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竜の『束縛』(2)

 懐かしい記憶と少しの寂しさに、目を細めてかつて住んでいた家を見る。

 前庭の大きな木の側では、姉妹らしき少女が二人でお茶をしていた。


「あの場所、私も母様とお茶をした覚えがあるわ。父様は窓の向こうで仕事をしていて。でも私が振り返ると、いつも目が合ったのよ。ちゃんと仕事をしていたのかしら。……幸せな時間だったわ」

「そうですか。それは可哀想なことをしました」

「え?」


 レフィーからまったく予想していなかった相槌がきて、私は反射的に聞き返した。

 そうした後、遅れて脳に届いた「可哀想なことをした」という情報に、サァッと血の気が引く。


「まさか父様たちの流行病について何か――」

「いえそれは関係ありませんが」


 ズルッ

 構えた瞬間には、もう脱力させられた。

 悪い想像が現実とならなくてよかったが、だったらその思わせぶりな台詞は何だというのか。


「じゃあ、何? 可哀想なことを「した」って」


 「可哀想でしたね」とかならわかる。けれどレフィーは、まるで自分が何かしたような言い方をした。


(単なる言い間違え? そういえばこの人、人間じゃなかったわ)


 つい忘れがちだけれど、レフィーは竜だった。羽の生えたアルマジロトカゲだった。それなら、外国人のように「可哀想があったましたね」なんて言ってしまうこともあるかもしれない。それなのに、ついぶっきらぼうな口調で返してしまった。反省。


「私が貴女より運が良かった、という点についてです」

「運?」


 合点がいったと思ったのに、レフィーのさらなる思わせぶりな台詞に、また疑問の振り出しに戻る。

 お手上げだと予測は止めて彼を見上げれば、真っ直ぐに私を見る琥珀色の瞳とぶつかった。


「私はシクル湖で、貴女を手に入れた。その状況となるには、ミアの両親には死んでもらわねばなりませんでした。貴女より私の望む未来に、運命は転んだわけです。それについて「可哀想なことをした」と言いました」

「それどんなこじつけ――」


 呆れて笑うつもりが、思いの外真剣なレフィーの眼差しに言葉が止まる。

 同時に私の足が止まり、レフィーの足も止まった。

 少女たちはもう家の中へと入ったのか、いつの間にか辺りには静けさが広がっていた。


「それでも、これから先も他のすべてを排除してでも、私は貴女を離しません」


 だからなのか、レフィーの声がやけに響いて聞こえた。


「誰より強く、私は貴女が傍にいる運命を望みます。何が起ころうとも、覆らないほどに」

「……っ」


 息も止まっていたことに、苦しさを覚えてから気付く。

 慌てて空気を吸い込んで、でもどうしてか息苦しさが無くならない。


(こんな告白シーン、私は知らないわよ……)


 レフィーは、本の内容に沿ったデートをしてくれた。それはそれでときめいたけれど、今はその比じゃない。

 竜は番に執着すると聞いて、私が抱いていたイメージは『束縛』だった。

 現に、その手のライトノベルは嫉妬深い竜が番を束縛しているものが多かったし、読者もそんな激しい愛を期待していたのだと思う。私も嫌いではなかった――前世では。

 でもシクル村で『束縛』が日常だった今世では、例え内容が欲している『愛』であっても、惹かれなかった。だから私を家に連れ帰って早々放置したレフィーに、実は大いにほっとしたのだ。ああ、実際の竜はそこまでではないのねと。


(とんだ思い違いだったわ)


 レフィーは私を自由にさせているし、今だって離さないという言葉は使っていても、私自身をどうこうするとは一言も言っていない。

 代わりに彼が口にしたのは、「望み」という形を取った断言。人が大地を歩くように夜になれば眠るように――そんなレベルで私がレフィーの傍にいることになるという、断言。

 レフィーの指先が、私の頬に触れる。そのまま下方に滑って、(おとがい)にかけられる。

 顔を上向かせられ、気付いた。私の目には、涙が滲んでいた。彼にこうされなければ、零れ落ちていた。

 琥珀色の瞳に、じっと見つめられる。

 その瞳が、(まばた)きとともにとうとう零れた私の涙を追う。


(悲しいわけじゃないのよ)


 勘違いされたくない。その思いで私はどうにか声を出そうとして――


「レ……」


 けれどようやく音になりかけた彼の名前は、他ならない彼の口の中に消えていった。


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