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玉座の上のシルキー・ヴァニーユ 3


 日が沈むと同時に雨になりました。

 雨足は速く、時折ざっと強く振ります。雲の合間に雷が光るのが、城の窓からも見えました。と。

 どどーん!

 地面も揺るがすあまりの大きな音に、ミエール女王は思わずソファから飛び上がり、音源と思しきベランダに出てみました。さあ、何があったと思います?

 なんと金の鎧に身を固めた大男ですよ。水牛の角のついた異形で、ベランダにつっぷしています。

 皆様おわかりでしょうがこれは……空の旅が終わった悪魔将軍、アナナスです。蹴り飛ばされた着地点が、ビスクヘルムのお城まで到達したらしいです。

 ミエールは折れた手すりと、水牛様の角で擦った跡のついた壁と、砕け散った植木鉢を順に眺め、最後に、プルプルしながら起き上がろうとするアナナスを、口の開いた呆れ顔で眺めました。

 粉塵まみれのアナナスも、ようやくその視線に気づいたようです。

 思わず見つめ合う瞳と瞳。

「……どうも、雷です」

「……随分といかめしい雷様ね?」

 無茶な会話の気もしますが。

 部屋の外に足音がやってきて、ノックをしました。

「失礼します。女王陛下。物音がいたしましたが、大事ないでしょうか。ちなみに、階下まで響く轟音でした」

「ええ大丈夫よ、軍隊長……私は、ね。でもお客様がいるの。お茶の用意をするように侍従長に言って頂戴。二人分ね」

 人間どもの様子を見ていたアナナスに、ミエールはお入りなさい、と声をかけました。

「このままでは風邪ひいちゃうでしょ」

 小糠雨は、まだ続いています。

 とりあえず、不審者として取り押さえられる事は無い様子。よ、よし。なんとか誤魔化せたようだな。

 あまりの衝撃に脳みそ攪拌されるかと思いましたが、ここが人間の町だと気づいたという事は、どうやらおつむは無事のようです。

 さらに、しでかした破損事故を咄嗟に誤魔化してしまいましたが、どうやらここは城らしい事を考えると、これは、案外うまいことをしたかもしれません。

 アナナスは少し迷いましたが、自分の演技(?)に自信を持ったのか、招かれる事にしました。

 お邪魔した部屋の中はふわりとした暖かい空気が満ちていました。ついキョロキョロ、物珍しげに眺めてしまいます。

 クリーム色の壁紙や、赤に近い、濃いピンクのカーテンなどに柔らかい光が当てられています。魔界では見ない雰囲気です。落ち着いた、優しい空気です。

 おお、おなごの部屋だな……

「急な雨になったと思ったら、雷まで降るなんて」

 救急箱を抱えて戻ってきたミエールの声に、不埒な考えに及びそうだったアナナスは慌てて咳払いをしてみせました。

「ん、む。雨で足元を滑らせてな。雲から落ちてきてしまった」

「どうぞ、かけて」

「む、かたじけない」

 お義理程度にマントの泥を払い、小さなテーブルに向かい合って座ります。ミエール女王お手ずから、救急箱をあけて消毒液を取り出しました。

「手と、頬っぺくらいかしら。体の擦り傷は手当てできるからやってしまいましょう。あとは布と油の仕事ね。頑丈な鎧だこと。天から落ちても壊れないなんて。ちょっとこっちを向いて……しみる?」

「いや、平気である。そういえば、ここは」

「ビスクヘルムという国よ。そのお城」

 やっぱりそうか、とアナナスはこっそり頷きました。

 天からとはいいませんが、えらい距離を飛んできたのは確かなようです。魔王め、思いっきりやりやがって。

 キックを入れられた臀部が実は一番痛いのですが、理由としても状況としても、そこは言えません。

「では、そなたがミエールか」

「あらまあ。天の住人までが私の名前を知っているなんて。ええそうよ、ミエール・ビスク」

 名乗ったミエールはニッコリと微笑みました。

 確かに、美しい。

 アナナスもそこは認めないわけではありません。魔界でも恐れられる悪魔将軍も、天下の美女に間近に居てそっと触れられれば、どぎまぎしながら神妙に縮こまってしまいます。

 むしろここは見るからに怖いアナナスに、普通に接しているミエールの肝を賞賛するべきでしょうか……怯えた様子も無く、擦り傷にペタペタとガーゼを貼り、最後に鼻の頭に絆創膏を乗せて、そのまましばらく、じっとアナナスの頭頂部を見つめていました。

