恋のキューピッド(?)は自分が向けられる好意には気付かない
2作目です
「結人、お前いつ三宅さんに告白るの?」
「悠馬、どうしたの急に?」
昼休みの教室、昼食を終えて腹を休めながら俺、西尾悠馬は幼馴染の如月結人に聞いた。
「結人、お前にとっては急かもしれないが俺は前々から思っていたことなんだ」
「そんな真面目な顔してまで言うことなの?」
「あぁ、だって三宅さんと話すようになって4ヶ月か?夏休み挟んだ今9月、告白の『こ』の字も無いんだぞ?そりゃあ真面目な顔にもなるさ 」
結人が同じクラスの三宅香織さんが好きだと知ったのは6月の上旬で、4月に2年生に進級して同じ委員会になったのがきっかけで結人曰く、1年の頃から気になって今年度同じ委員会になり関わる内になって好きになったらしい。
付き合いは長いが結人の色恋沙汰の話は今まで全く無く、聞いた時は自分の事の様に喜んだ。
連絡先も交換していて委員会以外にもプライベートな部分でも話が弾んでいるらしく、夏休みに告白できたら結果を教えてくれと約束をして夏休みを迎えたのだったが何も音沙汰が無かったのである。結人の性格上、こういう事では嘘をつかないので夏休み中に告白はしなかったんだろう。
「でも夏休み中は三宅さんと一緒に遊んだりしたんだよ?おかげで距離は縮まったし」
「仲良くなったなら良かったよ。それでどうする?現状維持でいく感じ?」
「それなんだけど、悠馬にちょっとお願いがあって……」
「何だ、シンデレラか?」
「何それ?茶化さないでよ」
何だ、夢は夢で終わらないんじゃないのか。そんな俺のボケを軽く流して結人は軽く咳払いして言った
「悠馬、キューピッドやってくれない?」
「キューピッド?いらないだろ、お前らの距離感的に」
「中学の時はやってたじゃん、『射手座のユウ』?」
「おい、人の黒歴史を出すんじゃないよ全く」
中学時代、何故か俺はクラスメイトの恋愛相談を受けて、それが結果に反映することが多かった。
最初は顔見知りだけしか受けていなかったのが口コミが広がって知らない人の相談まで受ける事になってしまった。
前に相談を受けた奴数人に恋愛経験のない俺にどうして恋愛相談をするのか聞いた事がある。そしたらー
『だって、悠馬は口固いし誰の相談も笑わずに聞いてくれるじゃん』
と言われた。
もっとふざけたノリで返されると思ったら真面目な回答で気恥ずかしくなり、
『俺、射手座だからもしかしたらキューピッドが向いてるんだな!!』
と過去の自分を思わず射抜きたくなるような発言をしてしまった。
そこから周りの連中が俺の事を『射手座のユウ』なんて呼び出して、これまた悲しい事に当時の俺は思春期特有の病を患っておりその呼び名を受け入れてしまった。
幸いな事に高校受験を意識する前に厨二病が治りフラッシュバックを受けると同時にキューピッドを辞めたのだった。
それにキューピッドを語っていたが俺は男の話を聞いて答えただけで、全然橋渡しをしたことなど無かったのだ。何故キューピッドを名乗ったのかタイムマシンがあったら過去の自分と(拳で)語りたいものだ。
そんな過去を思い出し遠くを眺めた俺を見て結人は
「やっぱり今更だったかな……?」
と困ったような表情で聞いてきた。断る理由もないので軽く小突いて
「今更なんて聞く事自体が今更でしょうが、俺とお前の付き合いなんだから」
「ありがとう、悠馬」
さて、頑張りますか!!
と言ったもののだ、俺と三宅さんの接点など無い訳で結人に友達として紹介してもらうのが無難だが俺の立ち位置が不安定になってしまうのではないか?キューピッドを努めるなら三宅さんの友達と関係を持つのが近道だが都合良く現れてくれるだろうか。
放課後の図書室で1人作戦会議を開いていたところで
「西尾君、ちょっと良いかな?」
俺を呼ぶ声が聞こえた。
「玉井さん?どうしたの?」
彼女は同じクラスの玉井茉莉で確か三宅さんと仲の良い女子だったはずだけど俺に何の用だろうか?
「ちょっと話したい事があって……図書室だと他の人の迷惑になるから別の空き教室に行かない?」
そう言って玉井さんの後を歩き、適当な空き教室を見つけたらしく入っていき俺もそれに続いた
「さてと、玉井さん何の用?」
「西尾君、如月君と仲良いよね?」
「結人?あぁ、所謂幼馴染ってやつだけど……」
俺がメインじゃない?結人に用があるって事は……告白!?
