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雷竜の『雷』(2)

「来ましたね」

「何かシナレフィーがやけに怒っていたって魔王城が――って、えっ、本当にやけに怒ってる」


 走ってきたわけでも飛んできたわけでもなく突然この場に現れた陛下に、レフィーはまったく動じていない。ということは、陛下のこの登場の仕方は想定済みということか。お菓子に目がない苦労人でも、やはり魔王は魔王らしい。


「ミアが触媒の世話を請け負ってから、もう十日目です。七日は過ぎているんです。明日は休日にしますので、今すぐ中庭の時間を止めて下さい」

「え、あ。七日にこだわる理由はわからないけど、時間を止めるために呼ばれたのはわかった」


 寧ろレフィーの方こそ魔王に見える威圧感で言い、陛下の方がたじたじといった感じで返事をした。

 いきなり七日がどうと言われても、わかるわけがないのに。それでいて部下に譲歩してくれるとか、陛下はどこまでもいい人である。

 ――って今、時間を止めると言った?


「よし、これで止まった。再開するときは、その花壇の縁を三回叩けばいいから」

「ありがとうございます……」


 機械の一時停止ボタンを押したくらいの軽さで言った陛下に、私は半ば呆けながら答えた。

 試しに植物に手を伸ばしてみても、薄い膜が張られている感じがして触れられない。花壇の土をひとつまみ、上からパラパラと降りかけてみる。……硝子の表面を滑り落ちるように、すべての土が下まで落ちた。

 これはすごい。世界を征服できるレベルの()(わざ)である。それなのに使いどころが植物の世話という魔王様に、乾杯。


「こんなことが可能だなんて……」

「話していなかったのは、陛下の落ち度だと思います」

「ごめん、ミア!」


 まだ呆けていたところ、合掌スタイルな陛下に勢いよく謝罪された。


「俺がやってたときは、しばらく世話は無理と思ったら道すがら中庭の時間を止めてたから、失念してた」


 そしてこの言い訳である。道すがら、時間を、止めていた。陛下が平和主義者だったことが、人類最大の幸福であったと断言できよう。

 さらにパンパンと手を叩いて頭を下げる陛下。二拍手一礼される立場は、寧ろ貴方の方だと思う。超能力は(あが)めたいし、これまで植物たちを全部一人で世話していた功績は(たた)えたい。


「そんな。どうか顔を上げて下さ――」

「さあ、帰りますよ。ミア」

「ちょっ、レフィー!」


 顔を上げた陛下が、さらに私を見上げる。私がレフィーの肩に担ぎ上げられたが故に。

 お姫様抱っこならぬ、お米様抱っこと呼ばれる奴だ。『運ぶ』ときより『(さら)う』ときに使われやすいスタイルであり……私も今まさに攫われていた。


「へ、陛下、ありがとうございました!」


 あれよあれよという間に距離が開いてしまった陛下に向かって、せめて両手をブンブンと振って大きな感謝を示してみる。

 そんな私に片手を振り返してくれていた陛下の表情が、どことなく憐れみのそれに見えたのは、気のせいだったと思いたい。


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