治療方法について②
「さて、君にやってもらうことを話そう」
アーロンは、そう言って沈黙を破った。どうやらハーブティーを飲み終わったらしい。私もちょうど飲み終わり落ち着きをある程度取り戻していた。まだ燻った思いがあるがアーロン先生の話を聞ける余裕は取り戻していた。
「はい、どのようなことをするのでしょうか?」
「簡単だよ。まず君には他人の恋を見て恋を学んでもらうのだよ。君はずっと初恋でここまできたのだろう? つまり、恋の経験が少ないから、そのように心の中にいる獣に心を乗っ取られてしまうんだよ。そして、感情をぐちゃぐちゃにされて心がまとまりの無い状態になって感情的な行動をとってしまうんだ。だから、私の手伝いをしてもらって恋について学んでもらって、自分の恋心と他人の恋を比べるのさ。そうすると自ずと心の整理がされいくようになる」
アーロン先生は真面目な顔でそう言った。確かに私が恋の経験が少ないのは事実である。しかし、他人と私では恋の形も異なるはずだ。他人の恋を知ったからって私のアルフレッド様に対する恋心は変わらないはずだ。私がそのように疑問に思って黙っているとアーロン先生が語り出した。
「クローディア嬢はこのような話はご存知だろうか。かつて、とても高潔な僧侶がいたそうだ。その僧侶は世界各地を旅していた。あるとき、疫病で侵された村に行った。すると子を疫病で亡くして嘆き悲しむ母がいたそうだ。とても悲しむそうだ。今すぐ全てを投げ出して死んでしまいそうだった。そこでその僧侶は『その子を私が治してあげましょう』と言った。その母はとても喜んだそうだ。しかし、その僧侶はその後にこう言った。『その前に死人のいない家に行きなさい』と。それでその母は、村中の家を回った。どこの家も誰々が亡くなったと言う。とても悲しそうでありながら前向きな様子でどの家の人も亡くなった人のことを話すのだ。その母は村の全ての家に回り終わったあと僧侶の下に戻りこう言った。『ありがとうございました。私の子は可愛い子でした』と。つまり、何が言いたいのかと言うと私たちは自分だけが苦しんでいる。誰にも理解できない痛みを抱えていると思ってしまいがちなんだ。しかし、身近にもあなたと同じような苦しみを味わいながら生きている人は必ずいるものなんだ。だから、まず他の人を見て話を聞く。そして、自分を省みる。こうすると自ずと心が整理されるんだ。別に君の恋心がどうのこうのと言う話では無く。まず、心を整理する。これが大切なんだよ。君のような重症な恋煩いを治すには」
アーロン先生は長く話して疲れたのかソファにもたれかかってハーブティーを飲み、私を見た。アーロン先生の言いたいことはわかった。確かに私たちは他者と比較して自分の立ち位置を決める。例えば、身分社会では特にそうだ。相手の身分が分からなかったら、どのように振舞えばいいのか分からない。目下の者に謙れば他の者に笑われてしまうし、目上の方に偉そうに振舞えば社交界にいられなくなる。それと同じように私の恋には今判断の基準がない状態なのだ。私は納得して
「わかりました。ではそのようにお願いします」
と言った。アーロン先生はよかったよかったと言った感じでニコニコと頷いた。そして
「では、これから僕の助手としてよろしくね! クローディア嬢」
軽いノリでそう言って来た。私はなんとも言えない表情でそれに応えた。
「……えぇ、よろしくお願いします」
私はこうしてこのよく分からない保健室の助手をする事になったのだった。