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結婚相手は人外でした(2)

 上空で静止した、紫色の巨大な生物がギョロリとこちらを見る。琥珀色の瞳も、全身にビッシリとある鱗も爬虫類を連想させた。連想させたというか、コウモリ的な翼があることを除けば、本当にドデカいトカゲそのもの。

 転生したこの世界――オプストフルクトというらしい――が、日本どころか地球でもないことは知っていた。魔物もまあ、見たことはあった。けれど、せいぜい食卓に並ぶ種類だけで、「動物の変異種みたいものかな」くらいの認識だった。

 竜なんて、又聞きの又聞きくらい遠い話題で。日本にいた頃の感覚で言えば、イリオモテヤマネコとかキタキツネのようなもの。存在はしていても、会いに行こうと思わなければ、一生会わないレベルの生物だったはずなのに。


(ここまでのガチ設定は、先輩案件ですわー……)


 徐々に高度を下げてくる竜を見つめながら、私は遠い目になった。現実を逃避し過ぎて、前世で大学時代に入っていた漫画研究会の()()()先輩にまで思いを馳せる。

 いつの間にか、音楽は止んでいた。

 数十人いた儀式の参加者は、蜘蛛の子を散らしたようにこの場から逃げていった。

 仮にも『湖の水神である竜に生け贄を捧げる儀式』をやっておきながら、竜が来たら逃げるとかどうなの。本物の竜神様だったら、恵みの雨を降らせるどころか逆に祟られる態度ですよ、皆様方。

 そんなわけで、この場には私と竜だけが残された。


(……アルマジロトカゲに似てるかも)


 最初はその大きさに驚いたものの、幾分落ち着いてから見ると何だかアリな気がしてきた。

 何を隠そう、前世では爬虫類カフェの常連だった私。竜のこの姿形なら、キャーはキャーでも黄色い方の悲鳴が出る。


(羽の生えたアルマジロトカゲ。コレはコレで……いいね!)


 私は心の中で、日本にいた頃に使っていたSNS画面のハートアイコンを押した。

 バサッ

 竜が一度、大きく翼を広げる。かと思うとあろうことか、崖の先端に片足で着地した。


(何故に敢えてそこ!?)


 湖に近付くほど、ここの崖は狭くなっている。私がいる地点でさえ、風にあおられれば落ちそうな幅だというのに……って、そういえば風が止んでいる?

 先程までは結構びゅーびゅー吹いていて、よろけて落ちる残念な死に姿にならないか心配していたくらいだったのに。……いや待てよ。それを言うなら、竜がバサバサしている時点で風圧がすごいはずじゃない?

 竜が何かしてるの? 何かって、もしかして魔法? 魔法なの!?

 あああ、やっぱりこの世界、麻理枝先輩案件ですって。同じ漫研所属でも私の得意分野はオフィスラブ。ジャンル違いの壁は厚い……!


「!? 人……!?」


 今度は、竜が一瞬にして人間――二十代後半くらいの男性に見える――に変わるファンタジー展開が発生。ええい、次から次へと。

 何故、麻理枝先輩ではなく私がこのオフィスの無い世界に生まれ変わってしまったのか。部員同士でお互いの漫画を読み合っていたので、異世界ファンタジー物も多少はわかる。わかるが、付け焼き刃程度でしかない。


(竜と聞いてわかるのは、番に対する執着がすごいという設定くらい?)


 竜が番に執着するという設定は定番らしく、麻理枝先輩以外の作品でもチラホラ見かけたので覚えている。

 さすがに目の前の竜が突然、私に求愛しにきたとは思わないけれども。


「貴女を私の番として迎えに来ました」

「……」


 それはないだろうと思った次にはそうなる。そう言えば、そんな展開もテンプレでしたね。


「湖と結婚できるくらいなら、竜でもいいでしょう」


 抑揚の無い淡々とした口調で言いながら、竜だった男性がこちらに向かって歩いてくる。

 真っ直ぐで腰まである紫色の髪に、琥珀色の瞳。竜と同じ配色をした知的な印象の美形である。あと、すらりとしていて背が高い。

 もうね、(まと)う空気が人間のそれとは違う。服装が古代ギリシャ風(どこのアリストテレスだ)だとか、それも黒地に金の刺繍が入ったデザインで神々しさ増し増しだとか。そういう要素を除いても違う、違うわ。


(うぁ……)


 目の前まできた男性を改めて見たなら、空気どころか美形具合が既に人間離れしていた。


(かん)(ばつ)になると、この村は年頃の女を捨てるようだったので、丁度良いと思って拾いにきました」


 そして残念なイケメン疑惑が浮上した。


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