初診①
「ようこそ、保健室へ!!」
と白衣を着た男性がそう言ってクラッカーを鳴らした。その男性の後ろの黒板にも「ようこそ、保健室へ!!」とデコレーションされた文字で書かれていた。
その男性はプラチナブロンズの髪を目にかかるほど伸ばしており、海の底くらい深い蒼い色の瞳をした美男性であった。しかし、あまりに下手くそな表情で微笑んでおり、その美貌を台無しにしていた。私はそんな奇怪な歓迎を受けたため呆然としてしまった。するとその男性は
「さぁ、さぁ、こっちに座って」
私に変な薄い板が載っているテーブルのそばにある2つある椅子のうちの片方に座るように促して来た。
「はぁ」
私は訳がわからず気の抜けた返事をして、その男性が指を向ける椅子に座った。
「さて、まず自己紹介からだね! 僕は、保健医のアーロンだよ。よろしくクローディア嬢」
アーロンはそう言って手を出して握手を求めてきた。
「えぇ、よろしくお願いします」
私はとりあえず、やはり下手くそな笑みをしているアーロンという男と握手した。
「さて、診療をはじめよう。僕には分かるぞ! 君は恋の悩みでここにきたんじゃないか」
アーロンはどうだあっているだろうと言いた気で自信満々な表情で私に話しかけてきた。アーロンの言っていることはあながち合っていたが、私はその表情に少し苛つきを覚えて否定したくなった。だから、
「いえ、ポスターが落ちていたので届けた方がいいかと思いまして」
と私は言った。それにこれ以上アーロンの相手をするのが面倒臭く感じ、適当にお茶を濁して早くここから出ていこうとした。するとアーロンは
「……いや、仮のそうであっても君は今恋の悩みで苦しんでいるはずだ。これを見たまえ」
と言い突然光出した薄い板を指差した。そこには私の経歴や行動が書かれていた。
「これはどこから得た情報ですか? 場合によってはあなたにしかるべき罪に罰せなければいけません」
私は私の情報が知らない人に事細かく知られている事実を恐ろしく感じ、脅しをかけるようにそう言った。
「あ、安心したまえ。これは全て学園長の許可を得てやっていることだ。そう! 一種の業務上必要情報というやつだ」
アーロンは今度は慌てるようにそう弁明した。私はその言い分が信じられず怪しむように言った。
「その事が本当であるという証拠はどこにあるんですか?」
「いや、私はしっかりと学園長に許可を得てるよ。証拠は~~」
アーロンは証拠、証拠と言いながらそこら中を漁り回った。私はその姿を見てため息をついた。
「やっぱり、証拠なんてないじゃないですか。そもそもあなたみたいな怪しい人が学園にいる事自体問題です。警備を呼ばせていただきますね」
私がそう言って立ち上がり、出て行こうとするとさらに慌て出した。そして、何か思いついたのかテーブルに戻って私に言った。
「そうだ! 直接学園長の言葉を聞けば信じてもらえる?」
「……えぇ、そうですね」
「ちょっと待ってね」
そう言うとアーロンは光る板を触り出した。すると茶色を基調とした荘厳としており如何にも偉い人が使っていそうな部屋が映し出された。その中央にある机には学園長が居りご機嫌に鼻歌を歌いながら、爪を磨いていた。
「学園長!!」
「うあぁぁ~~、急に驚かせないでくれないかい。……それでなんだね。アーロン君」
学園長はアーロンの声で席をひっくり返した。学園長は、いたた~と腰を押さえていた。しかし、私が目に入ったのかいきなりシャッキとして真面目腐った顔でこちらを見てそう言った。それに対して、私はいつもと違う学園長の頭皮状況に目がいってしまった。私は、あまりにもデリケートな話題なのでどのように言うべきか迷っていた。すると
「学園長。カツラ取れてますよ」
アーロンはデリケートな話題をサラッと言ったのだ。すると学園長はそう言われて頭を触り出し、あるはずのものたちを慌てて探し出した。そして、すぐに見つけたようで頭に学園長の尊厳を鎮座させた。学園長は気を取り直したように咳払いをして仕切り直した。
「それでどうしたのかね? クローディア君も一緒のようだが」
アーロンはそう聞かれて私との会話を最初から最後まで話した。
「なるほど、クローディア君安心したまえ。アーロン君はこんな感じだがしっかりとしたうちの教員だ」
学園長はそう言った。
「学園長~、こんな感じって! どう言う事ですか!」
「いや、大した意味はない。とにかくそう言う事だから後はよろしく!!」
と学園長は慌てたように何かを押すと板から消えた。私は今まで見たことのない学園長の様子に驚きながらも、一応アーロンがこの学園の教員であるということに納得した。
「じゃあ、さっそく診療をはじめよう! ちなみにさっきの先生に対する失礼な問答を僕は忘れてないからね。今更帰るなんて許さないよ」
アーロンは絶対に逃さないぞとばかりにそう言った。
「……はぁ、分かりました。先生につき合いましょう」
私はため息を吐きながら、そう言った。