結人は三宅さんが好きだから西尾さんの想いは届かない……でも今ここで言うのは酷な話じゃないか……
「先に言っておくけど私は如月君の事好きじゃないよ?」
「えっ?そうなの?」
良かったぁ……三角関係が生まれるところだったよ全く
「まぁ如月君絡みの話ではあるんだけど……」
結人絡み?一体何だろう?
「香織ちゃん……三宅香織ちゃんなんだけど私の幼稚園の頃からの友達で西尾君と如月君みたいな幼馴染なんだけど……」
特別仲が良いとは思ってたけど幼馴染か……俺とユイと同じか
「香織ちゃんが如月君の事、好きみたいで……」
「……ん?今何て言った?」
聞き間違いか?いや……もしかしてコレは……っ!!
「だから……香織ちゃんが如月君の事が好きでお付き合いしたいって言ってるの!!」
………来たぞコレ本気でっ!!
「来たぞコレ本気でっ!!」
「西尾君!?急にどうしたの!?」
2人が両想いだと分かり、興奮が収まらない俺は彼女の手を取って
「玉井さん!」
「は、はい!!」
「くっ付けよう!俺達で2人を!結人も三宅さんの事好きだから!!」
「うっ、うん、そうだね……西尾君?その……手、離してくれないかな……?」
「……ん?あぁ、ちょっと……イヤ、かなり興奮してた。ゴメン、俺手汗とか酷かった?」
気持ちも大分落ち着いて手を離し、彼女に聞くと
「ううん、全然ないよ大丈夫。西尾君、如月君の事大切に思ってるんだね」
「まぁ幼稚園からの付き合いだしアイツの良い所もわかるからさ」
「優しいんだね、西尾君」
「そういうんじゃないけど……2人をどうくっ付けるか考えないとなぁ」
「うーん……私と西尾君が〝友達〝になって香織ちゃんと如月君の4人で遊びに行くとか?」
「なるほど、途中から二手に別れてWデート風に持ち込むのもアリか……」
「デート!?私と西尾君が!?」
「まぁ二手に別れるならそうなるわな」
「アア、ソウデスネ」
玉井さんどうしたんだろう?驚いたと思ったら急に落ち込んで
…………あっ、そうだ
「玉井さん、連絡先交換しない?アプリのやつで」
「連絡先って私の?」
「ここに俺と玉井さんの他に人、居る?」
「……居ないけど」
「2人をくっ付ける打ち合わせとか色々したいからさ」
「……打ち合わせ以外にも連絡して良いならするけど」
「別に構わないけど、俺は話が面白い方じゃないよ?」
「別にそういうの気にしないから」
そう言った後に俺は玉井さんと連絡先の交換をした。
「連絡先も交換したし、本格的に動くのは明日以降で良い?」
「うん、話聞いてくれてありがとう」
「じゃあね、玉井さん」
「またね、西尾君」
玉井さんと別れた後の俺は浮かれていた。女子と連絡先を交換できたからではなく、先程まで悩んでいた三宅さんとの接点が生まれ、結人と三宅さんをくっ付けるサポートが出来ることに安心していたからだ。
そうー、
三宅さんの幼馴染の玉井さんがこのタイミングで俺に話しかけてきたことに対して何も疑問に思わなかったのだから
※※※※※※
「………ふぅ」
西尾君が教室から出て少し経って私、玉井茉莉は緊張から解放され軽く息を吐いた
「西尾君とこんな簡単に連絡先が交換できるなんて思わなかった……」
そんな私の呟きに反応したようにアプリの通知音が鳴った。
西尾君かと思ったが相手はあの子からで
≪どうだった?≫
と尋ねてきた
≪連絡先交換して明日から頑張っていこう、ってなったよ≫
≪なるほど、今彼と一緒にいるからいつものファミレスに来てくれる?こっちの打ち合わせもしたいし≫
≪わかった。すぐ向かう≫
そう返して私はファミレスに向かった。
ファミレスに入り店員さんと話して席を探していると
「茉莉ちゃーん」
と声のする方を見ると声の主である子と、もう1人。
声の主である子は私の幼馴染でもある三宅香織ちゃん。
そしてもう1人は――
香織ちゃんの彼氏の如月結人君だ
「香織ちゃん、如月君待った?」
「全然だよ茉莉ちゃん」
「玉井さんお疲れ様、悠馬と連絡先交換したんだって?」
「うん、2人のおかげで西尾君と話すこと出来たけど……本当にこれでいいのかなって」
「悠馬を騙してるかもしれないって事?」
「うん……」
そんな私を見て如月君は笑って
「大丈夫だよ、何も誰かに迷惑かける訳じゃないから。それにこういう状況にしないと悠馬と接点なんて出来ないよ」
「今日話して何となくそんな感じはしたけど……」
「玉井さん、好きなんでしょ?悠馬の事」