 角を眺めているようです。なにしろ、金属には見えませんから。衣装なのか本物なのか判りかねますしね。

 夕食も済んで自室で寛いでいたのでしょう、ミエールはゆったりとしたエンパイアのワンピースに軽くガウンを羽織っただけの姿でした。

 体勢からして、四角く開いた襟元が、アナナスのすぐ目の前に来てしまいます。これは。うむ。刺激的。

 アナナス、思わず小鼻を膨らませ、こっそり大きく息を吸っていましたが

「……うん。さ、終わり」

 声と共に離れていく胸元に釣られて少し顎を突き出し……我に返り姿勢を正しました。

「ん。おう」

 本当ならありがとう、と言うところですけれどね。魔族には馴染みの薄い言葉です。

 ごにょごにょと言葉を噛んだアナナスに、気にした様子もなく薬箱の蓋をして、ミエールは尋ねました。

「それで? あなたのお名前は? 雷様」

「……ん、え?」

「雷様って名前ではないんでしょう?」

「ああ。アナナスである」

 言った後に気がつきました。答える必要はなかったのに、ばっちり本名です。

 正直者だから仕方が無いですけれど、なんだか手玉に取られているようで面白くありません。

 こいつめ。ナメてかかりおって。目にもの見せてくれる。

 逆恨み的憤りに、アナナス一人でリキんでいたところ、ノックの音がしてメイドさんたちがワゴンを押して入ってきました。

 見慣れない客の姿にも何も言わず、軽いお茶の準備を整えて一礼して出て行きます。皆、実によく訓練されていますね。

 湯気を立てる紅茶に、プチフールが添えられていました。砂糖漬けのスミレが一輪乗った、白いケーキです。

「いただきましょう。お茶の冷めないうちに」

 薦められて、毒気の抜かれたアナナスは、ちんまりと出された愛らしいそれをそっと摘んで口にしました。

「……んむ」

 とたんに広がる、とろけるような甘みと、中に挟んでいた爽やかなジャムの味。

 これは……

 深く息をついて、思いがけず、自分がリラックスしている事に気がつきました。

 魔王が甘味にこだわる気持ちが、なんとなく解る気がします。至福とはこういうものなのか。口の中をスッキリとした紅茶で洗い流し、この幸せは完了します。

「美味い」

 ボソリと呟くと、ニコニコ顔のミエールと目があいました。

 嬉しそうな、得意そうな。お相伴相手が喫茶を楽しむ様子を、喜んでくれる純粋な気持ちが手に取るように解り、そのため……困惑しました。

 だって。悪魔将軍はそんな気持ちなんて無縁の世界に生きてきたのです。なんだか気恥ずかしい。人間の思考に同調できた自分が、急に世間知らずの乙女にでもなったかのような錯覚を覚えたのです。

 なんたることだ。我は魔界の大将であるぞ。悪の心はどこにいった。

 ティーカップを握り締め、ぐるぐると思考を巡らせ自分を取り戻そうと頑張ったアナナスは、もう一口飲んだお茶に含みました。

 このままでは帰れない。このままでは。

 真剣な顔でしばらく黙り、それから、やおら明るく話しはじめました。

「いやあ、人の城に来るなんて滅多にない経験。珍しいものもいっぱいあるんだろうから、いろいろ見てみたいなー、お城と言えば兵隊さんも多いんだろうなー、強いのかなー?」

