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デートを終えて(3)

 挨拶のキスで息も絶え絶えとか、何だそれ。順番的に次に来る「おやすみ」に今から不安を覚えながらも、私はレフィーが淹れてくれた紅茶にありがたく手を伸ばした。


「鉢植え?」


 そこで、テーブルに珍しく本以外が乗っていたことに、今更ながらに気付く。

 十センチ四方の小さな丸鉢は、まだ何も植えていないのか土だけが見えていた。


「ええ。イベリスの花の種を植えました」


 植えていないのではなく、植えたばかりだったらしい。ふとその横を見れば、先程までレフィーが読んでいた本は、花の世話について書かれたものだった。


「ミアが書いた本に、男が女に育てた花を贈っていた場面があったものですから」

「それを真似てくれるんだ?」

「女は喜んでいました。最初から喜んでもらえるものを贈れば、無駄がありません」


 無駄がないときたか。型通りな色恋の語らいではないけれど、そこにレフィーらしさが見えていい。……とか思ってしまったあたり、恋人(正確には夫)の欲目が絶賛発動中のようである。

 でもそれを差し引いても、私に喜んでもらいたいと彼が考えてくれたことが嬉しい。私が好むといったイベリスの花を選んでくれたことも、嬉しさに輪をかけている。

 私は愛しい気持ちで、何とはなしに丸鉢に左手を添えた。


「ありがとう、レフィー。貴方が咲かせた花を贈ってくれるのを、楽しみに待ってる」


 指先で鉢をツンツンしながら、私の方は型通りな返事をする。


「――どうしたの?」


 そう、型通りな、何の面白味もない返事をしたと思った。けれど見上げたレフィーは、目を(みは)って私を見ていた。

 いつも表情がほとんど動かないので、ここまでの変化は初めて目にする。本当に、「どうしたの?」だ。

 私の問いにレフィーが、その表情のまま「……いえ」と小さく言う。

 それから彼は、丸鉢に触れた私の手に自身の手を重ねてきた。


「野生でも咲く花を、わざわざ人間の手で咲かせることに、何の意味があるのかと思っていましたが……」


 レフィーが私の方に身体を寄せる形になり、そのため彼の声がまるで囁いたかのように私の耳をくすぐる。

 穏やかで、先程まで激しいキスを仕掛けてきた人物とは、まるで別人のようで。


「貴女がそうして笑うのなら、意味はあるのかもしれませんね」


 けれど、脳が溶かされるような甘い感覚は、やっぱり同じで。

 まるで表も裏も、どのレフィーも私を好きだと伝えてくれているように感じる。そのことに、嬉しさで身体が震える。私が笑えば意味がある。その解が恋の真似事ではない彼の想いなことに、愛しくて心が震える。

 こんなとき、私は漫画でヒロインの心情をどう表現しただろう。まったくといっていいほど、思い出せない。

 当事者になってみても、いや当事者だからこそ客観的に見られなくて、わからない。


(好きだなぁ……)


 わかるのは、私が描いたどのヒーローよりも、レフィーが素敵だということだ。


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