表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/69

突然の箱詰めシチュエーション(3)

「ス、スーツ……」


 その神々しいアイテムに、私はよろめいた。

 焦げ茶色の革靴を履いたレフィーは、同じく茶系の無地なスラックスを穿き、揃いの上着に袖を通しているところだった。中の白いワイシャツもピシッと着ているが、青いネクタイはまだ首に掛けただけの状態だ。

 レフィーのいつもは下ろしている髪は、一つに括られて右肩に流されている。彼が私の前で少し屈んだことで、その紫の髪の房がサラリと揺れた。


「ミア。私のネクタイを締めて下さい」

「わ、わかったわ」


 変な声が出そうになったのをギリギリ抑えて、頷く。

 私が持っていた服をレフィーがいったん預かってくれて、私は空いた手で彼のネクタイに触れた。


(これはいい社長。これは間違いなく、高層ビルの最上階から地上を見下ろしている社長……!)


 打ち震えながら、レフィーのネクタイを締める。

 この世界に転生してからは初体験だが、私がネクタイの締め方を忘れるなんて有り得ない。しっかり一発で綺麗に決まった。

 前世では、男装したコスプレイヤーの友人のものしか締めたことがなかったのに。そんな私が夫のネクタイを締めている……何という感動!

 一歩下がり、完成したエリート社長を上から下まで眺める。

 下から上へと眺める。

 左から右へ、右から左の角度も忘れない。

 ()(かん)(あお)りも欲しいところだが、そこは妄想でカバー。


「眼……福……!!」


 この世界に生まれ変わって以来、スーツに飢えていたという背景もあり、私の興奮は最高潮に達していた。


(こ、呼吸が……夫に、萌え殺される……っ)


 よもやまさかこのファンタジー世界で、こんな光景を目にする日が来ようとは。

 それにあの店なら、これに続く新作も期待できそうではないか。オフィスラブをこの世界にも広めたいという、私の密かな野望を叶えてくれそうではないか。

 夢が……広がる!!


「ミアも着替えて下さい」

「えっ、あ、そう、そうね」


 祈りのポーズを決めている場合ではない。レフィーの言う通りだ。私自身もこの壮大な企画に参加しなくては。


「着ている服を脱いだら、こちらに渡して下さい。それまで事務服はこのまま持っていますので」

「うん。……うん?」


 今日の私の服装は、若葉色のマキシ丈シャツワンピース。ちんまりした白いボタンを上から三つ外したところで、私は、はたと手を止めた。


「なんでエレベーターで着替え……?」


 ここは家の庭である。つまりすぐそこに着替えるに適した室内という場所がある。

 何故、着替えてから乗らなかった。そんなに一刻も早くエレベーターを見せたかったのか。

 まあこれほどの大発明なら、それも納得――


「ああ、ミアの着替えが見たかったからです」

「ふぁっ!?」

「ここだと隠れようがないので」

「……ああ、うん」


 台詞だけなら、私のあられもない姿を見たいように聞こえる。が、ことレフィーに関しては、違うとわかる。彼は(ひとえ)に、この事務服をどうやって着るのかが知りたいだけだ。

 服が本題と言ってはいたが、本当に大発明なエレベーターの方が前置きだった……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