 ここは悪者らしく、姑息な手段に出てみよう。そうアナナスは考えたようです。

 どうやら人間の状況を知るべく、偵察活動を始めるつもりのようですね。

 惜しむらくは、もっと自分の性格を理解して無理のないキャラで当たるべきだったと言う事です。ご覧のとおり、とっても大根なんです。

「あらイヤだ、お茶の席でそんな話」

 ミエールは朗らかに笑いました。

「魔物も出るからねえ。対策できる程度は頑張ってるけれど、まあ、普通よ。普通。それより、魔界はどうなの? もう軍備は整った? いつ頃攻めて来る気?」

「いやいや! そこだ! 軍はいつでもいいんだが、肝心の総大将がだな! もう全然やる気がなくって。こっちだって毎日仕事頑張ってるのに、そりゃあ腹もたつというものだ! ここまで兵力整えるの大変だったんだぞ、無駄なのか。無駄にする気か。お前魔王だぞしっかりしろ! て、今日もケンカしてしまってだなこれが」

 ガハハと笑ったポーズで、アナナスは固まりました。

 ……あれっ?

 何でこっちが内情を言わされているんでしょう。されているというより、溜まった鬱憤がつつかれて飛び出した感じですけれど。

「そっかぁ」

 あくまでミエールはニコニコと聞いています。

 ば、馬鹿にしやがって。

 恥ずかしさは簡単に怒りに転化されました。涼しい顔して人を誘導尋問にかける女王にもですが、あっさり情報を吐いた自分にもです。

 くそ、やはり小手先はいかん。正攻法が一番だ。

 頑固一徹肉体派アナナス、やっとそこに戻ってきました。

 だいたい魔族と人間が仲良くお茶しておるのがおかしいのだ。まさしくこんな茶番、叩き壊してやる。いや、茶の席だけではない、こんな城ふっ飛ばしてやる。元々そちらのほうが得意なのだ。何のためらいがあろうか、悪魔将軍の恐ろしさ、思い知らせてやれば良いのだ。

 決意をみなぎらせたアナナスは、行動を起こす前にふと思い出し……手にしていた紅茶を飲み干しました。美味しい。

「……おのれ、たばかりおって人間め」

 一息ついたアナナスは怒りを揺らめかせて言いました。たばかったというか……すごく、自爆っぽいんですけれどね。

「そうだ。バカを見るのはお前の方だぞ、人間の女王。由緒正しき魔界の将、このアナナス様を前に、舐めた態度をみせたその過ち。泣いて許しを請うても取り返しのつかない失態である」

 重々しい声を作っておもむろに立ち上がってみせます。泣く子も黙り、舐めた態度の親が泣き出すはずの悪魔将軍の威圧感、たっぷり出しながら。

 が、しかし、相手の動きに従ってゆっくり見上げるその所作で、ミエールはまだ笑顔を保っていました。無害で無力で細身に見える人間なのに、落ち着き払って。

 なんだ? 名乗りまで上げたというのに、まさか今のセリフの意味がわかってないボンクラなのではあるまいな。

 アナナスはここでちょっとだけ違和感と、そして不気味さを覚えました。

 その不気味さを抑えるために、より語気を荒げて言葉を重ねます。

「人の平和はここで終わるのだぞ。我が力は街を焼き払うに充分である。反撃も絶望すらも感じる間もなく地獄に迎え入れてやろう」

「いいえ反撃はあるわ。勇者が阻止するもの」

 なんと、ミエールは怖がらないだけでなく、この脅しを豪胆にも打ち返してきました。流れるような声音で、勇者の威光を口にして。

「勇者だと!」

 アナナスはそれを大きく笑い飛ばします。

「ぶあっはっは! 未だ見ぬ勇者など、何を恐れるに値するものか。知っておるぞ、あの町中にいる勇者はニセモノだとな。ただの観光案内人でしかない事など、とっくにお見通しだ!」

 ミエールもゆっくりと立ち上がりました。テーブルを挟んで、二人は向き合います。大男は見下ろし、女王は見上げていました。二人の間に立ち上る湯気が、少しずつ薄くなっていきます。

「三百年前の戦いが熾烈だった事、よく判るわね。人も魔も、互いを見失うほど共に深手だったと。でも魔王はやっぱり今もいる。こちらも、いつでも受けて立つわ」

「烏合の衆に何ができる。さあ、お喋りは終わりだ人間の女王。まずはお前を攫い、人間への宣戦布告に代えてくれよう」

 随分な事を言われていると思うのですが、本当に怖くないんでしょうか……?

