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毒操師  作者: まあす
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暗殺者④

「緋殿が近衛騎士団の顧問を拝命された今も尚、陛下が次代について言及されることはなく、他の派閥からは緋殿をどう使いこなすか試されているだの、陛下と不仲になった緋殿を払い下げられただのと噂されている.....」


サイクレスは静かな口調のままそう忌々しげに呟くと、嫌な記憶でも蘇ったのか奥歯を噛みしめている。


毒操師、緋は永きに渡りアドルフ王の懐刀だった。


属することを嫌う毒操師の中で、緋の行動は異色ではあったが、建国間もないエナル皇国の平穏と秩序に大いに貢献したとも言われている。


なぜなら毒操師は薬師としても優秀だったからだ。


商業国家時代、医療および薬品は富めるものだけに許された特権であり、平民は病気を罹っても高額で一般に出回らない薬品を手に入れることは出来ず、効果の程のわからない民間療法でしのぐ他なかった。

特に伝染病などは自然に治まるのを待つのみで、発生の度に甚大な被害を被っていたのだ。


緋はこの現状を改善すべくアドルフ王に進言。莫大な研究費用を確保すると次々と新薬を開発し、ただ同然の値段で民間へと普及させたのである。


また止血薬および炎症や壊死の緩和薬、果ては痛みを和らげる鎮痛薬など怪我に対処する治療薬の開発にも尽力し、職場復帰する兵士を格段に増やしたばかりか、負傷を苦に自ら命を絶つ者も激減させるに至った。


建国から数年、緋は国中にその功績を讃えられる最上級の毒操師として名を馳せたのだ。


その緋がジュセフが統括する近衛騎士団付きの顧問毒操師となったのだ。当初はアドルフ王はジュセフを買っているのだと誰しもが思った。


しかし一方で、毒操師緋とアドルフ王が疎遠になっていたのも事実。


毒を操る緋は、アドルフ王の陰の部分も担っていた。


騎馬民族を指揮するアドルフが卓越した統率力と軍事力を有していたことに間違いはないが、巧妙で抜け目のない商人たちだ。それだけで屈する程甘くはない。

進軍と時を同じくして、商業議会の重鎮たちの相次ぐ不審死、もの狂いは決して偶然ではない。


緋は今日のエナルを築き上げた間違いない立役者であり、激動の時代、商人たちへ恐怖政治を敷く楔でもあったのだ。


しかし、平和になった今の世に毒を自在に操れる能力は国、そして民たちに強すぎた。

賢王との誉れも高くなったアドルフに、毒と薬の両方を意のままに操る緋は不要、ともすれば有害ともなり得る。


商人たちを平定し、平和と秩序がもたらされたエナルにもう毒薬は必要ない。健やかに暮らせる良薬があれば十分だと。


国が安定した今、アドルフ王の側近としての緋の役割は終わっていたのである。


「なるほど、そのお払い箱となった先が近衛騎士団だと」


「心無い連中はそう言っている」


サイクレスは眉間だけでなく、鼻の頭にも皺を寄せて呻く。お茶の効力もすっかり消えてしまったようだ。


蒼は簡素な急須から新たにお茶を注ぎ足す。


「しかし、幾ら役目が終わったからといって、そんな特異な存在を普通は側から離さないでしょう。実際近衛への派遣は他の派閥への大きな牽制になったはず」


悪どい商人たちを抑えていた存在だ。大々的に近衛騎士団付きにしたと広まれば、皇王の近辺が手薄になったと反乱を起こす輩も出現しかねない。


だが緋が近衛付顧問なことは、同じ毒操師の蒼でなくても一般に広く知れ渡っている。


「だからこそ、ジュセフ様を試しているとの声もある」


実際ジュセフは緋の存在を上手く活用していた。


内部の強化は勿論、その存在を広めることで内外への牽制とし、見事にその効力を利用したのだ。

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