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結婚相手は人外でした(3)

「捨て……いえその、竜の御方。捨てているわけではないのです。恵みの雨を水神様に乞うお役目として、巫女が湖に入るのであって――」


 思わず「それ言ったら駄目な奴!」と素で返しかけて、慌てて余所行きの言葉に言い直す。

 アルテミシアはお嬢様だったので、せっかくだからとこれまで外面はそれっぽくなる努力をしてきたのだ。コスプレと思えば意外と猫は被れる……というのが、私の感想である。


「知っていますよ。『雨乞いの儀式で、水神の花嫁という名の生け贄を出す村』、本にはそう書かれていました」


 竜な男性が、やはり淡々とした口調で話す。どうやらこれが通常運転らしい。


「村からすれば、雨さえ降れば降らせた者が誰かは問わないでしょう。私が降らせます。だから貴女は今から私のものです」


 表情筋が死んでるのも、きっと通常運転なのだろう。男性は無表情で言って、空に手を伸ばした。

 途端、


「!?」


 「ドバシャーーー!」とでも擬音が付きそうなほどに、激しい雨が降ってきた。

 よく「バケツをひっくり返したような雨」と表現される豪雨があるが、まさにそれ。

 驚いて空を見上げれば、数ヶ月間見られなかった雨雲が村全体に掛かっていた。ご丁寧に村以外の場所は晴れ渡ったまま。ついでに私と彼は、まったく濡れていない。


「本当に貴方が降らせているのですね……」


 あまりにも不自然な降り方に、彼の「私が降らせます」という言葉を信じるほかない。

 私は暫く雨を見上げていて、それから男性に視線を戻した。


(うわ……)


 何とはなしに見たはずが、バチッと目が合ってしまう。

 反射的に目を逸らそうとして、けれど突き刺さるような視線にそうすることができなかった。

 『貴女は今から私のものです』

 私を見つめる彼。そしてその彼の台詞。


(こ、これはもしや今から愛を語られたり……?)


 お互い見つめ合うそれっぽい状況に、ドキドキと胸が高鳴る。

 きっとこれはあれだ。軽い気持ちで捨てられたものを拾いに来たら、実は運命的出会いだったとかいう展開。

 男性が片手を、私の背に回してくる。


(おおっ)


 男性がもう片手を私の膝裏に当て、お姫様抱っこの体勢に。


(おおおっ)


 でもって崖を離れて幾分広くなった草地に私は降ろされ、


(ん?)


 仰向けになった私の上に覆い被さるようにして男性が。


(んんん?)

「では早速」


 短い言葉と同時に、男性が私のドレスの裾に手を掛ける。

 裾が捲られ、私のくるぶしが、ふくらはぎが、段々と露わになって行く。


(これって、まさか……求愛は求愛でも、物理の方!?)

「人間との間に子供が生まれたらどちらに似るのか、今から楽しみです」

「! ちょっ……」


 初めてが青姦は無い、無い、それは無い! そんなほんのり微笑んでみせたって、騙されませんから!


「ちょっと待ったあああああああ!!!」


 被った猫を脱ぎ捨てた私の絶叫は、豪雨の音にも負けないくらいに村の空に響き渡った。


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