきではなかった」という台詞から、私は彼が思い留まってくれたと解釈した。が、希望的観測であって、それ自体はどちらとも取れる言い回しでもある。

 真相はどうなの? まだ私を抱き締めたままでいる、顔の見えないレフィーの答えを待つ。


「……生きていますよ」


 数秒の間があった後、めちゃくちゃ不服そうな彼の声が、頭上から降ってきた。


「ただ、やはり何もしないでいては腹の虫が治まらないので、玄関ホールに積んであった盗品と思われるものを、人間の城の倉庫に勝手に放り込んでおきました。ここは国管理の平野ですからね。引き取り先は合っています」


 あの亜空間収納って、余所にも勝手に入れられたのか。でも人間の城の倉庫にって……警備の意味……!


「王都で聞いた情報だと、そろそろこちらへ派遣された兵士が到着してもいい頃です。食料もすべて倉庫に送りましたが、兵士が来たなら間もなく彼を捕まえるでしょう。牢で一応食事は出るでしょうから、死にはしません」

「今はどうしているか、わかる?」

「私がミアを抱えてこの家に入ったのを見たはずなので、さすがにここにはいないでしょうね。盗みに入った家のどれかに隠れたのでは?」

「そう……」


 叔父さんは体力はなくとも、そっち方面では確かにしぶとそうな感じではある。レフィーが話す兵士が来るまで、何とか生き延びてくれるだろう。実際、私たちが来るまでここで一人、逞しく生きていたわけだし。


「さあ、帰りますよ。ミア」


 そっとレフィーが私から離れる。

 名残惜しい……と、ちょっと思ってしまった。


「初の朝帰りですね」

「言い方! って、私が気を失ってから日付が変わっていたのね……」


 窓に目を遣れば、確かに外が見えるので夜ではない。けれど、朝だと気付かない程度には暗かった。そしてやはりそこには、止んでいない雨が見えた。


「……レフィー。雨を止めて欲しいの」


 この雨がレフィーの譲歩だとわかっている。それでも、湖が溢れ、すべてが呑み込まれる村を想像するのが辛い。


「もう誰もいないのにまだ願うのですか?」

「……ここには、たくさんの思い出があるの。嬉しいことや楽しいことも、少ないけれどあったのよ。例えもうこの地に戻ることがなくても、無くなって欲しくない」


 この村が本当に『平野』になってしまうのではないか。有り得ない未来でないことが怖くて、安心したくて、諦めきれない。シクル村に対する郷愁の念が私にもあったなんて、私自身、初めて知った。


「良い思い出があったとして、けれど最後に貴女は突き放された。要らないでしょう、そんなもの」

「――じゃあ、レフィーは私が死んだなら、すぐに忘れてしまうの?」

「は?」


 レフィーがこれまで聞いたことのないような、素っ頓狂な声を上げる。ここまで素で返してきた彼は珍しい。

 私はベッド脇のレフィーの方へと身を乗り出して、彼の両手を取った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