「そうだけどさ……」
そう、私こと玉井茉莉は西尾悠馬君のことが好きなんです。
きっかけは高校1年生の文化祭で私と西尾君はクラスメイトで同じ文化祭実行委員だった。
正直言って西尾君の印象は只のクラスメイトだった。だけど一緒に行動していく内に彼に色々と助けられたのだ。
といっても大きな出来事は無く、精々仕事の量を多くやってくれたり重い荷物を持ってくれたり等をしてくれただけだ。
文化祭が終わってから関わる事も無くなったが、彼の姿を目で追うようになり気付いたら好きになっていた。我ながらチョロい。
そして今年の夏休みのある日、香織ちゃんが私に報告したい事があると言われて香織ちゃんと会った。ちなみに彼女は私が西尾君の事が好きなのは知っている。
そしてその場に如月君もいて2人から付き合い始めた事を聞いたのだ。ちなみに告白したのは如月君かららしい。
香織ちゃんと如月君が付き合うと知って少しして思ったのは、西尾君の事だった。
如月君は西尾君と仲が良かった記憶がある。もしかしたらこれを機に西尾君と仲良くなれるかもしれない。そう思っていた私に香織ちゃんはとんでもない事を言い出した。
『茉莉ちゃん。私と如月君が付き合ってるのはしばらく西尾君に内緒にするから、西尾君と一緒に私達が付き合うようにサポートして?』
わからない。何故内緒にする必要があるのか?それに恋人の友達同士なら十分仲良くなれるんじゃないんだろうか?
そんな私の考えを察したの如月君は困ったような顔をして
『悠馬は玉井さんの考えてるよりもよっぽど面倒臭いよ?』
如月君は続けて
『悠馬は恋人の友達だからって特別仲良くしようとか思わないし、それだったら1つの事を一緒に取り組みながらアプローチなりをする方が良いよ』
と言ってきた。
それを了承した後、如月君が『きっかけは僕が作って準備できたら連絡するから待ってて』と言ってきてから今日連絡が来たので西尾君に話しかけたが、実際話してみて如月君の言う通りだったかもしれない。
「ねぇ、明日からどうするの?」
香織ちゃんが聞いてきた。西尾君は明日から動くと言っていたがどうするんだろう?
如月君を見てみると
「朝早くに3人で集まって話そう」
「それだけでいいの?」
香織ちゃんがそう答えると如月君は続けて
「今の悠馬はちょっとおバカな状態だから僕と三宅さんと玉井さんがいると勘違いするんだよ、主に玉井さんにかな?」
「えっ?どういう事?」
急に私の名前が出てきて訳がわからない。それに如月君、西尾君相手だと結構毒舌気味?になるのね……
「昨日友達になったんでしょ?その玉井さんがいると多分こう思うんだよ、『2人をくっ付ける為に動いてるだな、よし自分も頑張るぞ』って思うから大丈夫だよ」
「そこまで分かるの……!?」
「幼馴染だからね、付き合い長いしさっきも言った通り今の悠馬はおバカだから考えも分かりやすいんだよね」
「そうなんだ……」
「まぁとりあえず明日になればわかるよ」
そう締め括って私は如月君達と解散した。
正直不安だけどここまで頑張ってくれた2人の為に、そして私自身の為にもこの機会を逃したくない。
「明日から私も動かないと!!」
私は1人で決意を新たにして今日という濃い1日を終えた。
※※※※※※
玉井さんを得た翌日、教室に入った俺は驚いた。
結人、三宅さん、そして玉井の3人がいたからだ。
俺は玉井さんに感動した。結人と三宅さんの2人をくっ付ける為にこんなに頑張ってるなんて……っ!!
まるで運命を感じる展開に人知れず感動していると
「悠馬、おはよー」
「おはよう、西尾君」
「西尾君、おはよっ!」
結人が声を掛け、それに合わせて三宅さん、玉井さんの2人も声を掛けてきた。
「おー、おはよう」
結人と三宅さんは両想い、だがボタン1つ掛け違うだけで失敗するかもしれない。
玉井さんを見ると熱い視線を向けて来た。彼女のやる気を受け取り、俺は行動を起こした。
「なー結人、ちょっと次の休み男2人で買い物をと思ったんだけど……もし良かったら三宅さんと玉井さんも一緒に行かない?」
結果を言うとOKを貰えた。後は玉井さんと打ち合わせをして結人と三宅さんの仲を進展させるだけだ。
絶対に成功させる。3人の思惑など全く知らない俺は強く思うのだった。
ー俺が本当の事実を知り、彼女の想いに気付くのは別の話ー
最後まで読んで頂きありがとうございます。
書いて置いてアレですが、好き嫌いの激しい内容かもしれません(笑)