 泥まみれな事もすっかり忘れ、マントをふりさばいて大見得をきったアナナスでしたが、ミエールはそれも相手にしませんでした。悠々と背を向けて、マントルピースに向かいます。

 今は火を入れていないマントルピースの上には、壁に取り付けられて一振りの剣が飾られています。

 その剣に手を伸ばしながら、朗々と語り始めました。

「昔、むかし。勇者は魔王と戦い、これを打ち負かしました」

 勇者の物語ですね。でも、何を言うつもりなんでしょうか。

「平和になった世界に立って、勇者は言いました。『恐ろしい相手だった。今は青い空を取り戻したが、またいつ魔王が復活してくるか判らない。私はここに残ろう。魔王と魔族の監視を続け、人々を守ろう』……そうして、魔王が逃げ帰った三角山の近くに滞在することにしました」

 どうやら、魔王を倒した後の勇者の話のようです。三角山の近くという事は……この辺りでしょうね。

「住居は砦にするために堅牢に作りました。世界は勇者を賞賛しました。勇者の称号を頂く者は栄誉を持って迎えられ、砦は城になりました。世界は勇者をこの地の王と認めたのです。その下に人が集まって街になり、国が出来ました。王となった勇者はその際、こう宣言しました……『私に王冠は要らぬ。剣に生きる者の王冠とは、この兜である』……そうして、この国の王の冠は兜となり、首都はビスクヘルムと呼ばれるようになりました」

 ビスクヘルムの起こりのようです。なるほど。

 ということは、つまり。

「……つまり」

 ミエールは振り返りました。柄と、鞘の腹をゆるく握って、ニッコリ微笑みます。

「私が勇者なの」

 そうですね。こちらも改めてご紹介します。

 ビスクヘルムの白い薔薇、そう称される女王様は同時に、十五代目勇者、ミエール・ビスクでもありました。

 この国は、勇者の末裔が代々王を務める国だったのです。そういえば、ここの王家の紋章は兜でしたね。

「……なんと」

 本当か? とアナナスは女王を見ましたが、彼女は悠然として引きません。

 驚いたことに、嘘ではないようです。本当か、ならば。

「これなら、勇者を倒すのも簡単なようだな。そなたをここで屠ってしまえば、おのずとこの世は魔の手に落ちるということか、ふわははは! 残念だったな美しい女王、どうも長生きできない運命だったらしい」

