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暗雲(4)

「よかった……」


 村の皆が引っ越していたこと、あったかもしれない恐ろしい未来を避けられていたこと。両方の意味で、私は胸を撫で下ろした。脱力して、その場にぺたりと座り込む。

 玄関扉を叩きながら私の頭を(よぎ)ったのは、開かない扉の向こうに物言わぬ骸と化した皆がいる、そんな想像だった。

 それは災害に遭って村を出て行くというのは、大変だったと思う。けれど、生きてこの村を出られた。充分ではなかっただろうが、引っ越しの準備をする時間も取れたはずだ。

 私がシクル村を出て、一ヶ月以上は経っている。特に食料や薪を巡って、村中が混乱したに違いない。だから早々に村を捨ててくれて、よかった。


「ミアが実際に殺されかけたことも、村人の行動を早くさせた一因でしょうね。この村に生け贄という慣習があることを、あのとき彼らは本当の意味で知ったのだと思いますよ」

「あ……」


 そうか。旱魃で私は生け贄に出された。生け贄の儀式というのは、遠い昔話ではなかった。それなら次の旱魃のときには誰が差し出される? 誰もがそう考える。

 こう言っては不謹慎だが、シクル村は無くなって正解だった。私は恵みの雨とはいえないにしても、雨は降らせてしまった。そのことで余計に、生け贄は身近な恐怖となってしまったはずだ。そんな村にいて、穏やかな日々が送れるとは思えない。


「あの日、ミアを見殺しにしようとした人間はそれなりの数がいたと思いますが……私が姿を見せたときといい、今回といい、逃げ足だけは速い」

「私は、誰もいなくてよかったと心から思うわ」

「――誰もいない……そうですね」

「レフィー?」


 突然、レフィーがいつもの抑揚のない口調に戻る。その急な変化に、私は思わず彼の名を呼んだ。


「いるのは、盗人ぐらいです」

「え?」


 いつの間にか花から別の場所へと目を移していたレフィーの、視線の先を追う。

 そして斜め向かいの家の窓から這い出した者の姿に、私は反射的に身を縮ませた。

 そんな私を見てレフィーが傍まで来てくれる。彼は座り込んでいた私に手を差し伸べ、立たせてくれた。


「ありがとう。――こんな日の高いうちから泥棒がいるなんて……」


 先に軒下に盗んだ品を出していたのか、大柄な男に見える泥棒は這い出した後、大きな麻袋を肩に担いだ。それとは別に、小麦袋らしきものを手に持っているのが見える。だとしたら、腰のベルトから下がっている小袋は調味料だろうか。

 廃村になった経緯からいって、多くの家に持ち出せなかった荷物があるのだろう。誰もいない、雨で視界も悪い、確かにこの村は泥棒には格好の的だ。治安が悪くなるのも当然か。

 よくよく辺りを見れば、窓を割られた家も少なくなかった。この村を狙っている輩は、あの泥棒の他にもいると思っていいだろう。夜になれば、ここはもっと危険な場所になるのかもしれない。


「国が管理する平野というのは、ようは手付かずの自然と同義ですからね。金のなる木が生える森のようなものです。こぞって虫が(たか)ることでしょう」


 私の考えを肯定するように、レフィーが泥棒の動きを追いながら言う。

 私も荒らされた家屋から、再び泥棒の方へと目を移した。


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