「さあ? あなたがここでやられちゃう可能性だってあるんじゃないの?」

 あまりに動じない女王に、ようやくアナナスの方が少しだけたじろぎました。

「ばかな。わしは悪魔将軍だぞ。そうやすやすとやられたりせぬわ」

「あら、私も勇者よ。同じ言葉をお返しするわね。それにほら、これは勇者の剣」

「なに」

「追い詰められたのはどっちかしら」

 誇らしげな笑顔で剣を掲げるミエールは小首を傾げてみせました。

「信じられないって顔してるわね」

「そなたが勇者であるところからな。本物の勇者で本物の勇者の剣であるならば、我の体にも剣先くらいは届こう。そうでなければ、かすり傷ひとつ負わんぞ」

「じゃあやってみましょうか」

 言い終えると同時、ミエールは深く踏み込みました。鞘は打ち捨てながらの、鋭い突きです。早い! アナナスは一瞬の後、ようやく感想が浮かびました。

 普段より剣を握っている者の動きです。確かに素人ではありません、大人しく攫われ役をやる姫君などではなかったようです。

 それでも、とアナナスは思いました。魔界随一を誇るこの鎧、この体力。一撃で倒せるような事はまずありません。最初の一手は譲っても、続く反撃が重いスタイルです。

 反射的に突き出した腕の間をすり抜けてきて、剣は兜に当たりました。ガッ、と鈍い振動が頭部から伝わります。

 その一撃だけで、女王はすぐに身を引きました。長いワンピースの裾がふわりと揺れます。

 甘い甘い。やはり女よ。

 すぐに打ち込んでくるわけでもなくじっと様子を見る女王に、アナナスはほくそ笑みました。

 さあ。次はこちらからです。

「ふ、どうした勇者を名乗る者、それでは到底我は倒せん。そのような攻撃、痛くも痒くも」

 勝ち誇ったアナナスが笑い声を上げようとした時、ピシリ、という小さな音が耳に届きました。

 何の音なのか判然とする前に、答えは落ちてきました。

 絨毯の上に、いかにも重そうにゴロリと転がったのは、角です。

 立派に伸びた角、アナナスの頭の上に強そうに広がっていた、あの、自慢の角!

 アナナスは息を呑みました。


 再び、ノックが聞こえます。

「女王陛下」

「ええ。大丈夫よ軍隊長。お入り」

 悲鳴を上げてガラス戸をぶち破り、嵐の空に逃げていったアナナスを見送っていたミエールは扉の方へ返事をしました。そりゃまあ、あれだけ派手な音を立てたら心配しますよねえ。

「ここ、片付けるように手配して。私、今日は客間で寝なきゃいけないみたいね。そっちもお願いするわ」

 雨風の吹きぬけてくる窓辺に、やれやれ脅かしすぎたかしらと頭を振ります。

 角に入っていたヒビをめがけて、ちょっと刃を打ち込んだのですけれど、思ったより綺麗に割れてしまいました。

 そう、元々ヒビが入ってたんですよ。二回も落下時にぶち当てたおかげで、可愛そうな事になっていたようです。そういえば、折れた角は見当たりません。動転しながらも、持って帰ったのでしょう。

 ミエールは刃毀れの様子を確かめました。硬い角だこと。二撃目は危なかったかもしれない。

「どうしましょう。今日はなんとかなったけど、勇者の剣って、ここに置いておくべきかしら……宝物殿じゃなくて」

 肩を竦め、傷んだ飾りの剣を壁に戻して、お休みのために部屋を後にしました。


 魔界の少ない甘味はヨミアカリ。

 リンゴに似た赤い実で、リンゴに似た味がします。ただし、中まで赤い色です。

 しゃくしゃくと果実を咀嚼していたヴァニーユの前に、ヌガーは膝をつきました。

「アナナス将軍、お戻りのようです」

「そうか」

 ヴァニーユは手を伸ばして、タマトリドリの尻尾を掴んでポイと放り投げました。

 魔王様が口をつけた、その反対側から隠れて齧ろうとしていたようです。お前はドーナツ食べただろうに。

「自室に篭っているようです。負傷のため、しばらく療養するとの事でした」

「そうか」

 ヴァニーユは鷹揚に答えました。

 おやつを食べている今、他の事はどうでもいい事です。果汁に濡れた唇を舌で拭って、それで、それ以上は追求しませんでした。


 魔界の鍛冶屋がコッソリと呼ばれました。

「鉄の輪を巻いて繋げてしまいましょう」

 折れた角を見せると、一つ目魔物の鍛冶屋はそう言いました。

「それで元に戻るでしょう」

「ならそれで頼む」

 アナナスは意気消沈しています。角のサイズを測ろうと物差しを取り出した鍛冶屋の横で、大人しく座り込み溜息などついていましたが

「ふあぁぁ!!」

 と、不意にすっ頓狂な声を出して身を起こしました。

「うわあぉ、驚いた! どうしました将軍様」

「ぬ、む、いや、何でも……なんでもないわ!」

 何故か後半は怒り気味に叫んだりしています。照れ隠しです。実は思い出した事があったのです。

 とてもどうでも良く……そして、知っていれば嬉しい情報です。

「ピンク……今日、あの女、ピンクだったんだな、そういえば」

 魔界の夜も、ゆっくりと更けていきます。


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